汚れなき愛を信じて 45話 「影」

昨日の続き…。
大事の前の小事。
その目に
泣き腫らした痕を残す女と、
生業とするその声を
枯らした男は、
どちらも愚かでした。

東京は渋谷にある
老舗のライブハウスTAKE OFF 7。
今日は来ないだろう…。
本番前のリハーサルあとに
僕はそんなことを
思っていました。
1990年初頭の時代
気軽に相手の様子を
伺うことの出来る
メールや携帯電話など
ありません。
手前勝手な気持ちで
推し量る事でしか
僕らには術がありませんでした。

Liveがはじまりました。
彼女の姿はないようです。
このまま終わってしまうのかな。
僕はいよいよ、
そう感じていました。
肝入りで準備を重ねた
ワンマンLive。
出会ったばかりの頃、
新宿アルタ前の路上で歌っていた
ことが思い出されます。
彼女に見て欲しいな…。
ずっと運営に携わって来ていたし
お客様がまだ疎らだったのを
誰よりも近くで
見ていたひとだから…。
満員になったこの会場を見たら
喜んでくれるに違いない。
僕は強く願いました。

演奏も終盤にさしかかり
最後の曲のイントロが流れた
その時、音を遮るために
分厚く造られたライブハウスの
大扉が開きました。
暗がりの会場に光がさします。
それは、人のシルエットだけを
僕の目に映しました。
スラリと伸びたその長身は、
どこでだって
目立ってしまいます。
彼女でした…続く。

その影に感謝して
また、明日。

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