錦糸町 三弦

聞こえてますか?
昨日の続き…。
世界の終わりが来ても
耐え得るであろう虫と
チューチューと煩い
招かざる小動物たちの中で、
僕はプロになりました。

90年代初期のこの街には、
BGM的要素が強いお店以外にも
ビートルズの楽曲を演奏する
REVOLVERやグループサウンズ
を謳うGS-CLUBと云った
音楽を主とし聴かせる
Live houseがありました。
プロになって三年目
環境の変化を求めて
僕は、オーディションを
受けることにしました…続く。

一日一日に感謝して
また、明日。

錦糸町 二弦

聴こえてますか?
昨日の続き…。
表のステージの華やかさとは
裏腹にその中味は、
劣悪なものでした。
店での「箱バン」の地位は低く
スタッフの横暴さに
随分と悩まされました。
若かった僕は耐え兼ねて
喰って掛かるのだけれど、
来期契約を心配する
バンドマスターに諌められ
謝る羽目になることもしばしば。
名ばかりの楽屋は、
配管ダクトが通る通路。
空調設備などは皆無で
夏は蒸し風呂。
冬はボイラーパイプに
手を当てて暖をとり
譜面を書いたり
楽器の手入れをして
出番を待つのでした。
世界の終わりが来ても
耐え得るであろう虫と
チューチューと煩い
招かざる小動物たちの中で、
僕はプロになりました…続く。

歌えることに感謝して
また、明日。

錦糸町 一弦

聴こえてますか?
僕のCDデビューは1996年。
でも、始めて
ギャランティーを貰って
ステージに立ったのは、
それから遡ること五年前の
錦糸町のキャバレーでした。
当時バンドマンのことを
通称「箱バン」と呼び
クラブやキャバレーが
生バンド演奏の謳い文句で
高級感を演出した時代でした。
僕がその世界に飛び込んだのも
そんな最盛期の
バブルに湧いた頃のことでした。
けれど、表のステージの
華やかさとは裏腹に
その中味は、
劣悪なものでした…続く。

この街に感謝して
また、明日。

マーマレード trois_3

聞こえてますか?
あなたが好きだった
シルヴィ・バルタンを聴きながら
車を走らせます。
戸馳島からあなたの居る病院まで
橋を渡り車で1時間30分。
熊本市内の空を見渡せば
帯山方面に建つ
電波塔がよく見えます。
宇土半島の山を越えたら
それを目指して車を走らせます。
あなたもその窓から
同じものを見ていたんだと
今も思っています。

街のあかりが灯る 赤い電波塔
眠れない夜 君は何を見つめて
幾つまで数え 瞳を閉じたら 夢
歌詞 マーマレードより

あなたからの贈り物に感謝して
また、明日。

マーマレード deux_2

聞こえてますか?
子供には分かりませんでした。
何で、牛乳を飲まなくては
ならないのか。
どうして、野菜を勧めるのか。
何ゆえ、我が家の献立には
いつも、骨があって食べにくい
魚が登場するのか…?
un_家庭の事情
deux_魚はタダ
trois_父の好み
本当は、ハンバーグが
食べたかった…。

街を離れて過ぎた
季節の中で
変わらないものは
君の温かい心
「お腹空いてない?」
電話の向こうの声

君はマーマレード
オレンジ色の想いで
瞳を閉じたら
いつも 君に逢える
輝いてた 飾らない笑顔
心の中に 君が
いつ いつまでも いるから
歌詞 マーマレードより

お魚に感謝して
また、明日。

マーマレード un_1

聞こえてますか?
あなたはいつも
出迎えてくれましたね。
家の窓から船が見えるから。
父が漁から帰って来る時。
僕が学校から帰って来る時。
それから、
送り出してもくれました。
中学を卒業し家を出た時。
上京する時。
そして、病院の踊り場でも。
見えなくなるまで
手を振っていましたね。
小さな体から伸びた
その細い腕で…。
あなたらしい
その独特な手の振り方で…。

♪ 遠い夏の日 君は風を集めて
海を渡る人
いつも見つめていたね
茜色の空
時を止めたのは 何故

君はマーマレード
オレンジ色の想いで
瞳を閉じたら
いつも 君に逢える
夏が終わる 八月の夕日
馴染んでた君
僕は いつ いつまでも
忘れない
歌詞 マーマレードより

あなたに感謝して
また、明日。

大五郎 最終話

聞こえてますか?
昨日の続き…。
僕も大五郎の後を追うように
海へ投げられるのでした。
岸壁の上からあの男が
叫びます。
「大五郎ば見ろ!」
「泳ぎば教われ!」
海底に足が届かない
スイミングは初めてでした…。
無茶です。愚かです。3才です。
死ぬかと思いました。
鬼としか思えなかった親父と、
犬掻きで近寄る涙目の大五郎を
今でもハッキリと、鮮明に
記憶しています。
僕に泳ぎを教えてくれたのは、
大五郎と呼ばれた
シェパード犬でした…終わり。

涙目の大五郎に感謝して
また、明日。

大五郎 四話

聞こえてますか?
昨日の続き…。
あの男が、近づいて来ます。
僕らの親父でした。
何を血迷ったのか、
突然彼を抱えるのです。
あの男にかかれば、
警察犬としても有名な
シェパードとはいえ形無し。
なす術もなく岸壁から
満ち潮の海へと
放り込まれます。
きょとんとする僕を、
あの男が見ています。
蛇に睨まれた蛙とは
よく言ったもので、
身の危険を刹那に
感じるものの動けません。
案の定、
僕も大五郎の後を追うように
海へ投げられるのでした…続く。

いつも一緒だった事に感謝して
また、明日。

大五郎 三話

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そんなある日のこと。
寝耳に水な事件が、
僕と大五郎の身に
降りかかるのでした。
それは、自然なものではなく
明らかに人工的な
犯罪と呼ぶべき出来事でした。
いつものように
彼と海遊びをしていると
仕事から帰った
あの男が、近づいて来ます。
僕らの親父でした…続く。

大五郎の忠義に感謝して
また、明日。

大五郎 二話

聞こえてますか?
昨日の続き…。
3才になったばかりの僕に、
はじめての友達が出来ました。
島育ちの僕らは、
何処へ行くのも一緒。
犬の散歩ではなく
彼に云わせれば僕の散歩でした。
山へ行けば危険な獣道を避け
海では誘導するかの如く
僕を鼻先で押しながら
浅瀬へと導いてくれました。
怪我をすればいち早く
大人達に知らせてくれたり
背中に乗せて遊ばせたり…。
正に彼は、ボディーガード
そのものでした。

そんなある日のこと。
寝耳に水な事件が、
僕と大五郎の身に
降りかかるのでした…続く。

献身に感謝して
また、明日。