汚れなき愛を信じて 39話 「船堀橋大渋滞」中編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そんな船堀橋の上で
ガス欠を起こした
愚かな車がありました。
ドイツ車とは名ばかりの
草臥れたポンコツワーゲン…。
先を急ぐドライバーたちの
足を止めた犯人は、
紛れもなく僕でした。

その頃の僕はと云うと
完全に自分を見失い
彼女との接し方にも変化が
起こりはじめていました。
足が地面に着いていない
感覚に囚われ
歩く時の腕の振り具合さえ
とても不自然で
ぎこちないものでした。
まるで重たい鎧を
身に付けているかのように…。

即ち僕は「虚勢」という手段で
哀しい予感の対応にあたって
しまっていたのです。
のっけから有りもしない抱擁力を
宛かも備えているかの如く
その爪先を思いっきり立てて
彼女と接していました。
そんな背伸びをした関係など
いつか滅んでしまうものを…。
でもそれは、
「彼女から頼られたい」
総てはその一点から
来るものでした。
そんな僕の様子を見て
彼女は困っているようでした。

その日の船堀橋は、
晴天に恵まれ
爽やかな一日のはじまりを
演出してくれる筈でした。
日の当たる時間帯での
仕事を経験したいとして
彼女は江東区の西大島にある
オフィスビルで
働くことを決めました。
花のOLデビューであります。

今日は彼女の初出勤。
朝のラッシュ時の船堀橋を
知っているだけに
彼女は電車で行くと言いました。
それを制し「車で送る」と
言い張ったのは僕の方でした。
誰も求めてやしない
野球場で見られる
電光掲示板を持ち込んでは、
勝手に決めたルールに
乗っ取って点数稼ぎに
しゃかりきであります。
何と愚かなのでしょう…。

草臥れた中古車がガス欠で
今、力尽きようとしているのに…。
その橋の上で
止まるなどと露とも知らず…。
僕の頭の中は、彼女のことで
いっぱいだったようです。
海風が吹き抜ける筈の船堀橋。
その日の風は、なぜか
穏やかなものでした…続く。

思い出に感謝して
また、明日。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です