for you…summer 31話「夏の夜の夢」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
Mのリクエストのために
草臥れた中古車は、
湾岸方面に向けて走るのです。
何度も往来を繰り返した道…。
雨のレインボーブリッジを
僕たちは、
はじめて渡るのでした…。

東京は江戸川。
深夜に降り続く雨に
夏の虫たちは
息を潜めているようでした。
川辺に建つ家もその色をなくして
ドアを照らす街灯の火だけが
鮮やかに揺れていました。

お台場ドライブを愉しんだ後…。
どちらからとも無く切り出した
これから…。
いつもより何処と無く
はしゃいでいる様子だったMも
もうひとつの橋を渡る時には
沈黙を守っていました。
東京湾岸道路 国道357号線。
その荒川河口橋から見える
葛西臨海公園の観覧車。
雨に煙るその灯を眺めながら…。

草臥れた中古車を
駐車場に停めた僕と彼女は、
雨を避けるように小走りで
玄関先のアプローチに
向かいます。
そして僕は、その灯りを頼りに
ドアノブに鍵を
差し込むのでした。

しんと静まり返った
緑色のドアの中…。
髪を拭くためにと
渡したバスタオルは、
フローリングの床に
落ちたまま…。
そして、濡れた二人の服も
小さな水たまりを作って
未曾有さに
転がっていました…。

まだ、乾き切れていない
髪の毛と目を閉じたままの
Mは丸まった子猫の体制で
小さく僕の腕の中に
収まっています。
本当に眠っているのかも
知れません。

息を潜めていた虫たちの
優しい声がしました。
いつの間にか彼らにとっての
それは止んだようです。
雨の匂いを含んだ夏の夜…。
僕はもう一度
彼女をきつく抱きしめるのです。
夢じゃないことを
確かめるように…続く。

夏の夜の夢に感謝して
また、明日。

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