汚れなき愛を信じて 総集編 playback…14

汚れなき愛を信じて 総集編
playback…14

☘️三章/38話「船堀橋大渋滞」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
だけれど、
その日のパーティーは、
最後まで楽しい酒の席では、
ありませんでした。

江東区と江戸川区を結ぶ船堀橋。
朝のラッシュ時のその橋は、
千葉方面から流れてくる車で
ごった返しています。
都心に向かう運送業のトラック。
通勤に使われるマイカー。
信号待ちで苛立つダンプカーと
様々な車種が列をなしていました。
朝の車両事情は、
いつだって殺気だっています。
それこそ、逃げ道のない
橋の上での渋滞は最悪であります。
新大橋道路と呼ばれるその道は、
千葉県と東京都を結ぶ大動脈の
ひとつでもありました。

そんな船堀橋の上で
ガス欠を起こした愚かな
一台の車がありました。
ドイツ車とは名ばかりの
草臥れたポンコツワーゲン…。
先を急ぐドライバーたちの
足を止めた犯人は、
紛れもなく僕でした…続く。

船堀橋に感謝して
また、明日。

☘️三章/39話「船堀橋大渋滞」中編

聞こえてますか?
その頃の僕はと云うと
完全に自分を見失い
彼女との接し方にも変化が
起こりはじめていました。
足が地面に着いていない
感覚に囚われ
歩く時の腕の振り具合さえ
とても不自然で
ぎこちないものでした。
まるで、重たい鎧を
身に付けているかのように…。

即ち僕は『虚勢』という手段で
哀しい予感の対応にあたって
しまっていたのです。
のっけから、
ありもしない抱擁力を
宛かも備えているかの如く
その爪先を思いっきり立てて
彼女と接していました。
そんな、背伸びをした関係など
いつか滅んでしまうものを…。
でもそれは、
『彼女から頼られたい』
総ては、その一点から
来るものでした。
そんな僕の様子を見て
彼女は困っているようでした。

その日の船堀橋は、
晴天に恵まれ
爽やかな一日のはじまりを
演出してくれる筈でした。
日の当たる時間帯での
仕事を経験したいとして
彼女は、江東区の西大島にある
オフィスビルで
働くことを決めました。
花のOLデビューであります。
今日は、彼女の初出勤。
朝のラッシュ時の船堀橋を
知っているだけに
彼女は、電車で行くと言いました。
それを制し「車で送る」と
言い張ったのは僕の方でした。
誰も求めてはいない
野球場で見られる
電光掲示板を持ち込んでは
勝手に決めたルールに乗っ取って
点数稼ぎにしゃかりきであります。
何と愚かなのでしょう…。

草臥れた中古車が、ガス欠で
今 力尽きようとしているのに…。
その橋の上で
止まるなどとつゆとも知れず…。
僕の頭の中は、彼女のことで
いっぱいだったようです。
海風が吹き抜ける筈の船堀橋。
その日の風は、なぜか
穏やかなものでした…続く。

☘️三章/40話「船堀橋大渋滞」後編

聞こえてますか?
「嘘でしょ!」
彼女が言いました。
当然です。
逆の立場なら僕も
そう言ったに違いありません。
草臥れた中古車が
力尽きた瞬間でした。

映画やテレビドラマで目にする
ガス欠で車が止まる映像…。
情けない程に
ゆっくりと停止して行きました。
キョトンであります。
切れ長の眼光鋭い筈の
彼女の瞳もまん丸く
その顔に驚きの色を隠せません。
ブラウン菅の世界では、
他人事として
捉える事が出来る現象も
いざ、自身の事になると
笑えないものです。
流石の彼女も呆れ果てています。
台無しです。
空回りもいいとこです。
「言わんこっちゃない」と
言いたげにニュートラルにした
車を彼女は押しました。

徐行で追い越して行く
車は様々で
クラックションを鳴らす者。
眉間に皺を寄せる者。
嘲笑うかのように見下す者。
もう、目も当てられません…。
これが、 ガソリン満タン!と
言えない男への
報いなのでありましょうか…。

もうすぐ行けば下り坂。
何とか惰性で力尽きた中古車を
車線のいくらか多い交差点まで
運ぶ事が出来ます。
そうすれば車を路肩に止め
この傍迷惑な船堀橋の渋滞を緩和
させる事が出来るかも知れません。

下り坂に近づいた車に
彼女は飛び乗りました。
もはや鉄の塊と化した
力尽きた中古車が緩やかに
下りてゆきます…。
だけれど、
交差点のかなり手前の地点で
止まってしまいました。
彼女は、再び車を下りて
鉄の塊を押さなくてはなりません。
滑稽でした。
苦悶の表情を浮かべる彼女を
ルームミラーで見つけました。
何と情けない男なのでしょう…。
それは、罪と呼ぶべき所業でした。

結局
路肩に退避した車を見届けて
彼女は、都営新宿線の地下鉄に乗り
勤務先に向かうのでした。
時計の針は、
もう既に遅刻を示していました。
初出勤が台無しです。
目的地である西大島まで
僅か3.5キロメートルの
距離でありました…続く。

草臥れた中古車に感謝して
また、明日。

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