for you…summer 40話「雨色の夜」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
板張りに転がった受話器は
その居場所を失い
不通音を鳴らし続けています。
それは、彼女との
「おしまい」を知らせる
メッセージであるかのように
何度も何度も
繰り返しているのでした…。

「話しがあるから会いたい…」
彼女からの連絡は、
午後になってからでした。
それは、最後通告に
違いありません。
もしも、行かなければ
それを回避することが
出来るのでありましょうか…。

連日の雨は、
夕暮れになっても降り続き
待ち合わせた三宿の街は、
人通りも少なく
閑散としていました。
草臥れた中古車の箱の中。
助手席のMは、サイドガラスに
身を委ねながら
ゆっくりと口を開きました。
昨夜の話 これまでのこと。
そして、好きな人がいることを
僕に告げるのでした…。

【回想1】
彼女は、ある思い出話を
してくれました。
付き合っていた年上の彼…。
「あの人」とも口にしていた
終わってしまった恋の話。
彼女は少しだけその視線を下ろし
そしてまた、いつもの笑顔で
僕の髪を揶揄いました…。
23話 「そして、あの人」より

【回想2】
Mは、そんな生活を送る僕を
まだ受け入れては
いない様でした。
下馬散歩の中でも
時折 水商売の話題になると
彼女は決まってその表情に
暗い影を落とすのでした…。
25話「ピヨピヨピヨ」より

【回想3】
彼女はエスコートするように
慣れた手つきで…
openしたばかりの
その扉を開けるのでした。
彼女の何気ない仕草…。
「慣れた手つき」で
店に入るMの後ろ姿に
幾らかの違和感を覚えました。
はじめての筈なのに…。
緊張感をも帯びた
二人のやり取りに
居心地の悪さを禁じ得ません。
唇に零れたルージュの微笑み…。
彼女はいったい
何を見ているのでしょうか…。
34話「六本木セレナーデ
前編より」

何となくであった点と線が
形を露わにして
ぼやけた印影をより
鮮明にして行きました。
そして、あの人…
六本木の彼のこと…。

【回想4】
いくら雨の中であっても
彼女の姿を見間違う筈が
ありません。
紛れもなくMでした。
運転手の男性らしき人物は、
どうやら同級生では
ないようです。
38話「Mの嘘 後編」より

雨色の夜は、まるで彼女を
匿うかのような優しさで
その横顔に影を落として
いるのでした…続く。

雨色の夜に感謝して
また、明日。

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