汚れなき愛を信じて 20話 「男と女」中編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そのボディーブローのように
繰り返えされる
彼女の男たちの話は
後に堪えるものでした。

何より彼女の理想の男性は、
ガッチリとした男らしい人…
大のプロレスファンで
あるのでした。
「三沢チョプ」などと言いながら
ふざけて来ます。
?であります。
「アハハ」と笑う他ありません。
知らないのです。
観て来なかったのです。
彼女が言いました。
「三沢光晴が私のタイプ!」
ダウンです。
相手はタイガーマスクです。
伊達直人であります。
敵う相手ではありません。
僕とはあまりにも真逆。
よくもまあ いけしゃあしゃあと
そんな事が言えたもの
であります。

哀しい予感はいつも隣合わせ。
余裕を持たない心は、
焦りを生んでしまいます。
それは彼女にと言うよりも
自分に問いかけた時に
来るものに似ていました。
「お前は何者?」
僕はいつもその厚い壁の前で
それを突きつけられ
膝を屈します。
だけどね!…。
その先が言えない自分に
苛立ちを覚えるのでした…続く。

その壁に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 19話 「男と女」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
哀しい予感は、
いつだって現実となって
やって来る。
いつか彼女を失う…。
僕はそう
感じはじめていました。

女という生きものは、
どうして昔の話を
したがるのでしょう。
その目で、伺い盗むように…。
まるで、愉しむかのように…。
男の様子を確認したがる
のは何故でしょう。
時には、
値踏みをするように…。
そして、
不安を鎮めるかのように…。

僕にしてみたら前のことなど
関係のないことなのに。
それは繰り返えされる踏み絵
のように続きます。
黙って聞いているのが一番です。
地雷は何処に転がっているか
分かりません。
だから僕は、
決してその手には
乗らないのです。
それよりも
これからのことが大事でした。

彼女の周りには、
世にいうジェントルマン
富と名声を持った男たちが
取り巻いていました。
様々なカタチで
落としにかかって来る
いわば敵であります。
心配でない訳がありません。
それを聞かされる僕は、
たまったものでは
なかったのです。
そのボディーブローのように
繰り返えされる
彼女の男たちの話は
後に堪えるものでした…続く。

今日に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 18話 「哀しい予感」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
富を持つ者と持たない者。
夢しか持ち合わせていない
男は悩みます。
価値はお金では測れないと
分かっていながらも
現実は厄介でありました。
時は考える隙を
与えてはくれません。
時は僕を
待ってはくれませんでした。

錦糸町のCLUB歌手を
生業にしていた当時の
僕のギャランティーは、
手取りで15万円足らず…。
草臥れた中古車に
腹一杯油(ガソリン)を
呑ませる事の出来ない
所以でもありました。

いつの間にか
大きいものは彼女
小さいものを僕
という勘定の図式が
出来上がりつっありました。
どうしても引け目を感じて
しまいます。
甲斐性はなくとも
肥後ノ国で生まれた
九州男児であります。
いくら歌で繋がっている
からとは云え
言ってもこう毎回では
男が廃るのです。

だけれど、
店を出る時に差し出される
勘定と自身の財布の中身を見て
沈黙せざるを得ない
己を知るのでした。

このままではいけない…。
僕は漠然とした
不安を抱えていました。
哀しい予感は、
いつだって現実となって
やって来る。
いつか彼女を失う…。
僕はそう
感じはじめていました…続く。

その経験に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 17話 「哀しい予感」中編

昨日の続き…。
赤いのれんをくぐって
店を出た僕らは、
家路をたどります。
彼女が夜風を愉しむように
歩き出しました。
僕は先を行く彼女を
追いかけているのでした。

彼女がお金を支払う時に
小銭を探す仕草を見た
記憶がありません。
大抵が札でありました。
とはいえ大雑把な性格
でもないのです。

月末ともなれば、
勤務先のCLUBから
支払われる対価
彼女はそれを「お給料」と
呼んでいました。
たわいもないことだけれど
「お」を使うだけでも
印象はだいぶん違うものです。
彼女はそのお金という価値
即ち怖さを知っているかの
ようでした。

女手一つで育ててくれた
お母さんを見ていたから
なのかも知れません。
自分が投資に値すると
決めたものには、惜しみなく
その価値を投じました。
それは、
彼女の心に触れるもの
に限っていました。
だから彼女がその価値を
大切にしていることが
僕には分かるのです。
その言葉の端々に出てくる
彼女の謙虚さが
物語っていました。
そんな彼女の姿勢の良さが
僕は好きでした。
でも…。

富を持つ者と持たない者。
夢しか持ち合わせていない
男は悩みます。
価値はお金では測れないと
分かっていながらも
現実は厄介でありました。
時は考える隙を
与えてはくれません。
時は僕を待っては
くれませんでした…続く。

その価値に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 16話 「哀しい予感」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
気分を良くした彼女が
それから向った先は、
その銭湯の向かいにある
仲良しと書かれた看板の
昔ながらのもんじゃ屋さん。
彼女は生粋の江戸っ子で
ありました。

風呂上がりには、
瓶ビールと摘み。
海鮮バーターと
ねぎバーターが
彼女のお好みでした。
そして締めにはもんじゃ。
これが僕らの定番でありました。

生まれて初めて
もんじゃを食べたのが
ここでした。
見た目のその
独特な装いに反して
小さなステンレス製のへらを
使って食べるそれは、
とても美味しいものでした。
彼女は先ず円を描くように
その食材で土手を作り
仕上げにベビースターラーメン
(乾燥お菓子タイプ)を潰し
パラパラとふりかけました。
コレがまた、
この江戸っ子フードの味を
より良く際立たせ
芯を少しだけ残したそれは、
もんじゃを
完璧なものにしました。

風呂上がりのほろ酔いは、
二人の距離をぐっと
近くするようです。
だけれど僕は、
何処かで不安を
感じてもいました。
考えてみれば、
僕は彼女に教えられて
ばかりでいたのです。
それはとても嬉しいこと
なのだけれど…。

赤いのれんをくぐって
店を出た僕らは、
家路をたどります。
彼女が夜風を愉しむように
歩き出しました。
僕は先を行く彼女を
追いかけているのでした…続く。

思い出の味に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 15話 「銭湯」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
二つほどでしか違わない
年上の彼女は、
僕の遥か上を行く
オトナでありました。

近くにある銭湯にも
よく足を運びました。
1992年当時では珍しく
露天風呂のある銭湯でして
髪の毛の長い
彼女のドライアー事情を
塩梅に入れて
風呂をいただきます。
だけれど、
その露天の居心地の良さに
ついつい長居に
なってしまいます。
番台の後ろにある勘定場で
よく彼女を待たせました。
♪神田川で知られる
かぐや姫の歌詞に出てくる
それに似ていました。

お詫びに僕は、彼女に
珈琲牛乳を手渡します。
銭湯を知らないで育った僕は、
それと珈琲牛乳がセットで
あることを知りませんでした。
二人して腰に手をやり
一気に飲み干します。
完成です。

気分を良くした彼女が
それから向った先は、
その銭湯の向かいにある
仲良しと書かれた看板の
昔ながらのもんじゃ屋さん。
彼女は生粋の江戸っ子
でありました…続く。

銭湯の思いでに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 14話 「江戸っ子」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
だけれど、
僕はこのあと目には見えない
彼女の強靭な個性と
嵐のような激しさを
身を持って
体感することになります。
それを知るのには、
もう少し時を待たなければ
なりません。
そんなことなど
知る由もない僕は、
まだ夢の中にいたのでした。

彼女は、その外見に反し
古風なところがありまして
江戸っ子の気質か
はたまた環境によるものなのか…
洋風に例えますと
アンティークなものが
お好みでありました。

例えば
プリンス・マンションの下に
リアカーを引いてやってくる
赤提灯のおでん屋さん。
彼女の注文も
酒の飲み方も江戸でいう処の
「粋」でありました。
肥後に例えると
「武者んよか~」であります。
僕は雰囲気に呑まれて
飲めやしない日本酒などを
オーダーします。
その日の記憶はありません。
残念です。

成人男性のオトナへの
第一歩は「己の酒料を知る事」
とあります。
僕はまだまだのようです。
彼女は僕といる時に酔った
ことなどありませんでした。
きっと酔えなかったのかも
知れません…。
本当に残念です。

二つほどでしか違わない
年上の彼女は、
僕の遥か上を行く
オトナでありました…続く。

江戸の名残りに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 13話 「お天気お姉さん」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
だけれど、彼女は一度だけ
咳を切ったかのように
その話に触れたことがあります。
咳を切ったように
話しだしたそれは、
今よりずっと
先のことでした…続く。

アニメーションでないと
中々捉えることの出来ない
彼女の出で立ち。
当時名を馳せた
「お天気おーねーさん」
に似ており
一般女性の頭ひとつ分抜けた
長身と眼光鋭い切れ長の
その瞳は、漫画に登場する主人公
そのものでした。

お天気お姉さんとは、
週刊ヤングマガジンに掲載された
安達哲による漫画作品で
美貌と教養を兼ね揃え
激しい性格をも合わせ持った
女子アナウンサー仲代桂子の姿を
描いたアニメーションでした。

でもそんな外見とは裏腹に
実写化した彼女は、
あまり前に出ようとする
タイプの人では
ありませんでした。
人との接し方一つにしても
控え目な印象を与えるもので
その発する言葉でさえ
女性特有の主張する
レンジの高いものではなく
耳触りに優しい独特な響きを持つ
声の持ち主でありました。

だけれど、
僕はこのあと目には見えない
彼女の強靭な個性と
嵐のような激しさを
身を持って
体感することになります。
それを知るのには、
もう少し時を待たなければ
なりません。
そんなことなど
知る由もない僕は、
まだ夢の中にいたのでした…続く。

あの夢に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて12話 「過去」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
甲斐性もなく
根拠のない自信しか
持ち合わせていない男と
その声が好きだという女を
繋ぐものは、
歌の糸に違いないのでした。

ひとり暮らしをする前の彼女は、
母親と年子の妹
三人での生活を送っていました。
東京は江東区にある
大島の街で育った話を
僕によく聞かせてくれました。
家族のこと、友達のこと、
時には聞きたくもない情報まで…。
恋をすると女の子は、
いつだって
お喋りになるようです。
その点に限って言えば
彼女も年頃の女性たちと
そう変わりはないのでしょう…。

僕は彼女がする家族の話が
好きでした。
女手ひとつで育ててくれた
お母さんを
彼女はとても大事にしていたし
同じく一つ違いの妹を可愛がり
大の仲良しでありました。
でも父親の話は、
したがりませんでした。
僕もそれにさわることを
しなかったし
聞くつもりもありませんでした。

だけれど、彼女は一度だけ
それに触れたことがあります。
咳を切ったように
話しだしたそれは、
今よりずっと
先のことでした…続く。

彼女の家族に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 11話 「歌の糸」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼女は、そんな僕を見て
気遣うように言いました。
「そんな事は気にしないで
一緒にいる理由は
他にあるのだから…」
彼女が大人の女性に
思えた瞬間でした。

彼女は、
ひとりでいる時などに
僕のLIVEビデオを
好んで鑑賞しているようでした。
プリンス・マンションに
遊びに行くと当時VHSと
呼ばれたビデオテープが、
マグネット付きテレビ台の
箱の中でその置き場を変えながら
所狭しと占拠していました。

出会ったばかりの頃は、
米米クラブのそれらが
あった筈なのに
今は後ろに
追いやられているようです。
彼女に限って言えば
カールスモーキー石井に
今のところ
勝っているようであります。
言わずもがな
それはとても嬉しいことでした。

甲斐性もなく
根拠のない自信しか
持ち合わせていない男と
その声が好きだという女を
繋ぐものがあるとするならば、
それは「歌の糸」に
違いないのでした…続く。

繋ぐものに感謝して
また、明日。