汚れなき愛を信じて 総集編 playback…6 二章/16話「哀しい予感」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
気分を良くした彼女が
それから向った先は、
その銭湯の向かいにある
『なかよし』と書かれた看板の
昔ながらのもんじゃ屋さん。
彼女は生粋の江戸っ子で
ありました。

風呂上がりには、
瓶ビールと摘み。
海鮮バーターと
ねぎバーターが
彼女のお好みでした。
そして、締めにもんじゃ。
これが僕らの定番でありました。

生まれて初めて
もんじゃを食べたのが
ここでした。
見た目のその
独特的な装いに反して
小さなステンレス製のへらを
使って食べるそれは、
とても美味しいものでした。
彼女は先ず円を描くように
その食材で土手を作り
仕上げにベビースターラーメン
(乾燥お菓子)を潰し
パラパラとふりかけました。
コレがまた、
この江戸っ子フードの味を
より良く際立たせ
芯を少しだけ残したそれは、
もんじゃを完璧なものにしました。

風呂上がりのほろ酔いは、
二人の距離をぐっと
近くするようです。
だけれど僕は、
何処かで不安を
感じてもいました。
考えてみれば、
僕は彼女に教えられて
ばかりでいたのです。
それはとても嬉しいこと
なのだけれど…。

赤いのれんをくぐって
店を出た僕らは、
家路をたどります。
彼女が夜風を愉しむように
歩き出しました。
僕は先を行く彼女を
追いかけているのでした…続く。

思い出の味に感謝して
また、明日。

🌱二章/17話「哀しい予感」中編

聞こえてますか?
彼女が、お金を支払う時に
小銭を探す仕草を見た
記憶がありません。
大抵が札でありました。
とはいえ、大雑把な性格
でもないのです。

月末ともなれば、
勤務先のCLUBから
支払われる対価
彼女はそれを『お給料』と
呼んでいました。
たわいもないことだけれど
『お』を使うだけでも
印象はだいぶん違うものです。
彼女は、そのお金という価値
即ち怖さを知っているかの
ようでした。

女手一つで育ててくれた
お母さんを見ていたから
なのかも知れません。
自分が投資に値すると
決めたものには、惜しみなく
その価値を投じました。
それは、
彼女の心に触れるもの
に限っていました。
だから、彼女がその価値を
大切にしていることが
僕には分かるのです。
その言葉の端々に出てくる
彼女の謙虚さが物語っていました。
そんな、彼女の姿勢の良さが
僕は好きでした。
でも…。

富を持つ者と持たない者。
夢しか持ち合わせていない
男は悩みます。
価値は、お金では測れないと
分かっていながらも
現実は厄介でありました。
時は、考える隙を
与えてはくれません。
時は、僕を待っては
くれませんでした…続く。

その価値に感謝して
また、明日。

🌱二章/18話「哀しい予感」後編

聞こえてますか?
錦糸町のCLUB歌手を
生業にしていた当時の
僕のギャランティーは、
手取りで15万円足らず…。
草臥れた中古車に
腹一杯油(ガソリン)を
呑ませる事の出来ない
所以でもありました。

いつの間にか
大きいものは彼女
小さいものを僕
といった勘定の図式が
出来上がりつつありました。
どうしても引け目を感じて
しまいます。
甲斐性はなくとも
肥後ノ国で生まれた
九州男児であります。
いくら歌で繋がっている
からとは云え
言ってもこう毎回では
男が廃るのです。

だけれど、
店を出る時に差し出される
勘定と自身の財布の中身を見て
沈黙せざるを得ない
己を知るのでした。

このままではいけない…。
僕は、漠然とした
不安を抱えていました。
哀しい予感は、
いつだって現実となって
やって来る。
いつか彼女を失う…。
僕は、そう
感じはじめていました…続く。

あの時代に感謝して
また、明日。

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