for you…summer 25話「ピヨピヨピヨ」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
さっきより傾いた月は、
その色彩を銀色に変えて
西の彼方に浮かんでいました。
Mの素顔…悲しげな眼差し…。
見上げたそれに彼女を重ねて
「あの人…」と呟きました。
これより先にそれは、
僕を苦しめることになります。
それを知るにはもう少し
時を待たなくてはなりません。
月のひかりは、まだ
僕の帰り道を優しく
照らしているのでした…。

三宿の駐車場に
停めて置いたドイツ車とは
名ばかりの中古車。
出勤時間を大幅に
過ぎているようです。
それでも、
心は晴れやかでした。
Mが自身の話をしてくれたこと。
「そして、あの人」…。
何より今日は、
下馬散歩に道草の
おまけ付きであります。
何の不満があるのでしょう…。

草臥れた中古車は、
以前より増して
空調設備の具合が悪く
代わりに手回しで
その窓を開けました。
BAR「ピヨピヨピヨ」の
遅刻は、10分罰金千円…。
歌舞伎町に着く頃には
二時間の遅れが予想されます。

名前からして怪しいBAR…。
時給が高いからと勤め始めた
その店には、
役者を目指す者…お笑いの
世界に席を置く者。
様々な若者が働き、又は
客として足を運ぶ
隠れ家的お店でありました。
カクテルの「カ」の字も
知らないアフリカーナ。
面接もハッタリで受かった
ようなものでノリ(勘ひとつ)で
何とか乗り切っていました。

歌舞伎町の片隅で
ひっそりと灯りをともす
穴場的な店。そんな路地裏の
アンダーグラウンドであったから
三つ編みアフリカーナでも
扶持を得ることが
出来たのかも知れません。
メンバーであるダンサー
ドレッド筋肉マンと
2ブロックちょんま頭の彼とも
そこで知り合い仲間の契りを
交わしたのでありました。

Mは、そんな生活を送る僕を
まだ受け入れては
いない様でした。
下馬散歩の中でも
時折 水商売の話題になると
彼女は決まってその表情に
暗い影を落とすのでした…。

ピヨピヨピヨに感謝して
また、明日。

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