for you…playback Part9

🌙summer
26話「眠りから目覚めて」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
Mは、そんな生活を送る僕を
まだ受け入れては
いない様でした。
下馬散歩の中でも
時折 水商売の話題になると
彼女は決まってその表情に
暗い影を落とすのでした…。

その日Mは、メキシコ料理店に
休みを貰っているようでした。
ガラス張りの電話ボックス。
今では、殆ど見る事のない
公衆電話の箱の中。
緑色の受話器を置くのと
同時にテレホンカードが
返って来ました。
「ピーピーピー」と
Keyの高い電子音…。
角張った顔のような箱から
煩さく舌を出したそれを
素早く抜き取りました。
それから、Mの家に電話を
入れようとして…
やっぱり止めました。
待ち合わせをしている訳では
ないのだけれど…
心配してしまうのです。
果たして僕にその権利が
あるのでしょうか…。

歌舞伎町の仕事から
川辺の家に帰宅した僕は、
留守番機能の点滅を
いの一番に確認するのです。
時計の針は、
朝の8時を指しています。
Mからのメッセージは
ないようでした…。

眠りから目覚めて
一番に想い浮かぶ顔は、
その人にとって
一番大切なひと…。
それは、下馬散歩の
はじまりから
より強く僕の心を支配して
ゆくのでした…続く。

目覚めに感謝して
また、明日。

🌙summer 27話「夏の虫」

聞こえてますか?
夏の虫たちは、
まるで疲れを知らないように
午後の日差しが傾いても
喧しく鳴いていました。
二階にある寝室から
リビングに降りて
テレビのリモコンを探します。
それから、冷蔵庫の中の
ミネラルウォーターを取り出し
庭に面した窓を開けました。
点けっぱなしにした
テレビの音と夏を象徴とする
その鳴き声は、
ステレオタイプとなって
この川辺の家に響き渡りました。
起き抜けの僕には、騒音以外の
何ものでもありません。

眠りから目覚めて
一番に想い浮かぶ顔は
その人にとって一番大切なひと…。

庭の乾き切った土を眺めながら
ミネラルを飲み干しました。
花に水をやらなきゃと
ぼんやり思いながらも
目覚めたばかりの意識は
彼女だけの物になっています。

あれから、Mと会えない
日が続いていました。
時間が合わなかったり、
リハーサル終わりメンバーと
飲みに行っても休みだったり…。
昨日、思い切って彼女の家に
電話をしてみたけれど
案の定 留守でした。

「避けられてるのかな…」
テレビの音と虫の声は、
そんな意識の中で薄れて行き
やがてそれは
弱くなってゆくのでした…続く。

夏の声に感謝して
また、明日。

🌙summer
28話「愛するということ」

聞こえてますか?
夏の日差しは、じりじりと
地面の水分を奪い取り
庭の花たちは、Uの字を
逆さまにしたように倒れ
力なく重なり合っていました。

焦点の合わない視力で
ブラウン管の物体を
目だけで追っていました。
どうやら、夕方にやる
ドラマの再放送の様です。
俳優 緒方直人が、
雨の中でずっと
誰かを待っています。

僕は、夏の声を掻き消すように
リモコンのボリュームを
上げました。
ひとりの男が「好きだ」の
一本槍で気持ちを伝え
それに翻弄されながらも
小泉今日子扮する主人公が
心を揺り動かされてゆく
ストーリー。
それは「愛するということ」
と云うドラマでした。

そういえば、
名作「男女7人夏物語」に
ときめきを覚えたのも
放送の一年後でありました。
高校時代 夕方のアルバイト前に
時を惜しむように観ていた事が
思い出されます。

世間の潮流に一年の遅れを取る
再放送のアフリカーナ。
観ている内に
いくら飲み込みの悪い僕でも
ザワザワし始めるのです。
今の自分に似ているような…。

それからの僕は、
ウィークデイの夕方から
目が離せなくなりました。
だけれど、ドラマはドラマ…。
テレビの中の彼は、
シュッとした商社マンで
普通の髪型をした好青年。
そして現実は、
昼と夜の逆転した生活を送る
髪を洗えない
時代遅れのアフリカーナで
あるのでした…続く。

夕暮れの再放送に感謝して
また、明日。

🌙summer
29話「ニューシネマ
・パラダイス」

聞こえてますか?
約束をしている訳では
ないのだけれど…。
今日も僕は、海岸通りから
レインボーブリッジを渡り
彼女のいる三宿へと
車を走らせるのです。
濡れた路面は、
対抗車線のヘッドライトに
反射して僕の視界を遮りました。
銀色の月を隠した
突然の雨雲は、
東京湾に広がる風景を
一変させました。

点けっぱなしのラジオから
懐かしい音楽が流れています。
それは、劇場まで足を運んで
鑑賞したイタリア映画
「ニューシネマパラダイス」の
テーマ曲でした。
ヒロインに想いを寄せて
彼女の部屋の扉が開くのを
ひたすら待ち続ける
主人公トト…。
ピンとこなかった当時…。
だけれど、
今になって身に染みるのです。
物語の中に出てくる
ある男の逸話…。
雨の日にも風の日にも
愛する女性を待ち続け
最後の一日になって
何故か待つことを
止めてしまった男の話。
彼の気持ちが少しだけ
分かる気がしました…。

涙を誘うテーマ曲が
フェードアウトしてDJの
アナウンスに変わりました。
ゆりかもめ芝浦アプローチ。
僕は、ループしたその橋の
形状に身を委ねるようにして
ハンドルを廻すのです。
僕はいつまで…
待てばいいのでしょうか…続く。

優しい音楽に感謝して
また、明日。

for you…playback Part8

🌙summer
21話「下馬散歩」中編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
最初は迷惑そうだったM…。
そんな熱意を汲み取ったような
半ば諦め…根負け感も否めない
僕らの「下馬散歩」が
はじまるのでした…。

「その髪いつ洗うの?」
三つ編みにした肩まで
伸びる髪にパステルカラーの
ビーズをあしらった
それを指差しMが言うのです。
少しは、僕に興味を持って
くれたのでしょうか…?
気分を良くした
なんちゃってアフリカーナは
語り出すのです。
自身の洗えない髪のこと…。
夢と音楽の話…。

しっかりと目を見て
会話をすることや
人の話に耳を傾けて
ちゃんと聞くその姿勢に
「品」と云うものを
感じずには要られません。
両親の愛情を一身に受けて
大切に育てられたのだと
改めて思うのです。

彼女は、分からない事は聞き
思った事は素直に
言うひとでした。
決して強い物言いではなく
やわらかな口調で…。
上からでもない
丁寧な言葉遣いで…。
いつも自然体で、どこか
天然色を持ち合わせたM。
その飾らない笑顔が、全てを
物語っているのでした…続く。

飾らない笑顔に感謝して
また、明日。

🌙summer
22話「下馬散歩」後編

聞こえてますか?
「夢があることは羨ましい」
続けて彼女は、これからの話も
聞かせてくれました。
ファッションに興味を持つM。
大学を卒業したら服飾系の
仕事に就きたいようでした。
なるほど、Mの私服は
奇をてらわず
何気なく着こなした
デニムでさえスタイリッシュに
見えたものです。
それはシンプルで
何より爽やかでありました。
ズダ袋を頭から被ったような
髪を洗えないアフリカーナとは
どうにも吊り合いません。

【回想】
あなたは、
後に語っていましたね…。
「Mさんは、
元気にしているのかな…?」
大学卒業後、
大手アパレル会社に就職し
社会人デビューを飾ったM…。
彼女のからのプレゼント
フェラガモの靴を
あなたは「勿体無い」と
言いながら一度も履くことなく
最後まで大切に
しまっていましたね…。
Mの気遣いと、あなたの貧乏性を
何処か微笑ましく
思ったものでした…。
「マーマレード」
〜あなたのepisodeより

夏の夜の下馬散歩は、
僕にとって
かけがえのないもので
上空に広がる東京の星空も
キラキラと輝いて
見えたものです。
彼女の家は、下馬にある
二階建ての一軒家。
世田谷公園の先を右に折れたら
家族が待つ彼女の自宅。
それは、今日の
「おしまい」を意味しています。

僕は歩幅を緩めたい気持ちで
いっぱいでした。
立派な門構えの前まで来たら
お別れです。役目を終えた
淋しいアフリカーナは、
バイバイと手を振って
今来た道をとって返すのです。
そのひと時を
噛み締めながら…続く。

東京の星空に感謝して
また、明日。

🌙summer
23話「緑色のドア」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
僕は歩幅を緩めたい気持ちで
いっぱいでした。
立派な門構えの前まで来たら
お別れです。役目を終えた
淋しいアフリカーナは、
バイバイと手を振って
今来た道をとって返すのです。
そのひと時を
噛み締めながら…。

下馬散歩の後は、
勤務先である新宿歌舞伎町
のBARに向かいます。
その当時の僕は、
深夜に働き昼間寝るといった
一般の人とは真逆な生活を
送っていました。
雑居ビルから出された残飯を
カラスが突っつく頃に
一日の終わりを迎え
「緑色のドア」が目印の
自宅に帰るのです。

東京は江戸川。
その支流である川辺に
特殊な色使いをした
テラスハウスがありました。
都営新宿線一之江駅から
徒歩で20分。
東西線 葛西駅からでも25分…。
歩くには不便な場所にも拘らず
そこを寝床に決めたのには
理由がありました。

音楽以外たいして興味を
示さないアフリカーナにも
ガーデニングといった
唯一の趣味があり
日当たりの良い小さな庭が
あるのも大きな要因でした。
だけど、何よりもその印象的な
「緑色のドア」に魅せられて
この川辺の家の鍵を
手にしたのでありました。
せちがない都会での生活で
その扉の向こうに小さな夢を
見いだしていたのかも
知れません…。

そこには、コンクリートで
整備された駐車場も付いており
車通勤には有難いものでした。
日課になりつつある下馬散歩。
そして、今日も僕は草臥れた
中古車を走らせるのです。
海岸通りから、お台場の
レインボーブリッジを渡り
一路Mのいる街を目指して…続く。

川辺の家に感謝して
また、明日。

🌙summer
24話「そして、あの人…」

聞こえてますか?
夏の陽気であっても
23時を回る夜の散歩は、
涼しくて気持ちの
良いものでありました。
今宵は、道草に
世田谷公園を歩きます。
水飲み場の前に設けられた
木製のガーデニングチェアー。
バイトの疲れを癒すように
腰を下ろしたMに
僕は、小さな喜びを感じました。

夏の月は蒼く、この公園を
優しく照らしています。
彼女が退屈しないように
僕は話を繋ぐのです。
彼女がそのベンチから
立ってしまわないように…。
Mは、その顔に屈託のない
笑顔を浮かべて
聞いてくれています。

今度は、Mの番です。
彼女は、ある思い出話を
してくれました。
付き合っていた年上の彼…。
「あの人」とも口にしていた
終わってしまった恋の話。
彼女は少しだけ
その視線を下ろし…
そしてまた、いつもの笑顔で
僕の髪を揶揄いました。
「そんな髪の人とは絶対無理」
それから続けて
「その格好何とかならないの?」
と言いながら笑っています。
僕もつられて笑うのです。
束の間の幸せを
感じた瞬間でした。
それは、 はじめて見る
Mの素顔であったから…。

帰り際の彼女は、
愛嬌を滲ませたその笑顔に
たっぷりと皮肉を込めて
「今度は、髪を洗って来てね」
と言いました。僕は身振りで
「揉み洗いするよ」 と答え
その手でバイバイの
形を作りました。
Mは、今一度振り返り
笑顔を向けた後
立派な家の門を閉じました。

さっきより傾いた月は、
その色彩を銀色に変えて
西の彼方に浮かんでいました。
Mの素顔…悲しげな眼差し…。
見上げたそれに彼女を重ねて
「あの人…」と呟きました。
これより先にそれは、
僕を苦しめることになります。
それを知るにはもう少し
時を待たなくてはなりません。
月のひかりは、まだ
僕の帰り道を優しく
照らしているのでした…続く。

月のひかりに感謝して
また、明日。

🌙summer
25話「ピヨピヨピヨ」

聞こえてますか?
三宿の駐車場に
停めて置いたドイツ車とは
名ばかりの中古車。
出勤時間を大幅に
過ぎているようです。
それでも、
心は晴れやかでした。
Mが自身の話をしてくれたこと。
「そして、あの人」…。
何より今日は、
下馬散歩に道草の
おまけ付きであります。
何の不満があるのでしょう…。

草臥れた中古車は、
以前より増して
空調設備の具合が悪く
代わりに手回しで
その窓を開けました。
BAR「ピヨピヨピヨ」の
遅刻は、10分罰金千円…。
歌舞伎町に着く頃には
二時間の遅れが予想されます。

名前からして怪しいBAR…。
時給が高いからと勤め始めた
その店には、
役者を目指す者…お笑いの
世界に席を置く者。
様々な若者が働き、又は
客として足を運ぶ
隠れ家的なお店でありました。
カクテルの「カ」の字も
知らないアフリカーナ。
面接もハッタリで受かった
ようなものでノリ(勘ひとつ)で
何とか乗り切っていました。

歌舞伎町の片隅で
ひっそりと灯りをともす
穴場的な店。そんな路地裏の
アンダーグラウンドであったから
三つ編みアフリカーナでも
扶持を得ることが
出来たのかも知れません。
メンバーであるダンサー
ドレッド筋肉マンと
2ブロックちょんま頭の彼とも
そこで知り合い仲間の契りを
交わしたのでありました。

Mは、そんな生活を送る僕を
まだ受け入れては
いない様でした。
下馬散歩の中でも
時折 水商売の話題になると
彼女は決まってその表情に
暗い影を落とすのでした…。

ピヨピヨピヨに感謝して
また、明日。

for you…playback Part7

🌙summer
19話「Challenge」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼女の電話番号を聞くに
至るのは、長い梅雨が明け
この三宿の街にも
夏を知らせる風が
吹く頃でありました。

漸く彼女Mの電話番号を
聞き出す事に成功した
三つ編みアフリカーナ。
新たなる関門 !
自宅に電話すると云う
何とも胃の痛い経験と
持ち前の根拠なき自信を武器に
彼女との距離を詰めようと
必死でありました。

そんな努力の甲斐あってか
今こうして、Mが働く三宿から
彼女の自宅である下馬への
道のりを散歩する迄に
成長を遂げていました。
僕にしてみたら
大した進歩であります。

first touch !
東京03に手を伸ばした
ダイヤルする時の指の震え。
過呼吸を覚えるほど
吸い込んだ深呼吸…。
まるで中学生のような有り様。
会話にしても本人以外が
電話に出ることを想定して
(もしもお母さんが出たら)の
イメージトレーニングに励み
前もって下書き(台本)を書く
念の入れようでありました。
だけれど、
リハーサルは所詮 予定調和。
LIVEでは使いものになりません。
メンタルと本番の弱さに
苦々しいデビューを
飾るのでした…。

そんな、度重なる失敗の中
あの手この手を模索し
行き着いた先が
夜の遅いバイト帰りに
自宅まで送ると云うChallenge❗️
名付けて「下馬散歩」
でありました…続く。

繋がることに感謝して
また、明日。

🌙summer
20話「下馬散歩」前編

聞こえてますか?
ドイツ車とは名ばかりの
草臥れた中古車であっても
5分とはかからない距離。
それではもったいない…。
僕は、徒歩での警護ならぬ
頼まれもしない
ボディーガードの役を
買って出たのです。
風貌からして、好き好んで
異様な髪型をした人物に
声をかけたりする者は
皆無であります。
物騒な夜のひとり歩きには
もってこいの人材でありました。
歩いて10分の僅かな道のりに
僕は全てを賭けました。

最初は迷惑そうだったM…。
そんな熱意を汲み取ったような
半ば諦め…根負け感も否めない
僕らの「下馬散歩」が
はじまるのでした…続く。

散歩道に感謝して
また、明日。

for you…playback Part 6

🌙rain season
16話「ヤンキー」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そして、
マッシュルームのような
髪型をした彼らの
十八番と云えば
ナンパでありました。
熊本最大の歓楽街裏(うら)上通り
裏(うら)下通りで
揃えたブランドの服を着こなし
そのさらさらとした
前髪をなびかせて
さりげなく異性の懐深く
入り込む人種なのでありました。

古今東西 上方に置かれては、
裏原宿などに見られるように
この肥後の地であっても
例外ではありません。
裏(うら)と付くだけで
ちょっとお洒落な気がしている
愚かなセンスマン。
少しハスに構えた上から目線の
鼻持ちならないナンパ野郎!
なんぼのものなのでしょう…。

方や「ヤンキー」と云えば、
その様な物言い立ち振る舞いを
冷笑するかの如く
はたまたVSの構図を
明らかにするように
独自の言語を編み出し
上方の人、所謂センスマンに
対抗しておりました。

⚠️(ヤンキーが使う言葉)
*JR(旧国鉄)三角線に限る
「スッタ〜ン武者ん’よか」
「ご”ろっ武者ん’よか」
【翻訳】
「とても格好がいい」
ナンパ野郎(センスマン)は、
上記のような
言い回しを致しません。
たとえ真似をしたとしても
イントネーションが違うのです!
笑止!まがい物は所詮 偽物…。
眉唾なのであります。

裏(うら)通りなどを嫌う
我ら「ヤンキー」族は、
表通りを堂々と歩くのです。
サンロード新市街
なのであります。
そのカッチとした髪型は、
フランス航空で名を馳せた
コンコルドの如く前へ前へと
鋭くトンガっており
風になびく事などありません。
その生き様を表現する
かのように決してブレない
髪型なのであります。
そしてポマードを練り込んだ
それは、年配の大人の匂いを
彷彿させるものであり
それは正に
ひと昔前の仏映画スター
アラン・ドロン(風)の香り
なのでありました…続く。

リーゼントに感謝して
また、明日。

🌙rain season
17話「肥後もっこす」

聞こえてますか?
洋服にしてもちょっとした
お出かけの際には、
そのサンロードの玄関口
紳士服の「フタタ」
なのであります。
江戸で云うところの
紳士服の青山なので
ありましょう。
当然 異性の懐は遥かに遠く…。
話題といえば、
Kawasaki Z400GPの
カラーリングがどうの…だとか
誰かが停学を喰らった…などの
会話が主流でありました。
熊本女子がセンスマンに靡くのも
道理と言えば道理…。
無理のない事でありました。

そんな「肥後もっこす」
同士の対立軸の中で、
センスマン つまりは
ナンパ野郎に染まって行く
裏切り者もしばしば現れ…。
我らの世界では「ぬしゃ~
市内に染まった 人種の違う!」
【翻訳】
「君はかぶれてしまったんだね」
などと冷遇され
その者の名は地に落ち
昔で云うところの
村八分の体で扱われ
連れ(仲間)としての絆
地元を往き来する
道中手形なるものを
失うのでありました…続く。

高校時代の連れに感謝して
また、明日。

🌙rain season
18話「肥後五十二万石」

聞こえてますか?
たかだか九州の
その又一国の話…。
そうではないのです。
そんな五十二万石
肥後一国の中であっても
様々な人たちの古くから
培って来た風土や風習…
暗黙の了解が根付いていると
云う事なのです。

硬派と云えば、
聞こえ栄えはするものの…。
我らリーゼント
「ヤンキー」族は、
そんなチャラチャラした
鼻持ちならない
「センスマン」を
どこか羨ましく思いながらも
代々受け継がれてきた
先輩たちの習慣や掟を
大事にする生き物なのでした。

さて、話は戻り…
時は平成 江戸三宿。
「ナンパしたことないの?」
もう一人の踊り子
2ブロックちょんまげ頭が
揶揄うように
上から目線で言いました。
僕にしてみたら
ナンパ出来ない事など
恥ずかしい事ではないのです。
上方育ちの「大江戸センスマン」
には解らない手前の
事情だってあるのです!

それからも
肥後もっこすアフリカーナの
死闘は続き…
「ダイヤルM」の遂行に
かなりの時間と大量の酒代を
必要とするのでした。
彼女の電話番号を聞くに
至るのは、長い梅雨が明け
この三宿の街にも
夏を知らせる風が
吹く頃でありました…三章
summerへと続く。

肥後もっこす者に感謝して
また、明日。

for you…playback Part 5

🌙rain season
14話「ダイヤルM」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そして、最大のミッション
「ダイヤルM」即ち
彼女の電話番号を聞きだす事が
果たして出来るので
ありましょうか❗️

どちらかと言えば、異性との
会話に不慣れなアフリカーナ。
親に反抗し犬以外に
心を許さなかった幼少期。
色気付いた青年期は男子校…。
全ては雄と男社会で
育って来たのです。
歩んで来た道が違うのです。

丸坊主の中学生が進級し
髪を伸ばせることに
一喜一憂した高校時代。
前髪の伸びが
遅いことに業を煮やし
フローリンと云う名の
育毛液を頭皮に
ふり掛けていたあの日…。
苦労の甲斐あってか
アイパーをあてる迄に至った
最初の髪型はリーゼントでした。
その時の歓びは
云うまでもありません。
そんな青春時代を
送って来た男に電話番号GET
なる超高度な技術
ハイセンスなスペックを
学ぶ機会も時間も
有りはしないのでした…。

だけれど、チャンスは
待ってはくれません。
ぶっつけ本番の真剣勝負!
手際の良いMのレジ捌きは
見事なものです。
僕は只々間合いを
伺っておりました。
心の中で掛け声を…
(いち にいー の~さん)
今だ!の瞬間
お釣りが手渡されました。
口が開いたの同時にMの
「有難う御座いました」に
僕の「あの 電…」は
掻き消されてしまうのです。
足早に勘定場を去る
彼女の姿を目で追う他に
術がありません。

異様な髪型軍団の面々は、
笑いながらおでこに
手をあてて「あいた〜」と
ばかりに空中を仰いでおります。
僕は振りあげた拳ならぬ
「番号教えて」を言えない
ままにそのか細い声の
落し所を探すのです。
十代で学ぶべき試練なるものを
二十代中盤で体感する
悲しきアフリカーナ。
遅すぎた思春期…。
青くて苦い失敗でありました。

大人の酒場 三宿。
店の階段を降りれば、
この街にも
雨の匂いを含んだ風が
吹いていました。
それは、夏を迎えるための
長い梅雨前線の
到来でありました…続く。

青い体験に感謝して
また、明日。

🌙rain season
15話「センスマン」

聞こえてますか?
「ナンパしたことないの?」
もう一人の踊り子
2ブロックちょんまげ頭が
口火を切りました。
このepisodeには、
育って来た環境
また、風土の違いを語って
置かなければなりません。
少しばかりMの話からは反れ
肥後もっこすの話に
お付き合い願います…。

昭和61年 熊本城下町。
熊本市内に進学した
男子学生達を
大きく二つに分けると
こうなります。
肥後五十二万石 加藤清正 創建
熊本城が見える距離で育った
市内弁を使う山の手の方々を
「センスマン」と云い
もう一方、城下には程遠い
山岳部 海岸地帯から
汽車やバス 渡し船など
あらゆる交通手段を使って
通う者を「ヤンキー」などと
呼んでいました。

この両者、髪型も違えば
ファッションも異なり…
何より言語が違うのです。
同じ熊本地方にあって
言語が違う?と
お思いでしょうが
それは、多感な男たちの
棲み分け手段としても
顕著に現れます。

⚠️(センスマンが使う言葉)
「〜だっちかっ」
【翻訳】
「だけど」を
山の手のセンスマンは、
「ばってん」を使わずに
高等なスタッカートを利かせて
だっちかっ”と表現して
見せます。市内弁(センスマン)の
特徴のひとつであります。

そして、
マッシュルームのような
髪型をした彼らの
十八番と云えば
ナンパでありました。
熊本最大の歓楽街
裏(うら)上通り裏(うら)下通りで
揃えたブランドの服を着こなし
そのさらさらとした
前髪をなびかせて
さりげなく
異性の懐深く入り込む
人種なのでありました…続く。

高校時代に感謝して
また、明日。

for you…playback Part 4

🌙rain season
11話「Mission」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
「打ち上げ何処に行く?」
の号令一下!リハを終え
我らが向った先は、紛れもなく
強いアルコールが多数存在する
メキシコ料理店を置いて
他に無いのでありました…。

国道246号線三宿の交差点。
進行方向を三軒茶屋とし
左に曲がれば
彼女Mが住む下馬方面に
行くことが出来ます。
その道路沿いの並木道には、
三宿の街を象徴するかの
ようにお洒落な店舗が
軒を連ね賑わいを見せており
ZESTの姉妹店でもある
イタリア料理店ラ・ボエムも
その並びにありました。
後にそこは、もう一つの
想いでの場となります。

だけれど、そこに至るまでに
何度もの試練を乗り越えなく
てはなりませんでした…。
そんな事など知る由もない
憐れなアフリカーナは、
自身の音楽活動に邁進し
その身に付ける衣装も
エスカレートする一方で
どんどんと薄汚れて
行くのでした…。

あの頃を振り返るたびに
思うのです。
上京して数年…。
誰もやっていない新しい音楽を!
それを目指して
しゃかりきだった時代。
そんな自分を俯瞰で見る余裕が
無かったようです。
少しだけ思い込みの強い僕は、
音楽と同様 三宿のMにも
のめり込んでいく事になります。
こっぴどく振られ
これでもかってくらいに
叩きのめされることも知らずに…。

そんな僕の最初のMissionは、
ダイヤルMをまわせ!ならぬ
「Mの電話番号を聞きだせ!」
でありました…続く。

夢に感謝して
また、明日。

🌙rain season
12話「ダイヤルM」前編

聞こえてますか?
【M_1電話番号GET作戦…】
携帯電話並びにスマートフォン
など無い時代。
当然、現代のようなSNSなど
発展を遂げてはおらず
「LINE教えて〜」的な
軽い乗りで聞き出せる
代物ではありません。
自宅なのです。固定式です。
東京03なのであります。
全てはNTTが
支配していたのです!
それはそれは、
高いハードルでありました。

皆一様に口を
揃えて言いました。
「彼女は無理だよ…
…違い過ぎる」続けて
揶揄うように
メンバーのひとり
巨漢の持ち主が、
図太い声をあげながら
「その髪型じゃね〜」と
笑います。モヒカンに
言われたくはありません。

次にスキンヘッドの
ハードロッカーが、
「ファッションのセンスがね」
などと吐かします。
夏でもライダースの革ジャンを
着ている男に
言われたくはありません。
僕にしてみたら
その肩にあしらった
金属の突起物!
「それで何を…
刺したいのですか?」と
言いたくなるくらいです。
暑苦しくてなりません。
却下です。

そして、ダンサーである
ドレッドヘアーの彼。
「裸ですか?」と
訪ねたいくらい
服を着ているにも拘らず
肌の露出度が何気に多い
筋肉マンが、
トドメの言葉を放ちました。
「先ずは電話番号だね〜」
大当たり、正解です。
だけれど、
当たり前と云えば当たり前。
どう聞き出すかが
肝心なのです。

そんなことに時間を
割きながら今日も
Mの電話番号を聞きだせない
異様な髪型軍団の夜は
過ぎて行きました。
「ダイヤルM」
ミッション イン ポッシブルの
遂行までには、暫くの時間と
少しばかりの勇気を
必要とするのでした…続く。

異様な髪型軍団に感謝して
また、明日。

🌙rain season
13話「ダイヤルM」中編

聞こえてますか?
チャンスは突然に!
いつものように
一頻り呑んだ我ら軍団は、
お会計に向かいます。
そのレジ打ち つまりは、
勘定場にMの姿がありました。
皆一様に顔を見合わせ
絶好の機会とばかりに
僕の顔を伺っております。
異様な風貌の割に
あがり症のアフリカーナ。
人間…意識すると
どうもにもいけません。
ゼンマイ仕掛けの機会的な
手足の動作と胸を押さえ
付けられたような圧迫感。

そんな僕は、
自然に財布を取り出し
さりげなく支払いを
済ませられるのでしょうか?
それだけでも
高い壁であるようです。
そして、最大のミッション
「ダイヤルM」即ち
彼女の電話番号を聞きだす事が
果たして出来るので
ありましょうか❗️…続く。

チャンスに感謝して
また、明日。

for you…playback Part 3

🌙spring
7話「お嬢様」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
椋の木を使った贅沢な造りの
一本カウンターは、
荒削り風に施され職人の気概を
感じさせてくれます。
手作りで作られた
指揮台のようなそれは、
奥までと伸びていて
この店の象徴で
ZESTの顔でありました。

僕は、凹型の二階席を好み
ソロで活動していた事もあり
そこで労いを込めて
手伝ってくれるメンバーと
一緒に酒を飲むのでした。
なかなかどうして…。
いつも笑顔で客に
対応するMは、僕が知らない
世界の人のようでした。
山の手の人と云うべきか…。
無垢で清楚を纏ったような
身の振る舞い、育ちの良さ…。
一言でいえば、
絵に描いたような
『お嬢様』でありました。

凹型の席に陣取る
ドレッドヘアーに三つ編み、
スキンヘッドとモヒカン
そして2ブロック
ちょんまげ頭の面々…。
一般的では無い
異様な髪型の集団。
そんな我らにも
気さくに対応してくれる
ショートカットの女子大生M。
最初の印象は、
明るくて感じのいい
お嬢さんでありました…続く。

お嬢様に感謝して
また、明日。

🌙spring
8話「コップ一杯の水」前編

聞こえてますか?
さて、
『コップ一杯の水』の話。
その当時から
大して酒が強いわけでも
ないのに飲み慣れぬ
度数の高い
アルコールを喰らいます。
愚かです。
女性には理解不能な事柄が
オトコ社会にはあるのです。
闘いなのです。
酒の呑みっぷりを
競ったりする生き物なのです。
残念です。

一様座長である僕は、
メンバーを楽しませようと
しゃかりきであります。
弱い癖に一気飲みなどをして
皆を引っ張ります。
旗ふりの役割りなのか
宿命と云うべきか…。
つまらない飲み会では
次が無いのです。
だけれど、
結果は明白。その顛末
酒に飲まれた僕は、深い眠りに
つくのでした…続く。

アルコールに感謝して
また、明日。

🌙spring
9話「コップ一杯の水」後編

聞こえてますか?
「ここはどこ?私は誰?」
ある種テレビドラマのような
シチュエーション…。
最初 目に飛び込んで
来たものは、
天上高く吊り下げられた
三枚翼のスプリンクラー。
それは、その夜の役目を終えて
静かに停止していました。
その次に目にしたものは、
テーブルにポツンと置かれた
『コップ一杯の水』…。
漸く意識を取り戻した僕は、
このお店の閉店を知り
事の真相をスタッフから
教えられるのです。

酔った僕が、メンバーから
揺り動かされても
起きなかったこと…。
諦めた彼らが、僕を置き去りに
笑いながら
帰って行ったこと…。
それから、
喉の渇きを覚えた僕は
ポツンと置かれた
『コップ一杯の水』を
飲み干し勘定を済ませ
メキシコ料理店を
後にするのでした。

あの頃の我ら、即ち
異様な姿形をした男たちに
とって酔っ払い記憶をなくすの
なんて珍しい事ではなく
持ちまわりのバップ(遊び)
の様なものでした。
今日は、誰を潰す!
それがメンバーの理り…。
潰れるのが主流で
あったのです。
ただ、気遣いに
コップ一杯の水を置いていく…
なんて芸風を
彼らが持ち合わせて
いるとは思えません。

後日スタジオに集まった
メンバーのひとり
モヒカン頭の彼が言うのです。
巨漢にその図太い声を
あげながら
「あの水を持って
来たのはあの子だよ」
続けて「ひとりぼっちじゃ
可愛そうだから」と
言っていた事も覚えており
ニヤリとしたその唇に
好奇心を滲ませて
話してくれるのでした。
ポツンと置かれた
『コップ一杯の水』
それは、紛れもなく彼女
Mのことでした…続く。

その優しさに感謝して
また、明日。

🌙spring
10話「M脳」

聞こえてますか?
それを聞いた時の感情を
どう表現すれば良いのでしょう…。
その後、発表される
ハリウッド映画
ブラッド・ピット主演の
【ジョーブラックによろしく】
大切な台詞として
散りばめられた言葉…。
「稲妻に打たれる」
突然やって来る熱い感情
それは痛みすらも帯びた
激しい心の動き。
どうやら、それなるものに
僕も打たれたようです。

元来単純に
構成された僕の脳
なんちゃってアフリカーナは、
そんな些細なことに
異常な反応を示すようで…
リハーサルを終える迄もなく
すっかりM脳に侵食されて
いるのでした。

「打ち上げ何処に行く?」の
号令一下!リハを終え
我らが向った先は、紛れもなく
強いアルコールが多数存在する
メキシコ料理店を置いて
他に無いのでありました…二章
rain seasonへと続く。

新しい恋に感謝して
また、明日。

for you…playback Part2

🌙spring
4話「アフリカーナ」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
これより先は、
少しばかり時間を戻して
Mとの出会いから
どうしても洗えない髪と
その仲間たちの
話を交えながら綴って
行きたいと思います。

若気の至りとは
良く言ったもので
少しだけ思い込みの強い僕は、
心底アフリカンにのめり込み
打楽器と歌の世界を
追求していました。
決してアフリカーナには
なれないものを…。
肥後ノ国 港町である三角は
戸馳島の出身であります。
育って来た環境や
リズムが違うのです。

田舎の友人にしたらこうです。
「わら〜何しよっとや
親が泣くぞ!東京に
魂売って染まったつや!」
【翻訳】
「身の程を知りなさい…
東京に魂売った
男など友達じゃない!
親が泣いているよ」
⬆︎こんな感じであります。
髪を洗えない
残念なアフリカーナ。
それを思い知るに至るに
暫しの時が必要でありました。

Mとの出会いも
そんな袋小路に迷い込んだ
僕の過渡期の話。
四つ年下の彼女との
お付き合いに至るまでの
きっかけは「コップ一杯の水」
でありました…続く。

その水に感謝して
また、明日。

🌙spring
5話「三宿ZEST」前編

聞こえてますか?
東京は池尻大橋。その昔、
龍池と呼ばれたその尻尾に
リハーサルスタジオが
ありました。なんちゃって
アフリカンの僕は、
そのスタジオを砦とし
稽古を終えれば決まって
その龍池の中心部
三宿のメキシコ料理店へと
足を運ぶのでした。

賑わいを見せていたZEST。
田舎育ちの僕にとって
正にそこはテーマパーク。
映画のシーンに出て来ても
可笑しくはない建物であり
ブリキで作られた外壁は、
手抜き工事と思わせる演出で…。
ザックリとビスで
撃ち抜かれたそれは
細部までしっかりと
計算された斬新なデザインで
あったのです。
うす汚れた波型のトタンは、
このお洒落な街にも
さり気なく溶け込んで
見せているのでした…続く。

三宿の酒場に感謝して
また、明日。

🌙spring
6話「三宿ZEST」後編

聞こえますか?
中にお邪魔すれば…
吹き抜けの大開口。
見下ろすように建てられた
凹型の二階は広く
この店内を一望出来る
場所であり吊り下げられた
スプリンクラーは優雅に
ゆっくりと廻っておりました。
階段を上った入り口の
右手にはテラス席があり
夜風を愉しむのに
もってこいの酒飲み場で
中心部の大広場のそこは、
オーケストラの楽団が演奏する
オペラ劇場のような
雰囲気すら醸し出しております。

椋の木を使った贅沢な造りの
一本カウンターは、
荒削り風に施され職人の気概を
感じさせてくれます。
手作りで作られた
指揮台のようなそれは、
奥までと伸びており
この店の象徴でありZESTの
顔でもありました…続く。

今は無き三宿ZESTに感謝して
また、明日。

for you…playback Part 1

🌙spring
1話「三宿のM」

聞こえてますか?
「あなたは嫌いじゃないけれど
きっと好きにはなれない…」
彼女の声は、言葉の玉となり
水面に零れ落ちる雨粒のように
ポトン”ポトンと僕の心に
波紋を拡げて行くのでした。
この静寂に雨音だけを響かせて…。

好きな人がいて
そしてその相手が
同じ気持ちだなんて奇跡に近いこと…。
そう思っていました。
だけど、今をもってしても
解けない謎があります。
あの時 彼女「三宿のM」は、
何故 僕を受け入れてくれたのか?
「そして、あの人…」の存在。
この日記では、
Mとの出会いから
楽曲 for you…が出来るまでを
綴っていきたいと思います。

ここは東京。
渋谷に近くお洒落な大人の街…三宿。
歴史を遡るとその昔
この辺りは、蛇池又は龍池と呼ばれた
水の宝庫であったとか…。
お隣りの池尻
低地部の北には池ノ上。
挟まれるような地形にあるそこは、
水が宿る地と呼ばれ本宿 南宿 北宿
と云う地名から「水宿」が転じて
名付けられた三宿。

国道246号線 玉川通り。
1990年代当時 三宿の交差点近くに
嘗てZESTと呼ばれた
メキシコ料理店がありました。
三宿の彼女Mとは、
そこでアルバイトをしていた
ショートカットの大学生。

「あなたはタイプじゃない」
僕は、その三宿の彼女つまりはMに
こっぴどく振られてしまうのです。
彼女とのはじまりは、
散々たるものでありました…続く。

三宿の街に感謝して
また、明日。

🌙spring
2話「洗えない髪」前編

聞こえてますか?
さらに…。
「あなたの格好が嫌!」
「何よりそんな髪型の人とは
絶対無理!」
僕だって人の子。
そこまで言わなくても…なくらい
正直でもの事をズバリと言う
女性でありました。

ただ、言われて当然な
ところも確かにあったのです。
あの当時の僕は、
打楽器音楽に傾向し
カポエラなる格闘技のダンスを
楽曲に取り入れ
アフリカンに陶酔しておりました。
それに伴い僕の姿形も
変貌を遂げるのでした。

「その髪いつ洗うの?」
三つ編みにした肩まで伸びる髪に
パステルカラーのビーズを
あしらったそれを指差し
Mが言うのです。
それは、洗ってはならない
髪型でした…続く。

あの頃に感謝して
また、明日。

🌙spring
3話「洗えない髪」後編

聞こえてますか?
普通に洗えば、
直ぐに崩れてしまいます。
頭皮だけをマッサージするように
週に一度 ないしは二度…。
痒みに打ち勝てば、人間大抵の
事には慣れるものです。
問題ありません。

以前あなたの事を書いた日記…。
顔の三倍はあろうか
アフロばりのそのくるくるパーマは、
「スズメの巣ですか?」
と言いたくなる代物で、
決して風になびくことのない
その金色の髪の毛は
乾いた紙粘土のようでも
ありました…。
「畦道とハイヒール」episode1より

血は争えません。
奇抜な風貌は母親譲り。
僕はやっぱり
あなたの息子でありました。

そんな事など知る由もないM。
只々彼女には、
我慢がならないのです。
世捨人のような衣装を身に纏い
虫が棲みついても可笑しくない
ロングヘアーのうす汚れた男を
恋愛対象としてどうしても
見れないのでした。
Mは、新種の動物を見るかのように
その眼差しを向けた後
ありえない!とも言いたげな素振りで
被りを振るのでした…。

これより先は、
少しばかり時間を戻して
Mとの出会いから
どうしても洗えない髪と
その仲間たちの話を交え
綴って行きたいと思います…続く。

若かれし頃に感謝して
また、明日。

 

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…last

 

🍁最終章/55話「それから」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
あれからの僕らは、
離れたり戻ったりを繰り返し
その先にあるものに目を伏せて
次第に努力さえも
しなくなって行きました。
そして
それからの僕たちは、
四度目の夏を迎えることは
なかったのです。
1995年 夏の終わり。
その年号とその季節が
二人のピリオドを教えて
くれたのかも知れません。

彼女が拵えた店内の雰囲気を
愉しみながら僕はお酒を
美味しくいただきます。
錦糸町に根を張り女手ひとつで
のし上がって来た彼女の剛と
生きざまを感じずにはいられません。
その日 遊びに来ていた
彼女のお母さんも元気でした。
一つ違いの妹は、
姉を助けるように
お店の切り盛りで一生懸命です。
母…姉妹、家族。
それはとても
美しい光景であるのでした…。

【回想1】
坂道をのぼり出す頃に
彼女は、手回しでドイツ車とは
名ばかりの車の窓を開けました。
東京湾に近いそこは
海風がよく通り
潮の香りと夏の到来を
教えてくれたりもします。
7話「船橋橋」より
【回想2】
助手席に座る彼女は、
壊れた空調設備の代わりに
手回しで車の窓を開けました。
夏の香りを招き入れるように
彼女の長い黒髪は、
その風に吹かれていました。
1話「百草高台」より

さっきまでの僕と彼女は、
こうして乾杯する迄に
別々の道を歩んできました。
互いに色々あったのは、
目を見ればわかるものです。
「体は大丈夫?」
すっかりそんな会話が成立する
年齢になってしまいました。

相変わらず彼女の声は、
どこか自信なさげで 儚くも
僕の耳には心地よく響いています。
前に出ようとはしないタイプの彼女。
それは、年齢と様々な試練を重ね
その謙虚さと姿勢の良さを
さらに増しているように思えました。

【回想3】
僕は、歌でも
聴いている気持ちで
その声に耳を傾けました。
それは、とても心地よく響き
僕の心にゆっくりと
降りて来るのでした。
夜明けが、
この屋根裏部屋にも
初夏の風を運んでくれています。
そして僕はまた、何本目かの
煙草に火を点けるのでした…。
5話「屋根裏部屋」後編より

そして、二杯目のグラスを空けて
僕と彼女とその家族は、
あらためて乾杯をするのです。
2017年12月11日
今日は彼女の誕生日。
あの百草高台の
屋根裏の夜から二七年が
経っていました…最終話へ続く。

君の家族に感謝して
また、明日。

🍁最終章/最終話「船堀橋の風」

透明度を増した十二月の空は、
その沈みゆく夕日も黄金色に
キラキラと輝いていました。
新大橋通りと船堀街道の交差点。
左手に見える船堀タワー。
ここでの信号待ちは、
いつだってあの頃の想いでを
連れて来るようです。

あの時よりも幾らか大きい車の
クラッチを踏み、
ギアーをファーストに入れました。
それから僕は、
肌寒い季節にも関わらず
窓ガラスをいっぱいに開けて
ゆっくりとそこへと続く坂道を
のぼるのです。
船堀橋に吹き抜ける
あの風を感じるために…おわり。

君に感謝して
また、明日。