for you…summer 30話「夏の夜の夢」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
涙を誘うテーマ曲が
フェードアウトしてDJの
アナウンスに変わりました。
ゆりかもめ芝浦アプローチ。
僕は、ループしたその橋の
形状に身を委ねるようにして
ハンドルを廻すのです。
僕はいつまで…
待てばいいのでしょうか…。

「コンコン」と窓を叩く
音がしました。バイト終わりの
いつもの帰り道。
雨のために車を止めて
来るかも分からない人を
待っていた並木通り…。
折りたたみ式の
赤い傘を持ったMの姿が
そこにはありました。
それから彼女は、
フロント部分をぐるりと回り
ドイツ車とは名ばかりの
助手席のドアを開けました。

いつだってそうでした…。
会えないだろうと
思う時にMは現れ…
待ちに待った時に限って
彼女はいないのです。

ここ数日の
僕の苦悩など知る由もなく…。
隣の席には
何事もなかったかのような
Mの笑顔がありました。
雨を恨みます…。
久しぶりに会えたと云うのに
車であったら
「下馬散歩」になりません。
あの角を右に折れたら
バイバイなのです。

だけど、Mが放った言葉に
僕の考えなどすぐに
吹っ飛んでしまうのでした。
「ドライブがしたい」
なんと素敵な響きなのでしょう…。
手のひら返しのアフリカーナ。
突然の雨に感謝の気持ちで
いっぱいでした。

Mのリクエストのために
草臥れた中古車は、
湾岸方面に向けて走るのです。
何度も往来を繰り返した道…。
雨のレインボーブリッジを
僕たちは、
はじめて渡るのでした…続く。

夏の雨に感謝して
また、明日。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です