for you…autumn 45話「この恋のおとしまえ」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
その風が夜に紛れ
この部屋の温度を変えても…。
やがてそれが空に還り
新しい明日を連れて来ても…。
そして、白と黒の五線譜に
光と影を落とす時…。
「for you…」を書き終えた僕は、
そのまま うつらうつらと
眠りにつくのです。
目覚めた僕が最初に思ったのは
「彼女は今どうしているだろう…」
ただ、それだけでした。

日の入りのはやい秋の夜長。
その手に抱えきれないほどの
花束を抱え
メキシコ料理店の前に立つ
ひとりの男がいました。
そこに、髪を三つ編みに束ねた
アフリカーナの姿はありません。
身なりを整えた
「歌うたい」がひとり。
燃え尽きる覚悟で望む
最後の告白.…。

Mとの連絡が途絶えて
ひと月が経とうとしていました。
僕は、池尻大橋の
レコーディング・スタジオで
録り終えたばかりのCDを持って
再び会いに来ました。
「この恋のおとしまえ」を
つけるために…続く。

音楽に感謝して
また、明日。

for you…autumn 44話「光と影を落とす時」

for you…autumn
44話「光と影を落とす時」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
それは、
燃え尽きてもかまわない…
最後にこの想いを歌にして
Mにぶつけたい…。
等身大の自分になって
彼女に伝えたい。
そんな感情から来る
僕なりの決意
「おとしまえ」で
あったのです。
決してラジカセでは
聴くことの出来ない
音符のないメロディー…。
それをも越える愛の歌を
僕は、書きはじめました…。

東京は江戸川のほとり。
緑色のドアが象徴的な
テラスハウス。
その川辺の家で
書き綴る彼女への想い…。
ありのままの
気持ちを伝える…。
それだけをこの曲に込めて。

たとえ君が
ほかの誰か愛しても
好きだから
この気持ち大切にしたい
傷ついても
後悔をするくらいなら
心には あるがまま
生きていたいよ for you…

開け放たれた窓のカーテンが
夕暮れの風に揺れて
秋の訪れを知らせてくれました。
板張りの部屋に篭る僕は、
ただひたすら書き進めるのです。

聞かせてくれ
君の肌に触れた日の
ぬくもりと やさしさと
愛おしい言葉を
抱きしめたい
誰かを忘れるためでも
その想い いつの日か
背負いきれるように for you…

その風が夜に紛れ
この部屋の温度を変えても…。
やがてそれが空に還り
新しい明日を連れて来ても…。
そして、白と黒の五線譜に
光と影を落とす時…。
「for you…」を書き終えた僕は、
そのままうつらうつらと
眠りにつくのでした。

【回想】
眠りから目覚めて
一番に想い浮かぶ顔は
その人にとって
一番大切なひと…。
25話「眠りから目覚めて」より

目覚めた僕が最初に思ったのは
「彼女は今どうしているだろう…」
ただ、それだけでした…続く。

その風に感謝して
また、明日。

for you…autumn 43話「回帰」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
決してラジカセでは
聴くことの出来ない旋律…。
Mとそして、
あの人…だけが奏でる
音符のないメロディー。
恋焦がれ者達だけに漂う哀愁に
僕は強烈な嫉妬を覚えたのです。
それはきっと、
僕など遠く及ばない愛の歌に
違いないのでした。

夏の終わり…。
雲の流れを変えたその風に
秋の気配を感じました。

季節の移り変わりと共に
我ら軍団の集まりも
次第になくなって行きました。
あの巨漢に図太い声の
持ち主であるモヒカンの彼は、
田舎である鹿児島に帰省して…。
スキンヘッドの男は、
Hard Rockの世界へと戻り…。
ダンサーである
ドレッド筋肉マンは、
結婚し新たな船出を…。
もう一人の踊り子
2ブロックちょんまげ頭は、
さらなる飛躍のために海外へと…。
それぞれが選択し
ある者はあるべき姿に戻り…
そしてある者は旅立ち…
自らの道を
歩みはじめていました。

そして僕は…。
三つ編みにした髪を下ろし
身に付けていた衣装を
脱ぎ捨てました。
もうそこに、アフリカーナの
姿はありません。
それは、燃え尽きても
かまわない…
最後にこの想いを歌にして
Mにぶつけたい。
等身大の自分になって
彼女に伝えたい。
そんな感情から来る
僕なりのおとしまえ…
決意の表れであったのです。

決してラジカセでは
聴くことの出来ない
音符のないメロディー…。
それをも越える愛の歌を
僕は、書きはじめました…続く。

その風に感謝して
また、明日。

for you…autumn 42話「音符のないメロディー」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
夜の雨は、湿度を変えながら
フロントガラスを白くして
不規則に落ちて行きました。
この静寂に雨音だけを響かせて…。

気づいていたのかも
知れません。
こうなることを…。
彼女の眼差しは、
僕の手には届かない
遠くの何かを
見ているようでしたから…。

【回想1】
お台場ドライブを愉しんだ後…。
どちらからとも無く切り出した
これから…。
いつもより何処と無く
はしゃいでいる様子だったMも
もうひとつの橋を渡る時には、
沈黙を守っていました。
東京湾岸道路 国道357号線。
その荒川河口橋から見える
葛西臨海公園の観覧車。
雨に煙るその灯りを眺めながら…。
31話「夏の夜の夢」後編より

分かった気でいたMのこと。
僕は、女が持つ
もうひとつの顔を
見ていなかったようです。

【回想2】
彼が、二本目のワインを
開けました。
今夜のMは、酒の量が少し
過ぎるようです。
赤い葡萄酒に新しいグラス。
ワイングラスを挟む彼の指に
彼女の視線が注がれました…。
35話「六本木セレナーデ」
中編より

お嬢様育ちとはいえ
ひとりの女…。
白か黒かの男たちの
シンプルな世界とは異なり
女には、計り知れない
複雑なものを心に忍ばせて
いるようです。
時と場合によってそれは、
鋭利な刃物に姿を変えて
心の臓をひと突きにも
するのです。

女とは、
その懐に隠し持つ凶器で
愛ゆえに 男を歓ばせもし
愛ゆえに 殺すことも厭わない
生き物なのかも知れません…。

決してラジカセでは
聴くことの出来ない旋律…。
Mとそして、 あの人…だけが
奏でる音符のないメロディー。
恋焦がれた者達だけに
漂う哀愁に僕は強烈な
嫉妬を覚えたのです。
それはきっと、
僕など遠く及ばない愛の歌に
違いないのでした…続く。

愛の歌に感謝して
また、明日。

for you…summer
41話「この静寂に
雨音だけを響かせて」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
雨色の夜は、まるで
匿うかのような優しさで
彼女の横顔に
影を落としているのでした。

Mの声は、言葉の玉となり
水面に零れ落ちる雨粒のように
ポトン ポトンと僕の心に
波紋を拡げて行きました。
ひとつひとつを
確かめるように…悼むように…
そして彼女が
最後に紡いだそれは、
「あなたは嫌いじゃないけれど
きっと好きにはなれない」

【回想】
まだ、
乾き切れていない髪の毛と
目を閉じたままのMは
丸まった子猫の体勢で
僕の腕の中に小さく
収まっています。
本当に眠っているのかも
知れません。
雨の匂いを含んだ夏の夜…。
僕はもう一度
彼女をきつく抱きしめるのです。
夢じゃないことを
確かめるように…。
31話「夏の夜の夢 後編」より

夜の雨は、湿度を変えながら
フロントガラスを白くして
不規則に落ちてゆきました。
この静寂に雨音だけを響かせて…
最終章autumnへと…続く。

雨音に感謝して
また、明日。

 

for you…summer 40話「雨色の夜」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
板張りに転がった受話器は
その居場所を失い
不通音を鳴らし続けています。
それは、彼女との
「おしまい」を知らせる
メッセージであるかのように
何度も何度も
繰り返しているのでした…。

「話しがあるから会いたい…」
彼女からの連絡は、
午後になってからでした。
それは、最後通告に
違いありません。
もしも、行かなければ
それを回避することが
出来るのでありましょうか…。

連日の雨は、
夕暮れになっても降り続き
待ち合わせた三宿の街は、
人通りも少なく
閑散としていました。
草臥れた中古車の箱の中。
助手席のMは、サイドガラスに
身を委ねながら
ゆっくりと口を開きました。
昨夜の話 これまでのこと。
そして、好きな人がいることを
僕に告げるのでした…。

【回想1】
彼女は、ある思い出話を
してくれました。
付き合っていた年上の彼…。
「あの人」とも口にしていた
終わってしまった恋の話。
彼女は少しだけその視線を下ろし
そしてまた、いつもの笑顔で
僕の髪を揶揄いました…。
23話 「そして、あの人」より

【回想2】
Mは、そんな生活を送る僕を
まだ受け入れては
いない様でした。
下馬散歩の中でも
時折 水商売の話題になると
彼女は決まってその表情に
暗い影を落とすのでした…。
25話「ピヨピヨピヨ」より

【回想3】
彼女はエスコートするように
慣れた手つきで…
openしたばかりの
その扉を開けるのでした。
彼女の何気ない仕草…。
「慣れた手つき」で
店に入るMの後ろ姿に
幾らかの違和感を覚えました。
はじめての筈なのに…。
緊張感をも帯びた
二人のやり取りに
居心地の悪さを禁じ得ません。
唇に零れたルージュの微笑み…。
彼女はいったい
何を見ているのでしょうか…。
34話「六本木セレナーデ
前編より」

何となくであった点と線が
形を露わにして
ぼやけた印影をより
鮮明にして行きました。
そして、あの人…
六本木の彼のこと…。

【回想4】
いくら雨の中であっても
彼女の姿を見間違う筈が
ありません。
紛れもなくMでした。
運転手の男性らしき人物は、
どうやら同級生では
ないようです。
38話「Mの嘘 後編」より

雨色の夜は、まるで彼女を
匿うかのような優しさで
その横顔に影を落として
いるのでした…続く。

雨色の夜に感謝して
また、明日。

for you…summer 39話「夏の嵐」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
悲しい情報を伝達する
電波信号機のそれは、
この手のひらから零れ落ち
何も考えられなくなった僕は
阿呆の如く焦点の合わない
空間的なものを只々見つめて
いるのでした…。

昨夜から降り続く雨は、
明け方から勢いを増して
東京上空の色を
変えて行きました。
庭に面した窓は、
危うい金切り声を上げています。
夏の嵐に煽られたそれは、
僕の心をも激しく乱して
ゆくのでした。

【回想】
お台場ドライブを愉しんだ後…。
どちらからとも無く切り出した
これから…。
いつもより何処と無く
はしゃいでいる様子だったMも
もうひとつの橋を渡る時には
沈黙を守っていました。
東京湾岸道路 国道357号線…。
その荒川河口橋から見える
葛西臨海公園の観覧車。
雨に煙るその灯りを眺めながら…。
31話「夏の夜の夢 後編」より

あの時彼女は、
何を思っていたのだろう…。
不自然なほどに
陽気に振る舞っていたM。
橋の上から見つめていたもの…
それはいったい…。

さっきまで手にしていた
電話の受話器は、
板張りに転がったまま
その居場所を失い
不通音を鳴らし続けています。
それは、彼女との
「おしまい」を知らせる
メッセージであるかのように
何度も何度も
繰り返しているのでした…続く。

遠い夏の日に感謝して
また、明日。

for you…summer 38話「Mの嘘」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
その日の僕は、Mとの約束が
無くなった為に
池尻大橋にあるスタジオ練習を
終えてそのまま勤め先の
新宿歌舞伎町に向かう筈でした。
急な同級生からの連絡で
断れなかったと言っていた彼女。
だけどそれは、
「Mの嘘」でした…。

スタジオの裏手にある
駐車場から細長い路地を抜け
国道246号線に出ようとした
信号待ち。反対車線に
見覚えのある折りたたみ式の
赤い傘を見つけました。
黒塗りの高級車に乗り込む
ショートカットの女性…。
いくら雨の中であっても
彼女の姿を見間違う筈が
ありません。
紛れもなくMでした。
運転手の男性らしき人物は、
どうやら同級生では
ないようです。

考える余地を与えては
くれない瞬間的な現象。
その黒塗りのセダンを
目で追いながら僕の体は
勝手に動き出すのです。
草臥れた中古車の
無茶なUターン…。
だけれど、
ハンドルを回し切る頃に
Mを乗せた車を
見失ってしまうのでした…。

不安な気持ちは、
いつだって僕の想像を
裏切ってはくれません。
翌朝 彼女の家に
電話をかけてMがまだ
帰っていない事を知ります。

悲しい情報を伝達する
電波信号機のそれは、
この手のひらから零れ落ち
何も考えられなくなった僕は
阿呆の如く焦点の合わない
空間的なものを只々
見つめているのでした…続く。

あの日の想いでに感謝して
また、明日。

for you…summer 37話「Mの嘘」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
Mの赤い唇にまた、
女の笑みが零れました。
非の打ち所のない
六本木ダンデー。
張り合える器量もない癖に
夢しか持ち合わせていない
男は最後に呟くのです。
「靴下を履きなさい…」
それは僕の、彼に対する
唯一の上から目線…。
負け惜しみにも似た
哀しい「心の声」
なのでありました…。

良いことも悪いことも
Mと僕との間に何かが
起きる時には、いつも
雨が降っていました。
あの日の夜もそうでした。
銀色の月を遮る雨雲は、
そのひかりを奪って
僕の足元を狂わせるのでした…。

強い雨と風の注意を促していた
夕方の情報番組。
予報通りパラパラと降り出した
それは、草臥れた中古車の
フロントガラスに
小さな水玉を作っていました。

その日の僕は、
Mとの約束が無くなった為に
池尻大橋にある
スタジオ練習を終えて
そのまま勤め先の
新宿歌舞伎町に向かう筈でした。
急な同級生からの連絡で
断れなかったと言っていた彼女。
だけどそれは、
「Mの嘘」でした…続く。

その経験に感謝して
また、明日。

for you…summer 36話「六本木セレナーデ」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼が、二本目のワインを
開けました。
今夜のMは、酒の量が少し
過ぎるようです。
赤い葡萄酒に新しいグラス。
ワイングラスを挟む彼の指に
彼女の視線が注がれました…。

云うなれば同業者。
同じ水ものを生業にしている
とはいえ、こうも違うと
引け目を感じてしまうのです。
カクテルの「カ」の字も知らない
ハッタリのアフリカーナ…。
飲み慣れぬ葡萄酒は、
敷居が余りにも高すぎます。
芋焼酎がお似合いなのです。

片や六本木のダンディーマンは、
東京でも一等地に店を構える
THE’s オ・ト・ナ! だけど、
いくらMの知り合いとはいえども
‘いけ好かない’感情を
拭い去る事が出来ません。
ダンディズムの塊みたいな
その男を眺めながら
ブラック・アフリカーナ
闇の顔が姿を現し囁くのでした…。

【妄想1】
古今東西 上方に置かれては、
裏原宿などに見られるように
この肥後の地であっても
例外ではありません。
裏(うら)と付くだけで
ちょっとお洒落な気がしている
愚かなセンスマン。
少しハスに構えた上から目線の
鼻持ちならないナンパ野郎!
なんぼのものなのでしょう…。
16話 「ヤンキー」より〜

己れ!ここにも居たか
六本木センスマン。
置いてけぼりの空間の中で
僕のさらなる妄想は続きます。
それすらも気付かぬ
隣のMは、この上質な夜に
只々酔いしれているのでした…。

涼しい顔で二人の会話に
耳を傾ける
笑顔のアフリカーナ。
Mに恥をかかせる訳には
行きません。
わきまえております。
だけど、その懐には
辛辣な妄想を
膨らませておりました。

【妄想2】
彼の日焼けした顔を眺め…。
「その黒さは、
松崎しげるですか?」
不自然な程にケアされたお顔…。
その白い歯もお命なのでしょう…。
とっても特徴的です。
だけれど、
天然物で有るか否かは
直ぐに分かってしまいます。
笑止!馬鹿にしてはなりません。
戸馳島出身 漁師の息子
なのであります。
日焼けサロンは所詮偽物…。
港町で云うところの大量生産
養殖物は、トドのつまり…まがい物
天然物に勝るものは
無いのであります。

更に心の声は高鳴り
想像の翼を拡げて
物事の本質 核心に迫るのです!

【妄想3】
そして、
その足元といったら…。
いくら90年代
トレンディードラマ
全盛期の世とはいえ
靴下を履かないのは
如何なものでしょう…。
例え田舎侍の分際であっても
「石田純一ですか?」と
茶化すのも無理からぬ
事なのであります!

自分の事は棚にあげ
六本木センスマンには手厳しい
愚かなアフリカーナ…。
だけど、その感情は
外敵から身を守る習性…即ち
動物的防衛本能から
来るものに似ていました。
僕は、危険な匂いを
無意識の内に嗅ぎ取って
いたのかも知れません。

Mの赤い唇にまた、
女の笑みが零れました。
非の打ち所のない
六本木ダンディー。
張り合える器量もない癖に
夢しか持ち合わせていない
男は、最後に呟くのです。
「靴下を履きなさい…」
それは僕の、彼に対する
唯一の上から目線…
負け惜しみにも似た
哀しい「心の声」
なのでありました…続く。

六本木の夜に感謝して
また、明日。