for you…summer 32話「カルボナーラ」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
息を潜めていた虫たちの
優しい声がしました。
いつの間にか彼らにとっての
それは止んだようです。
雨の匂いを含んだ夏の夜…。
僕はもう一度
彼女を強く抱きしめるのです。
夢じゃないことを
確かめるように…。

国道246号線 玉川通り
三宿の交差点を左に折れて
暫く行けば、
メキシコ料理店の姉妹店
ラ・ボエムがあります。
並木道を見渡せるような
テラス席の奥に
メインの客席があり
その地下には、
贅沢にくり抜かれた
池が造られていました。
僕たちは、そのスペースを好み
はじまったばかりの恋を
愉しむのでした。

それまで、スパゲティーの
言い回しでしか表現出来なかった
残念なアフリカーナ…。
「パスタ」と照れずに
言えるまでに暫しの時間が
必要でありました。
数あるメニューの中でも
カルボナーラ一本槍の僕に
Mが言うのです。
「たまには違うのを食べたら?」
最初のデートでオーダーした品を
大事にする肥後もっこす。
だけれど、そのソースに
強烈なインパクトを
覚えたのも確かでありました。
後を引くその味に
胃袋もやられたようです。

「これ家で食べられたら…」
そう言う僕に
先を見越したような
Mの答えが返って来ました。
「料理は苦手だから…」
あの夏の夜の夢から
彼女は頻繁に川辺の家へ
遊びに来るように
なっていました。
だけれど、手料理はお預けで
いつも外食であったのです。

何気に漏れた一言なのに…。
女性の思考回路その仕組みに
舌を巻く他ありません。
手料理なんてもっての他…。
こうして一緒にいるだけで
充分であるのに…。
女とは、男の他愛もない軽口にも
反応を示す生き物なのかも
知れません…続く。

ラ・ボエムに感謝して
また、明日。

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