畦道とハイヒール 総集編 3 「変わった子ども」episode5

聞こえてますか?
昨日の続き…。
やっぱりあなたは、
この星の人ではないと
そう思い込むことで
その時々を
やり過ごしていました。
1975年の春は、僕の嘘から
はじまるのでした…。

あなたは僕に
「変わった子だね」と
よく言っていましたね。
僕から言わせたら
どっちが!です。
何故、他の人と違うのか?
母親に甘えることが、
当たり前とされた
子どもたちの理りの中で
確かに言われてみれば
僕の方も少し
違っている様でした。
ひらひらの服を着て
手を繋ぐことや
買い物に付き合わされることも
とても窮屈で苦手でした。
何故そうなってしまったのか…。
それは、園にあがる前の
環境に原因が
あるのかも知れません。

共働きの両親のもと
僕は、一日の殆んどを
ひとりで過ごしていました。
考えたあなたは、
僕に犬を宛てがいました。
番犬の意味合いも
あったのでしょう。
ひとりでいる事に慣れ
何よりそれが、
当たり前になっていく僕を
憂ての事だったと
今では思えます。
だけれど、
あの時の僕には
あなたはの想いに応える術を
持ち合わせてはいませんでした。

そんな生活の中で
唯一心を許したのは、
共に過ごしていた
シェパード犬である大五郎。
彼だけが救いでした。
異なる動物同士とはいえ
垣根を越えた関係に
言葉はいりません。
同時に強い安心感を
彼に見出してもいました。

そして僕は、あなたに対し
子供の特権である
「甘え」を放棄し 代わりに
「無言」と云う武器を
手に入れました。
「五歳のあんたが〜」と
思うでしょうね。
だけど、小さくとも
そんな感情が芽生えたのは、
確かにあの時でした…。

「目にはみえないもの」episode6

聞こえてますか?
あの時の感情をどう表現すれば
いいのかわかりません。
だけど、
今こうして振り返ってみると
それは、
園に集う子どもたちと
何ら変わることのない
僕の「甘え方」だったように
思えてなりません。
僕なりに示した
唯一の反抗であって
「目にはみえない」
精一杯の愛情表現…。
ただ、それだけのこと
だったのかも知れません。

そんな園の暮らしの中で
どうしても
気になる女性が登場します。
幼稚園の先生でした…続く。

家族に感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール 総集編 2 「ひとの目」episode3

聞こえてますか。
昨日の続き…。
TPOを完全に度外視した
あなたの出で立ちは、
当時 お茶の間を賑わした
地球外生命体
エイリアンに違いないと
子供ながらに疑ったものでした。

1975年 春 今日は入園式。
黄色い肩掛けポーチと
ひらひらの付いたフリルに
青いドット模様の服を着せられて
はじめての幼稚園に向かいます。
島にも保育園という
施設はありました。
だけど、宇土半島にある
その園に預ける事を
あなたは決めました。
それには、
理由があった様ですね。

車の免許を持たない両親。
島民にとって自動車は、
不可欠なものでした。
我が家では舟だけが頼り。
役所の手続きや、日々の生活に
便利な場所を選ぶのは
無理からぬことでした。
そんな家庭の事情も重なり
僕は、他の子供よりは少ない
一年間という
半島での幼稚園生活を
送ることになりました。

そんな親の思いなど
知る由もなく
僕は只々恐れているのでした。
あなたのことです。
入園式では、
きっと張り切るでしよう…。
日に日にエスカレートする
メイク&ファッション。
五歳になったばかりの僕は、
あなたを見る人の目ばかりを
気にしていました。

「嘘」episode4

聞こえてますか?
宇土半島のつま先
三角岳をはじめとした
山々が連なる三角町。
その中のひとつ、
天翔台なる山の裾野に
あなたが決めた
幼稚園がありました。
僕はそこで更に疑念を
深めてしまいます。
皆一様に手を繋いだ
園児たちがやって来ます。
だけれど、僕の興味は目下
その手を引く保護者の方で
ありました。
何故ならそこへ来る女性は、
僕が思い描くお母さん像そのもの
だったからです。

そして僕は、
あなたを見上げるのです。
いつにもまして
顔が光っています。
金と銀の折り紙を散りばめた
ようなそのキラキラは、
「どこの壁に
ぶつけたのですか?」と
聞きたくなるくらいであります。
港町の春の日差しを
甘く見てはなりません。
照り返しがきついのです。
チカチカしてシュパシュパ
しております。
あなたは、そこでも
完全に浮いていましたね…。

「あれ、誰のお母さん?」
半島に住む見知らぬ子供が
僕に尋ねました…「知らん」。
僕は、直ぐに
バレる嘘をつきました。
人と違うということに少なからず
抵抗を感じていたのです。

やっぱりあなたは、
この星の人ではないと
そう思い込むことでその時々を
やり過ごしていました。
1975年の春は、僕の嘘から
はじまるのでした…続く。

遠き日に感謝して
また、明日。

聞こえてますか?アーカイブ 畦道とハイヒール 総集編 1 「宇宙人」episode1

聞こえてますか?
あなたは、
まるで宇宙人のような人でした…。
1975年 肥後ノ国
天草の玄関口
三角港から渡し舟でゆく島。
みかん畑が連なる山々と
北に広がる有明海。
南には、不知火海を臨む
その島のことを人々は
戸馳島と呼んでいます。
そこに住む人たちは、
長閑な自然と寄り添い
暮らしていました。
そんな島の景観に
逆向するかの如く
舟着場までの畦道を
颯爽と闊歩する
ひとりの女性がいました。

今にも折れそうな
真っ赤なハイヒールの靴を
履いたあなたは、
今日も僕の手を引きながら
買い物へ出掛けます。
顔の三倍はあろうか
アフロばりの
そのくるくるパーマは、
「スズメの巣ですか?」
と言いたくなる代物で、
決して風になびくことのない
その金色の髪の毛は
乾いた紙粘土のようでも
ありました…。

「告白」episode2

聞こえてますか?
シルビヴィ・バルタンを
好んで聴いていたあなたは、
なんちゃってパリジェンヌ。
メイクひとつにしても
丹念に仕上げます。
何処を真似て何を間違ったのか
何もそこまでしなくても!
と云うくらい塗り重ねた
白いキャンパスに
あなたは、
ルージュを引きました。
まるで、まんが日本昔ばなし
に登場する
お公家さまのようです。
幼い頃の僕は、
そんなあなたが少しいやでした…。
島の住民にそのような
風変わりな女性は、
ひとりもいませんでした。

TPOを完全に度外視した
あなたの出で立ちは、
当時 お茶の間を賑わした
地球外生命体
エイリアンに違いないと
子供ながらに
疑ったものでした…続く。

二十六歳のあなたに感謝して
また、明日。

聞こえてますか?アーカイブ 「大五郎」総集編 下巻

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そんなある日のこと。
寝耳に水な事件が
僕と大五郎の身に
降りかかるのでした…続く。

それは、
自然に起こった物事ではなく
明らかに人工的且つ犯罪と
呼ぶべきものでありました。
いつものように
彼と海遊びをしていると
仕事を終えたあの男が
近づいて来ます。
僕らの親父でした…。

何を血迷ったのか!
突然、親父が彼を抱えるのです。
この男にかかれば、
警察犬としても名を馳せる
シェパードとはいえ形無し。
なす術もなく岸壁から
満ち潮の海へと放り込まれます。
キョトンとする僕を
親父が見ています…。
蛇に睨まれた蛙とは、
よく言ったものであります。
身の危険を肌で感じるものの
動けません。案の定、
僕も大五郎の後を追うように
海へと投げられるのでした。

岸壁の上からあの男が叫びます。
「大五郎ば見ろ!」
「泳ぎば教われ!」
…………えぇ~。
海底に足の着かない
スイミングは、
はじめての事でした。
無茶です。愚かです。三歳です。
死ぬかと思いました…。

鬼としか思えない親父の所業。
今でこそ話の種として
笑いとばせるものですが
あの頃の僕らには死活問題。
脳裏をよぎる「復讐」
言葉は知らずとも
そんな感情が
芽生えた瞬間でありました。
「いつか、みとけよ!」
【翻訳】
(おのれ~今にみておれ!)

犬掻きで近寄る大五郎の涙目を
今でもハッキリと鮮明に
記憶しています。
僕に泳ぎを教えてくれたのは、
紛れもなく「大五郎」と
呼ばれたシェパード犬
でした…おしまい。

涙目の大五郎に感謝して
また、明日。

聞こえてますか?アーカイブ 「大五郎」総集編 上巻

聞こえてますか?
僕たち家族は、彼のことを
「大五郎」と呼んでいましたね。
落ち着きのなかった幼少期…。
手の焼ける僕を玄関先に
紐で括っていたあなたは、
大五郎のおかげで助かったと
後に語っていました。
新しい家族になった
シェパード犬と共に
僕らは成長して行きました。
時代劇のキャラクターから
名付けられた大五郎。
三歳になったばかりの僕に
はじめての友達が出来ました。

島育ちの僕らは、
何処へ行くのも一緒。
彼に云わせたら、
犬の散歩ではなく
僕の散歩でありました。
山へ行けば、危険な獣道を避け
海では、誘導するかのように
僕をその鼻先で押しながら
浅瀬へと導いてくれました。
怪我をすればいち早く
大人達に知らせてくれたり
背中に乗せて遊ばせたり…。
正に彼は、ボディーガード
そのものでした。

そんなある日のこと。
寝耳に水な事件が
僕と大五郎の身に
降りかかるのでした…続く。

彼の献身に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 最終話 「船堀橋の風」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
2017年12月11日。
今日は彼女の誕生日。
あの百草高台 屋根裏の夜から
二七年が経っていました。

すっかり陽の浅くなった
十二月の空は、透明度を増し
その沈みゆく夕日も黄金色に
キラキラと輝いていました。
新大橋通りと船堀街道の交差点。
左手に見える船堀タワー。
ここでの信号待ちは、
いつだってあの頃の想いでを
連れて来るようです。

あの時よりも幾らか大きい車の
そのクラッチを踏み
ギアーをファーストに
入れました。
それから僕は、
肌寒い季節にも関わらず
窓ガラスをいっぱいに開けて
ゆっくりとそこへと続く坂道を
のぼるのです。
船堀橋に吹き抜ける
あの風を感じるために…おわり。

あとがき

はじめに
拙い僕の文章、日記に
最後まで付き合いっていただき
本当にありがとうございました。
「汚れなき愛を信じて」を
通して伝えたかったことは、
別れてはならない人たちが
いるということです。

僕たちには、
儚い夢だったけれど…。
この日記を読むことで
「ほんの少しの優しさを」と
切に願うのです。
駆け引きや主導権など
入り込む余地のない
汚れなきもの…。
もう一度立ち止まり
相手とそして自分自身を
見直して欲しいのです。
あの頃にそう思えていたら
この日記のラストも
違うものになって
いたのかも知れません。
決して離れてはならない
二人というのは
確かにあるのです。
そう、感じてくれたら幸せです。
人生はワンス アゲイン!
そのものなのですから…中谷隆博

君に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 55話 「それから」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
それからの僕たちは、
四度目の夏を共に過ごすことは
なかったのです。
1995年 夏の終わり。
その年号とその季節が
僕らのピリオドを
教えてくれたのかも…
知れません。

彼女が拵えた店内の雰囲気を
愉しみながら僕は、
お酒を美味しくいただきます。
錦糸町に根を張り
女手一つでのし上がって来た
彼女の剛と生きざまを
感じずにはいられません。
遊びに来ていた
彼女のお母さんも元気でした。
一つ違いの妹は、
姉を助けるように
お店の切り盛りで一生懸命です。
それはとても美しい光景でした。
母と姉妹…家族。
そして僕は、想いだすのです。
船堀橋の上で草臥れた
中古車の窓を開け
その風に手を翳していた彼女を…。

【回想1】
坂道をのぼり出す頃に
彼女は手回しでドイツ車とは
名ばかりの車の窓を開けました。
東京湾に近いそこは、
海風がよく通り
潮の香りと夏の到来を
教えてくれたりもします。
彼女は、
その風に手を翳しています。
それはとても眩しくて
美しい光景であるのでした。
7話「船堀橋」より

【回想2】
京王 聖蹟桜ヶ丘。
ジブリ作品
「耳をすませば」の
舞台にもなったその百草高台。
美しい曲線が伸びた
丘の上までの坂道は、
道幅も広く整備されていました。
助手席に座る彼女は、
壊れた空調設備の代わりに
手回しで車の窓を開けました。
夏の香りを招き入れるように
彼女の長い黒髪は、
その風に吹かれていました。
1話「百草高台」より

さっきまでの僕と彼女は、
こうして乾杯する迄に
別々の道を歩んできました。
互いに色々あったのは、
目を見ればわかるものです。
「体は大丈夫?」
すっかりそんな会話が成立する
年齢になりました。
相変わらず彼女の声は、
どこか自信なさけで儚くも
僕の耳には心地よく響きます。
前に出ようとはしない
タイプの彼女。
それは年齢と様々な試練を重ねて
その謙虚さと姿勢のよさを
さらに増しているようでした。

【回想3】
僕は歌でも聴いている気持ちで
その声に耳を傾けました。
それはとても心地よく響き
僕の心にゆっくりと
降りて来るのでした。
夜明けが、
この屋根裏部屋にも
初夏の風を運んでくれています。
そして僕はまた、何本目かの
煙草に火を点けるのでした…。
5話「屋根裏部屋 前編」より

それから、
僕は二杯目のグラスを空け
僕と彼女とその家族は
改めてシャンパングラスで
乾杯をするのでした。
2017年12月11日。
今日は彼女の誕生日。
あの百草高台
屋根裏の夜から二七年が
経っていました…最終話へ続く。

君の家族に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 54話 「それから」中編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
この街には、
けっして変わらない人がいます。
あの長い黒髪と
魅力的な瞳を持つひと。
そのスラリと伸びた長身は、
どこでだって
目立ってしまいます。
彼女でした。

この地で生まれ
この街で育った彼女は、
あの頃と変わらず力強く
生きていました。
オーナーである
彼女のお店に腰を下ろし
ウィスキーをオーダーしましす。
L字形のカウンターはまだ新しく
シンプルでありながらも
この店の顔というべき
落着きをはらっております。
飾られたインテリア
つまりはアンティークを
兼ね備えた小物たちは、
鮮やかにこの空間を
彩っていました。
そして、
その壁に貼られた大ファンである
プロレスのポスターは、
江戸っ子である彼女を
象徴するかのように
このお店を「粋」で「乙」もの
しておりました。

【回想1】
何より彼女の理想の男性は、
ガッチリとした男らしい人…
大のプロレスファンで
あるのでした。
「三沢チョプ」などと言いながら
ふざけて来ます。
彼女が言いました。
「三沢光晴が私のタイプ!」
ダウンです。
相手はタイガーマスクです。
伊達直人であります。
敵う相手ではありません。
僕とはあまりにも真逆。
よくもまあ いけしゃあしゃあと
そんな事が
言えたものであります。
20話「男と女 中編」より

【回想2】
彼女は、その外見に反し
古風なところがありまして
江戸っ子の気質か
はたまた環境によるものなのか…
洋風に例えますと
アンティークなものが
お好みでありました。
例えば、
プリンス・マンションの下に
リアカーを引いてやってくる
赤提灯のおでん屋さん。
彼女の注文も酒の飲み方も
江戸でいう処の
「粋」でありました。
14話「江戸っ子」より

彼女らしいなと思いながら
ウイスキーのグラスに
口をあてました。
あれからの僕らは、
離れたり戻ったりを繰り返し
その先にあるものに目を伏せて
次第に努力さえも
しなくなって行きました。
そして
それからの僕たちは、
四度目の夏を迎えることは
なかったのです。
1995年 夏の終わり。
その年号とその季節が
二人のピリオドを
教えてくれたのかも…
知れません…続く。

遠き日の想いでに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 53話 「それから」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
切れてしまいそうな「歌の糸」を
僕らはただ見ているに
過ぎませんでした。
その絡み合うように捻れた糸が、
くるくると回りながら
その糸が痩せてゆく様を…。
途切れそうな「ツナガリ」に
僕らは、目を閉じました。
ひらひらとその手の平から
溢れ落ちてゆくのを感じながら…。
あの百草高台の屋根裏の夜から
三年が過ぎた頃
僕と彼女と、1995年の夏が
終わりました。

2017年 12月 東京。
師走の錦糸町は、クリスマスを
待ち侘びるかのように
人も街もキラキラと
輝いていました。
僕は懐かしさのあまりに
その歩幅を緩めるのです。
あの頃の面影を残すもの…。
はじめて待ち合わせをした
丸井デパート前の京葉道路。
僕はその脇を通りこの街きっての歓楽街へと進みました。

【回想】
最初の待ち合わせ場所は、
錦糸町駅前にある
丸井のデパート前でした。
夜も深い時間だけあって
車の往来も疎らな京葉通りは、
容易に駐停車出来る
空き具合でした。
だけれど、彼女はもう既に
来ているようです。
スラリと伸びたその長身は、
夜にだって目立ってしまいます。
それから僕らは、
おそらく東京で一番
綺麗な夜景が見える場所へと
車を走らせるのでした…。
4話「クリームシチュー」より

変わってしまったもの…。
以前専属ボーカリストとして
働いていたGS-CLUBの看板は、
違う飲食店に様変わりしており
箱バンで賑わいを見せていた
あの頃の高級倶楽部も
息を潜めているようです。
僕はミニストップと書かれた
屋号のコンビニエンスストアーを
右へと曲がり
ある店の前で足を止めました。

この街には、
けっして変わらない人がいます。
あの長い黒髪と
魅力的な瞳を持つひと。
そのスラリと伸びた長身は、
どこでだって
目立ってしまいます。
彼女でした…続く。

12月のこの街に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 52話 「彼女から笑顔が消えた日」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
同じものを見ていたはずなのに
どうして僕らは、
すれ違ってしまうのでしょう…。
それを知り得るには、
彼女はまだ若く
そして、僕はより子供でした。

それでも
諦めることさえも恐れた
未熟な僕らは、
続けていく理由を探し
裏切られ …。
抗う他に術を知らない
愚かな僕らは、
小さな光のようなものを
あたかも作り出すかのように
そのまぼろしを探すのでした。
だけれど、その度に
この先に何も無いと
思い知らされるのです。
そして、
そのまぼろしを見出すことは
最後まで叶いませんでした。

【回想】
甲斐性もなく
根拠のない自信しか
持ち合わせていない男と
その声が好きだという女を
繋ぐものがあるとするならば、
それは「歌の糸」に
違いないのでした。
11話「歌の糸」より

切れてしまいそうな「歌の糸」を
僕らはただ見ているに
過ぎませんでした。
その絡み合うように捻れた糸が、
くるくると回りながら
痩せてゆく様を…。
途切れそうな「ツナガリ」に
僕らは、目を閉じました。
ひらひらとその手の平から
溢れ落ちてゆくのを感じながら…。
あの百草高台 屋根裏の夜から
三年が過ぎた頃
僕と彼女と、1995年の
夏が終わりました…続く。

彼女の笑顔に感謝して
また、明日。