有明の風

聞こえてますか?

僕が育った有明海は、

毎年の台風を避けては

通れない海でした。

風が吹くと父は、

海を見に行きました。

時化た海上の船が

心配だからです。

暴風雨ともなれば

陸(おか)に船を上げて

備えます。

台風一過、

父は決まって

船底の掃除を

命じます。

大切な休日も

台無しです。

風の行方が

肝心な投網では、

その野生的な眼力で

魚の群れを捉えます。

櫓を漕ぐ僕は、

風が読めずに

しくじります。

風の日に

僕が備えていたのは、

潮の流れと

父の命令でした。

有明の風に感謝して

また、明日。

兜島 後編

聞こえてますか?

昨日の続き…。

漁師が兜島で鮫を見た!

と云う噂が流れました。

怖さに勝る探究心は、

僕らの特権で

行動を起こすには

充分な案件でした。

真相を確かめるべく

投網と鉾を携え

「いざ 鮫退治に出陣!」

と威勢良く兜島へ舵を

切った迄は良かった

のですが、

待てど暮らせど

お目当の鮫は、

出て来てはくれません。

すっかり飽きてしまった

僕らは、

いつもの

カサゴ釣りに切り替える

のですが、

これが

全く釣れません。

鮫にもカサゴにも

振られた僕らは、

坊主のまま兜島を

後にするのでした。

海の恵みに感謝して

また、明日。

兜島 前編

聞こえてますか?

地球の衛星

月のように

僕が育った戸馳島にも

小さな島が連れ添うように

浮かんでいます。

鎧兜の兜に似ている事から

名付けられた兜島。

天然記念だったカブト蟹が

発見された事もあり、

カブト蟹のカブト島

とも呼ばれていました。

そんなある日の事。

漁師が兜島で鮫を見た!

と云う噂が流れました…続く。

月のような島に感謝して

また、明日。

アベベ 四番

聞こえてますか?

昨日の続き…。

「アベベば見てみろ!」

「アベベは裸足ぞ!」

と父親が言いました。

アベベって誰…?

殴られて出来た

口の中の傷は、

鉄の味がしました。

後になって知る誰?の謎。

アベベとは、

42.195キロを

裸足で走ったオリンピック

金メダリスト。

だけど、走る事を辞めた

本当の理由は、

asicsのシューズでは

ありません。

ボロボロで帰って来た僕に

あなたは、「食べなっせ」と

トンカツを差し出しました。

家族に感謝して

また、明日。

アベベ 三番

聞こえてますか?

昨日の続き…。

それから僕は、

走る事を

辞めてしまいました。

父親が訪ねます。

「今日は走らんとか?」

僕は考えた挙句

「asicsのシューズが 無いと走らん」

と物の

せいにしてしまいます。

一瞬の出来事でした。

小学四年生の体は、

軽々と空に舞い

玄関先に転がると

今一度抱えられ今度は、

外に放り出されます。

逆さ吊りから振り回され

再び投げられます。

拳を喰らわせながら

「アベベば見てみろ!」

「アベベは裸足ぞ!」

と父親が言いました…続く。

殴られた事に感謝して

また、明日。

 

アベベ 二番

聞こえてますか?

昨日の続き…。

けれど、

一年が経ち

二年が過ぎた三年目

変化が起きました。

朝晩の練習が

嫌になり始めていた中で

年に一度のマラソン大会が

やって来ます。

その大会で僕は、

負けてしまいました。

昨日の晩ごはん

「勝つために」と

験を担いでトンカツを

作ってくれたのに…。

画用紙で造られた

二等のメダルを見せるのが

とても嫌でした。

それから僕は、

走る事を

辞めてしまいました…続く。

期待してくれた事に感謝して

また、明日。

アベベ 一番

聞こえてますか?

僕は、

物覚えが悪く

教えられても中々上手く

出来ない子供でした。

それでもあなたは、

持久走だけは

褒めてくれましたね。

はじめて一等賞を獲った

マラソン大会。

夜のご馳走が忘れられず

自発的に練習を始めました。

お肉は我が家の祝い日です。

けれど、

一年が経ち

二年が過ぎた三年目

変化が起きました…続く。

褒めてくれた事に感謝して

また、明日。

gala

聞こえてますか?

普段たいして

忙しくもない僕ですが

夏のLIVEとALBUMリリース

を前にして、

珍しく日程の

詰まった生活を送っています。

1996年。

事務所の壁に掛けられた

ホワイトボード。

デビュー当時こそは、

黒文字で埋まったスケジュール。

次第に白くなって行きました。

2017年。

昔の自分がいたから今がある。

そう言って励ましてくれた

人がいました。

♪ 声に変わる愛は

言葉が掠れてしまう

ふたり交わすキスも

ぎこちない夜の中

ガラスに触れた冷たさ

壊さぬように抱きしめ

まるで初めてのように

君に溺れてた

天使よりもシャイな瞳

I just fall with gala 翼を広げて

天使よりもシャイなキスで

I just fall with gala 夢が覚める前に

歌詞 galaより

あの日に感謝して

また、明日。

ビリージョエルを聴きながら

聞こえてますか?

それは、

雨の日の事でした。

東京で一番高い建物は、

夕方からの大雨でかなり

空いていました。

関東平野を一望出来る筈の

その場所は、

人も疎らで

夜の闇に散りばめられた

銀色の線だけを

描き出していました。

雨粒が窓硝子を叩く間に

僕らは夢の話をします。

そして、雨が止んだ頃に

ひとつのイヤホンで

ビリージョエルを聴きました。

♪ Some folks like to get away take a holiday from the neigborhood Hop a flight to miami beach or hollywood.

Im taking a greyhound on the hudson river line- Im in a new york state of mind.

歌詞NYの想いより

ビリージョエルに感謝して

また、明日。

長靴

聞こえてますか?

関東に梅雨入りが発表されて

暫く経ちました。

空梅雨と云われる今季。

梅雨の晴れ間と

テレビ番組でも報じる中

僕は、六月の故郷を

思い返していました。

子供の足で片道一時間。

僕が育った島の一番高い所に

小学校がありました。

雨が変えた灰色の海を

右手に見ながら出発。

装備は、白いレインコートと

ランドセルに被せる

黄色いカッパ。

それと梅雨には

欠かせない紺色の長靴。

海を後にして名前も分からない

池を横切り山路へと向かいます。

昨晩出来たのであろう

自然に出来た川を見つけては、

ダムを造りました。

そして

笹舟を作って浮かばせます。

大きな里芋の葉を見つけたら

雨粒を垂らします。

コロコロと転がる

水玉の様子が好きでした。

もう既に長靴の中は、

雨水でピチャピチャと音を

立てています。

歩き方を変えたら

また違う

擬音が聴こえたりしました。

学校に着いたら先ず

長靴を逆さにして雨水を

捨てて乾かします。

帰り道に備えるために。

退屈だった学校の登下校。

梅雨のおかげで少し愉しみを

見つけた気がしていました。

六月の雨に感謝して

また、明日。