汚れなき愛を信じて 総集編 playback…2

🌿一章/4話「クリームシチュー」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
連絡先を交換してから
お互いの家を行き来する
ようになるまでに、そう
時間はいりませんでした。

聖蹟桜ヶ丘駅近くのスーパーで
買い出ししたものを
彼女は、その屋根裏のある
狭いアパートの台所で
捌いています。
僕は、ベランダの窓をあけました。
クリームシチューの匂いが
外にまで香って来ています。
僕は、先ほど通って来た
畑を眺めながら
缶ビールのプルリングに
指をかけました。
彼女も一杯やっているようです。

この百草高台にも
既に夜の帳が下りはじめ
都市部より気温が
一度二度低いこの街の風は、
少し冷んやりとしていました。

彼女が作る料理は、
とても美味しく
リクエストに応えてくれた
ほうれん草入り
クリームシチューは、
絶品でありました。
彼女の料理を食べながら
僕らは、はじまったばかりの
二人の会話を愉しみます…。

最初の待ち合わせ場所は、
錦糸町駅前にある
丸井のデパート前でした。
夜も深い時間だけあって
車の往来も疎らな京葉通りは、
容易に駐停車出来る空き具合でした。
だけれど、彼女はもう既に
来ているようです。
スラリと伸びたその長身は、
夜にだって目立ってしまいます。

それから僕らは、
おそらく東京で一番
綺麗な夜景が見える場所へと
車を走らせるのでした…続く。

そこから見えるものに感謝して
また、明日。

🌿一章/5話「屋根裏部屋」前編

聞こえてますか?
彼女が聞きました。
「私に出来ることは?」
屋根裏部屋は、煙草の煙で
少し霞んでいました。
空中に浮かぶその煙の輪を
僕は目だけで追っています。
シーツに包まった彼女は、
その答えを
待っているようでした。
僕は起き上がり
その部屋に一つだけ設けられた
小さな円窓を開けます。
そして僕は被りを振りました。

窓から零れた光が、
この部屋の埃を際立たせ
その柔らかい風は、
楕円状の煙を揺らしています。
「側にいるだけでいい」と
僕は横になりながら
想いを声にしてみました。
今度は、彼女が起きあがり
煙草の火を消す番になりました。
その答えに満足出来ない彼女は、
また僕の腕に素早く滑り込み
話を繋ぎます。

僕は、歌でも
聴いている気持ちで
その声に耳を傾けました。
それは、とても心地よく響き
僕の心にゆっくりと
降りて来るのでした。
夜明けが、
この屋根裏部屋にも
初夏の風を運んでくれています。
そして僕はまた、何本目かの
煙草に火を点けるのでした…続く。

その光に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…1

🌿一章/1話「百草高台」

聞こえてますか?
京王 聖蹟桜ヶ丘。
ジブリ作品
『耳をすませば』の
舞台にもなったその百草高台。
美しい曲線が伸びた
丘の上までの坂道は、
道幅も広く整備されていました。
だけれど、
傾斜の強い登り坂だけに
走行距離10万キロを
こえる中古車には、
決してやさしいものでは
ありませんでした。
だから僕は、
大きく『のノ字』を描くような
その道をたどるのに
ハンドルを右に左にと
忙しく回さなくてはなりません。

助手席に座る彼女は、
壊れた空調設備の代わりに
手回しで車の窓を開けました。
夏の香りを招き入れるように
彼女の長い黒髪は、
その風に吹かれていました。

微かに捉えることの出来る
遠くの新宿高層ビル群。
聖蹟桜ヶ丘の街並みが
一望出来る場所。
厚木 愛川の街から
そこへ移って来たのは、
1992年の
初夏のことでした…続く。

この街に感謝して
また、明日。

🌿一章/2話「夏の香り」

聞こえてますか?
丘に上がった僕らは、
洋風な家が建ち並ぶ
ロータリーをぐるりと回り
その草臥れた中古車を
ロープで区分けされた
アパートの近くの
駐車場に止めました。
エンジンを切っても
なお唸り声を上げる
ワーゲンのボンネットに
駅前のスーパーで
仕入れた食材をいったん置き
それらを抱えて
僕らは歩き出しました。

赤土でならされただけの
駐車場からアパートまでに
小さな畑が並んでいて
名も知れない花たちが
夏の訪れを
待ちわびるかのように
その風に揺れていました。
陽射しがまだ柔らかい季節。
彼女の長い黒髪が
太陽に反射して
キラキラとしていました。

長身の彼女は、
踵のある靴を履けば
明らかに僕の背丈を上回り
気遣いからか
今日もペッタンコの
靴を履いています。
二階建ての木造建築。
当時では珍しい屋根裏のある
アパートの鍵を
僕らは、開けました…続く。

新しい季節に感謝して
また、明日。

🌿一章/3話「出会い」

聞こえてますか?
彼女との出会いは、
錦糸町にあるCLUBでした。
その頃の僕は、
その店の専属の
ボーカリストとして
働いていました。
彼女のテーブルに呼ばれたのが
最初のきっかけでした。

お客様の席に付くことは、
そう珍しいことではありません。
呼ばれれば一緒にお酒を飲み
話の相手をする…
それも仕事のうちでありました。
たとえ、気が乗らなくとも
バンドのフロントマン
である以上声がかかれば
行かなくてはなりません。
たまには 差し入れや
チップなどを頂戴し
バンドメンバーと
分け合ったりと
歌手として駆け出しの僕は、
宣伝と営業を兼ねた
使命を担ってもいました。

だけれど、
彼女の時ばかりは別でした。
他の誰とも違っていたのです。
根拠など何もないけれど、
その先ににあるようなものを
彼女の中に見つけた
気がしたのでした。
それと同時に、
彼女の目は何処か悲しみを
帯びているようにも感じました。
それは、
とても魅力的でありながら
危うさを纏っているものでした。
決して開けてはならない扉…。
僕は、どうしてもそれが
何であるのかを
知りたくなったのです。
もう既に、その時から
彼女に惹かれていた
のかも知れません。

連絡先を交換してから
お互いの家を行き来する
ようになるまでに、そう
時間はいりませんでした…続く。

出会いに感謝して
また、明日。

聞こえてますか? 畦道とハイヒール 総集編 last 「金髪丸坊主」episode13

 

聞こえてますか?
昨日の続き…。
順応する天才。
その食に対する
飽くなき探究心だけは、
なんちゃって
漁師の女房の名に恥じぬ
ものでありました。

そんなあなたにもこの戸馳島で
お友達が出来ました。
家族ぐるみの付き合いでよく宴を開き
家庭用カラオケを愉しんでいました。
十八番は、銀座の恋の物語。
石原裕次郎と牧村旬子の
二人で歌うそれは、
映画にもなり現在でも
カラオケの定番の
デュエット曲として
愛唱されています。

あなたたちは、見つめ合い
ハモりながら喉を鳴らしています。
見ているこっちが
恥ずかしくなってしまいます。
けっして上手ではなかったけれど
その歌声は、
飲み会を盛り上げるに
充分なものでした。
何より島の人たちは、
歌が大好きでした。
でも僕は知っています。
「上手なカラオケQ&A」
なる本を読んでいたことを。
あなたなりに
頑張っていたのですね。

最初 戸惑っていた島での暮らし。
日に日に馴染んでゆくあなたを
見るのが好きでした。
誰よりも僕が嬉しく思っていた事を
あなたは知っていましたか?
メイクも薄く ファッションも
派手でなくなりました。
その代わり髪型だけは、
攻めていましたね!
「金髪丸坊主」
やっぱり、風にはなびきません。
今でこそ珍しくない
そのヘアースタイル。
だけれど、あの当時
そんな髪型にする女性を
僕は知りません。
まるで、生まれたての
お猿さんのように見えたものです。
流石の父も首を傾げるばかり…。
あなたは、どこまでいっても
あなたでした。

2017年夏。
嫌だったはずの赤いハイヒール。
風になびくことのない
金色の髪の毛。
なんだか愛おしく
素敵に思えてしまいます。

【回想】
天草の玄関口
三角港から渡し舟でゆく島。
みかん畑が連なる山々と
北に広がる有明海。
南には、不知火海を臨む
その島のことを人々は
戸馳島と呼んでいます。
そこに住む人たちは、
長閑な自然と寄り添い
暮らしていました。
そんな島の景観に逆向するかの如く
船着場までの畦道を颯爽と闊歩する
ひとりの女性がいました…。

東京の遥か向こう側。
あなたが眠る九州の地を想い
今日もまた、
西の空を見上げています…幕。

真っ赤なハイヒールを履いた
あなたに感謝して
また、明日。

聞こえてますか? 畦道とハイヒール総集編 7 「追憶」episode12

 

聞こえてますか?
昨日の続き…。
去来する堂々巡りの感情は、
後悔と云う大きな波となって
押し寄せて来ます。
それでも僕は、抗い 溺れながらも
却ってくる筈のない
答えのようなものを
今も探しています。

あなたにまつわるエトセトラ。
仲が良かった四姉妹。
家族みんなで行った
海水浴での一齣…。
何故かあなたはカレーを
拵えて海に出向いたそうですね。
きっと張り切ったんでしよう。
タッパーにまとめたそれを
皆に振る舞います。
だけれど
それを食べた者たちは、
軒並みお腹を
壊していったそうですね。
夏の日射しと温度を
読み間違えたあなた。
海水浴も台無しです。
以前 日記にも触れた
我が家のカレーが
缶詰だったこともこれで頷けます。

こんなこともありました。
島での暮らしも板につき始めた頃。
僕も二桁の年齢に達していました。
漁に出た父を待ち岸壁に佇むあなた。
一見美しい光景に見えるけれど
本当に待っていたのは、
父ではありませんでしたね。
彼が獲ってくる渡り蟹が、
お目当てでありました。
湯がくだけのシンプルな
料理方法で食べるそれに
あなたは目がありません。
とくに卵を持つ牝の渡り蟹が
好物でした。
「あたしは、これさえあれば
なぁ〜んもいらん」
【翻訳】
「私は渡り蟹が一番好き」
実に見事な食べっぷり。
綺麗にペロリと平らげます。

順応する天才。
その食に対する飽くなき
探究心だけは、なんちゃって
漁師の女房の名に恥じぬ
ものでありました…続く。

あなたの青春時代に感謝して
また、明日。

いつか 帰る いつでも 会える
時は流れていたのに

君はマーマレード
オレンジ色の想いで
瞳を閉じたらいつも 君に逢える
僕の声を 届けて君の空
あの風にのせて ありがとう
マーマレード…
〜マーマレード/marmaladeより

家族に感謝して
また、明日。

聞こえてますか? 畦道とハイヒール総集編 4 「願い」episode7

 

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そんな暮らしの中で
どうしても
気になる女性が登場します。
幼稚園の先生でした。

犬の大五郎以外興味を抱かない
僕にとって
はじめてのことでした。
いつも笑顔で優しい先生は、
控え目な物腰に
化粧は派手なものではなく
限りなくナチュラルで
爽やかなひとでした。
何より、
黒髪が風になびいています!

僕にとってそれは、
大切なことでした。
アフロばりのスズメの巣のような
髪型のあなたとは大違いです。
そよ風をものともしない
その金色の髪の毛は
針金のようでとても不自然です。
自然体であることが
何よりもあなたに対する
僕の秘かな「願い」でした。
こんなエピソードが
ありましたね。
園の日帰り旅行で長崎の島原に
行った時のこと…。

👠「悲しい目」episode8

聞こえてますか?
1975年 雲仙記念撮影会。
楽しい旅の思い出を写真に残す
大切な儀式の筈でした…。

観光地として賑わいを見せる
長崎 雲仙普賢岳。
ひな壇に立ち並ぶ
親子と引率の先生たち。
嫌な予感はしていました。
写真は苦手です。
魂が抜かれます。
只でさえ笑顔などは作れません。

そんな我が家の事情なと
知る由も無いカメラマンが、
緊張を解そうとします。
無理もありません。
彼は仕事を
全うしているに過ぎません。
だけれど、その言葉が
トドメを刺しました。
「大好きな
お母さんの手を繋いで」
結果、僕を大胆な行動に
向かわせます。
シャッターを切る寸前のところで
あなたの手を僕は
振り解いてしまいました。
あの時のあなたの「悲しい目」を
今でも覚えています…。

2014年12月。
あなたを失い
アルバムを整理します。
白いパンタロンに
風になびくことのない
金色の髪の毛。
赤いハイヒールを履いた
あなたから少し離れた
五歳の僕を見つけました…続く。

君はマーマレード
オレンジ色の想いで
瞳を閉じたらいつも 君に逢える
夏が終わる 八月の夕日
馴染んでた君
僕はいついつまでも 忘れない
〜マーマレード/marmaladeより

セピア色の写真に感謝して
また、明日。

聞こえてますか? 畦道とハイヒール 総集編 3 「変わった子ども」episode5

 

聞こえてますか?
昨日の続き…。
やっぱりあなたは、
この星の人ではないと
そう思い込むことで
その時々をやり過ごしていました。
1975年の春は、僕の嘘から
はじまるのでした…。

あなたは僕に
「変わった子だね」と
よく言っていましたね。
僕から言わせたら
どっちが!です。
何故、他の人と違うのか?
母親に甘えることが、
当たり前とされた
子どもたちの理りの中で
確かに言われてみれば
僕の方も少し
違っている様でした。
ひらひらの服を着て
手を繋ぐことや買い物に
付き合わされることも
とても窮屈で苦手でした。
何故そうなってしまったのか…。
それは、園にあがる前の
環境に原因が
あるのかも知れません。

共働きの両親のもと
僕は、一日の殆んどを
ひとりで過ごしていました。
考えたあなたは、
僕に犬を宛てがいました。
番犬の意味合いも
あったのでしょう。
ひとりでいる事に慣れ
何よりそれが、
当たり前になっていく僕を
憂ての事だったと
今では思えます。
だけれど、あの時の僕には
あなたはの想いに応える術を
持ち合わせてはいませんでした。

そんな生活の中で
唯一心を許したのは、
共に過ごしていた
シェパード犬である大五郎。
彼だけが救いでした。
異なる動物同士とはいえ
垣根を越えた関係に
言葉はいりません。
同時に強い安心感を
彼に見出してもいました。

そして僕は、あなたに対し
子供の特権である「甘え」を
放棄し代わりに「無言」と云う
武器を手に入れました。
「五歳のあんたが〜」と
思うでしょうね。
だけど、小さくとも
そんな感情が芽生えたのは、
確かにあの時でした…。

👠「目にはみえないもの」
episode6

聞こえてますか?
あの時の感情をどう表現すれば
いいのかわかりません。
だけど、今こうして振り返ってみると
それは、園に集う子どもたちと
何ら変わることのない
僕の「甘え方」だったように
思えてなりません。
僕なりに示した唯一の反抗であって
「目にはみえない」
精一杯の愛情表現…。
ただ、それだけのこと
だったのかも知れません。

そんな園の暮らしの中で
どうしても
気になる女性が登場します。
幼稚園の先生でした…続く。

家族に感謝して
また、明日。

聞こえてますか? 畦道とハイヒール 総集編2 「ひとの目」episode3

聞こえてますか?
畦道とハイヒール 総集編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
TPOを完全に度外視した
あなたの出で立ちは、
当時 お茶の間を賑わした
地球外生命体
エイリアンに違いないと
子供ながらに疑ったものでした。

1975年 春 今日は入園式。
黄色い肩掛けポーチと
ひらひらの付いたフリルに
青いドット模様の服を着せられて
はじめての幼稚園に向かいます。
島にも保育園という
施設はありました。
だけど、宇土半島にある
その園に預ける事を
あなたは決めました。
それには、
理由があった様ですね。

車の免許を持たない両親。
島民にとって自動車は、
不可欠なものでした。
我が家では舟だけが頼り。
役所の手続きや、日々の生活に
便利な場所を選ぶのは
無理からぬことでした。
そんな家庭の事情も重なり
僕は、他の子供よりは少ない
一年間という
半島での幼稚園生活を
送ることになりました。

そんな親の思いなど
知る由もなく
僕は只々恐れているのでした。
あなたのことです。
入園式では、
きっと張り切るでしよう…。
日に日にエスカレートする
メイク&ファッション。
五歳になったばかりの僕は、
あなたを見る人の目ばかりを
気にしていました。

👠「嘘」episode4

聞こえてますか?
宇土半島のつま先
三角岳をはじめとした
山々が連なる三角町。
その中のひとつ、
天翔台なる山の裾野に
あなたが決めた幼稚園が
ありました。
僕はそこで更に疑念を
深めてしまいます。
皆一様に手を繋いだ
園児たちがやって来ます。
だけれど、僕の興味は目下
その手を引く保護者の方で
ありました。
何故ならそこへ来る女性は、
僕が思い描くお母さん像
そのものだったからです。

そして僕は、
あなたを見上げるのです。
新型のmake up…。
いつにもまして
顔が光っています。
金と銀の折り紙を散りばめた
ようなそのキラキラは、
「どこの壁に
ぶつけたのですか?」
と聞きたくなる位であります。
港町の春の日差しを
甘く見てはなりません。
照り返しがきついのです。
チカチカしてシュパシュパ
しております。
あなたは、そこでも
完全に浮いていましたね…。

「あれ、誰のお母さん?」
半島に住む見知らぬ子供が
僕に尋ねました…「知らん」。
僕は、直ぐバレる嘘を
つきました。
人と違うということに少なからず
抵抗を感じていたのです。

やっぱりあなたは、
この星の人ではないと
そう思い込むことで
その時々を
やり過ごしていました。
1975年の春は、僕の嘘から
はじまるのでした…続く。

遠き日に感謝して
また、明日。

聞こえてますか? 畦道とハイヒール 総集編 1 「宇宙人」episode1

 

聞こえてますか?
あなたは、
まるで宇宙人のような人でした…。

1975年 肥後ノ国
天草の玄関口
三角港から渡し舟でゆく島。
みかん畑が連なる山々と
北に広がる有明海。
南には、不知火海を臨む
その島のことを人々は
戸馳島と呼んでいます。
そこに住む人たちは、
長閑な自然と寄り添い
暮らしていました。
そんな島の景観に
逆向するかの如く
舟着場までの畦道を
颯爽と闊歩する
ひとりの女性がいました。

今にも折れそうな
真っ赤なハイヒールの靴を
履いたあなたは、
今日も僕の手を引きながら
買い物へ出掛けます。
顔の三倍はあろうか
アフロばりの
そのくるくるパーマは、
「スズメの巣ですか?」
と言いたくなる代物で、
決して風になびくことのない
その金色の髪の毛は
乾いた紙粘土のようでも
ありました…。

👠「告白」episode2

聞こえてますか?
シルビヴィ・バルタンを
好んで聴いていたあなたは、
なんちゃってパリジェンヌ。
メイクひとつにしても
丹念に仕上げます。
何処を真似て何を間違ったのか
何もそこまでしなくても!
と云うくらい塗り重ねた
白いキャンパスに
あなたは、
ルージュを引きました。
まるで、まんが日本昔ばなし
に登場する
お公家さまのようです。
幼い頃の僕は、
そんなあなたが少しいやでした…。
島の住民にそのような
風変わりな女性は、
ひとりもいませんでした。

TPOを完全に度外視した
あなたの出で立ちは、
当時 お茶の間を賑わした
地球外生命体
エイリアンに違いないと
子供ながらに
疑ったものでした…続く。

二十六歳のあなたに感謝して
また、明日。

聞こえてますか? あなたに捧ぐ…。 眠り/nemuri

 

聞こえてますか?
「まぁ〜まぁ〜ねぇ〜」
主治医から一時退院を許されて
我が家に帰って来たあなたは、
そう 言っていましたね。

あなたの退院を祝い。
友人 親戚 一同が集まる中で、
僕は『眠り』と云う曲を歌いました。
皆、一頻り 飲んで 食べて 笑った
一夜限りの『宴』
その賑やかさにあなたは、
ついつい夜更かしをして
しまいましたね…。

「あの曲を聴かせて」
再び体調を崩し横になっていた
あなたの声がします。
そして、
僕の手をかりて
ベッドから起き上がりました。
それから僕は、
携帯のイヤホンを
あなたの耳にあてるのです。
「もう一回…」
あなたは、
まだ未完成だったその曲を
病室の窓の外を眺めながら
ずっと聴いていました…。

ひと夢に感謝して
また、明日。

聞こえてますか? あなたに捧ぐ…。マーマレード/marmalade 1

聞こえてますか?
あなた、はいつも
出迎えてくれましたね。
家の窓から舟が
見えるものだから。
父が漁から帰って来る時。
僕が学校から帰って来る時。
それから、
送り出してもくれました。
中学を卒業し家を出た時。
上京する時。
そして、病院の踊り場でも…。
見えなくなるまで手を
振っていましたね。
小さな体から伸びた
その細い腕で…。
あなたらしい
その独創的な手の振り方で…。

あなたが好きだった
シルヴィ・バルタンを
聴きながら車を走らせます。

療養を送る市内の病院まで
戸馳大橋を車で渡たり1時間30分。
熊本の空は、
ビルに切り取られた
東京のそれよりも広いから
帯山方面に建つ
電波塔がよく見えます。
山を越えたら
それを目指して車を走らせます。
不安な夜を過ごすあなたは、
僕と同じものを
その窓から見ていたんだと
今も思っています…。

🎵
遠い夏の日 君は風を集めて
海を渡る人
いつも 見つめていたね
茜色の空
時を止めたのは 何故

君はマーマレード
オレンジ色の想いで
瞳を閉じたらいつも
君に会える
夏が終わる 八月の夕日
馴染んでた君
僕はいつ いつまでも
忘れない

2014年12月17日
あれから、四年の今日に…。
あなたに感謝して
また、明日。

🌙マーマレード/marmalade 2

聞こえてますか?
子供には分かりませんでした。
何で、牛乳を飲まなくては
ならないのか。
どうして、野菜を勧めるのか。
何ゆえ、我が家の献立は
骨があって食べにくい
魚が多いのか。
どうして、何で?

1、家庭の事情
2、魚はタダ
3、父の好み

本当は、ハンバーグが
食べたかった…。
🎵
街を離れて過ぎた 季節の中で
変わらないものは 君の温かい心
「お腹空いてない?」
電話の向こうの 声

君はマーマレード
オレンジ色の想いで
瞳を閉じたら
いつも 君に会える
輝いてた 飾らない笑顔
心の中に 君が
いついつまでも いるから
歌詞 マーマレードより

おふくろに感謝して
また、明日。