厚木のトラック野郎 全11話その1「一番星」

聞こえてますか?

1991年初夏。
相模川水系の支流である
中津川を渡り
愛川の丘を登ります。
仕事仲間である
ギターリストから
譲り受けたその中古車は、
ドイツ製とは名ばかりで
百メートルに満たない
その坂道を登るのに
悲鳴に似たエンジン音を
上げています。
厚木のトラック野郎こと
「一番星」は、その車を
ポンコツワーゲンと
呼んでいました。

一番星とは、
神奈川県厚木市にある
運送会社に就職した
中学の同級生で
強面のわりに
優しいところがあり
食えない僕を居候させる
気風の良い男でありました。
だけど一番星は、
「後悔先に立たず」
なる言葉をよく口に
するようになります。

甘く見ていた共同生活。
ここまで酷いとは
思わなかったのでしょう。
彼は、恰幅のいい
その体躯に反して
細かいところがありました。
それと同時に
潔癖な節もあり
部屋を散らかす僕に
まるで小姑のように
小言を発します。

いつものように
右から左へ聞き流せば、
艶々とした丸顔の
その口を
ポカーンと開けて
「もーよか~もうせーん!」
翻訳
(もういい もう知らない)
と言いながら諦めたように
その肩を
落とすのでした…続く。

同級生に感謝して
また、明日。

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