聞こえてますか? 畦道とハイヒール 総集編 1 「宇宙人」episode1

 

聞こえてますか?
あなたは、
まるで宇宙人のような人でした…。

1975年 肥後ノ国
天草の玄関口
三角港から渡し舟でゆく島。
みかん畑が連なる山々と
北に広がる有明海。
南には、不知火海を臨む
その島のことを人々は
戸馳島と呼んでいます。
そこに住む人たちは、
長閑な自然と寄り添い
暮らしていました。
そんな島の景観に
逆向するかの如く
舟着場までの畦道を
颯爽と闊歩する
ひとりの女性がいました。

今にも折れそうな
真っ赤なハイヒールの靴を
履いたあなたは、
今日も僕の手を引きながら
買い物へ出掛けます。
顔の三倍はあろうか
アフロばりの
そのくるくるパーマは、
「スズメの巣ですか?」
と言いたくなる代物で、
決して風になびくことのない
その金色の髪の毛は
乾いた紙粘土のようでも
ありました…。

👠「告白」episode2

聞こえてますか?
シルビヴィ・バルタンを
好んで聴いていたあなたは、
なんちゃってパリジェンヌ。
メイクひとつにしても
丹念に仕上げます。
何処を真似て何を間違ったのか
何もそこまでしなくても!
と云うくらい塗り重ねた
白いキャンパスに
あなたは、
ルージュを引きました。
まるで、まんが日本昔ばなし
に登場する
お公家さまのようです。
幼い頃の僕は、
そんなあなたが少しいやでした…。
島の住民にそのような
風変わりな女性は、
ひとりもいませんでした。

TPOを完全に度外視した
あなたの出で立ちは、
当時 お茶の間を賑わした
地球外生命体
エイリアンに違いないと
子供ながらに
疑ったものでした…続く。

二十六歳のあなたに感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール 総集編 last 「金髪丸坊主」episode13

聞こえてますか?
昨日の続き…。
順応する天才。
その食に対する飽くなき
探究心だけは、
なんちゃって
漁師の女房の名に恥じぬ
ものでありました。

そんなあなたにもこの戸馳島で
お友達が出来ました。
家族ぐるみの付き合いで
よく宴を開き
家庭用カラオケを
愉しんでいました。
十八番は、銀座の恋の物語。
石原裕次郎と牧村旬子の
二人で歌うそれは、
映画にもなり現在でも
カラオケの定番の
デュエット曲として
愛唱されています。

あなたたちは、見つめ合い
ハモりながら喉を
鳴らしています。
見ているこっちが
恥ずかしくなってしまいます。
けっして上手では
なかったけれど
その歌声は、
飲み会を盛り上げるに
充分なものでした。
何より島の人たちは、
歌が大好きでした。
でも僕は知っています。
「上手なカラオケQ&A」
なる本を読んでいたことを。
あなたなりに
頑張っていたのですね。

最初 戸惑っていた島での暮らし。
日に日に馴染んでゆくあなたを
見るのが好きでした。
誰よりも僕が
嬉しく思っていた事を
あなたは知っていましたか?
メイクも薄く ファッションも
派手でなくなりました。
その代わり髪型だけは、
攻めていましたね!
「金髪丸坊主」
やっぱり、風にはなびきません。
今でこそ珍しくない
そのヘアースタイル。
だけれど、あの当時
そんな髪型にする女性を
僕は知りません。
まるで、生まれたての
お猿さんのように
見えたものです。
流石の父も首を傾げるばかり…。
あなたは、どこまでいっても
あなたでした。

2017年夏。
嫌だったはずの赤いハイヒール。
風になびくことのない
金色の髪の毛。
なんだか愛おしく
素敵に思えてしまいます。

【回想】
天草の玄関口
三角港から渡し舟でゆく島。
みかん畑が連なる山々と
北に広がる有明海。
南には、不知火海を臨む
その島のことを人々は
戸馳島と呼んでいます。
そこに住む人たちは、
長閑な自然と寄り添い
暮らしていました。
そんな島の景観に
逆向するかの如く
船着場までの畦道を
颯爽と闊歩する
ひとりの女性がいました…。

東京の遥か向こう側。
あなたが眠る九州の地を想い
今日もまた、
西の空を見上げています…幕。

真っ赤なハイヒールを履いた
あなたに感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール 総集編 6 「駆け落ち」episode11

聞こえてますか?
昨日の続き…。
確かにあなたは、
こうと決めると梃子でも
動かない節があり
怒ると手がつけられない
雷のような
ひとでもありました。

中学生のあなたは、
何を間違えたか
堅気とは縁遠い男と恋に落ち
卒業を待たずして駆け落ちを断行
全国を転々渡り歩く…などと
冗談まじりに話していましたね。

80年代にお茶の間を
席巻した大映ドラマ
赤いシリーズでも扱わない
コッテコテのその逸話も
満更 嘘ではないようです。
おばあちゃん つまりは、
あなたのお母さんがその時のことを語ってくれました。

当時不良だった父を
よく思っていなかったこと。
決死の想いであなたが
プロポーズされたこと。
それでも追われるような形で
熊本の地を離れ知人の伝手を頼り
神奈川県に一時期
身を寄せていたこと。
そんな逃避行のさなか
僕が生まれたことも…。

言われてみれば、
東京の地下鉄を何故か懐かしく
思う事がありました。
トンネルの明かり取りに
設けられた蛍光灯。
車両の一番前で見ていた
疾走する白い光。
おぼろげな遠い記憶…。
若くして身ごもったあなたは、
どんな思いだったのだろう。
夢もあっただろうに…。
ちゃんと話して来なかった。
会える時に 会ってさえすれば…。

去来する堂々巡りの感情は、
後悔と云う大きな波となって
押し寄せて来ます。
それでも僕は、 抗い 溺れながらも
却ってくる筈のない
答えのようなものを
今も探しています…続く。

歩いていこうよ この街を 街を
歩いていこうよ この道を 道を

愛され生を受けた証
生まれてきたのさ
脆く儚い心でも 愛が溢れてる

明日にマケナイデ
強く涙を噛みしめて
辛い時ほど微笑んで
生きていこう この街を
〜明日にマケナイデ1chorusより

産んでくれたことに感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール総集編 4 「願い」episode7

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そんな暮らしの中で
どうしても
気になる女性が登場します。
幼稚園の先生でした。

犬の大五郎以外興味を抱かない
僕にとってはじめての
ことでした。
いつも笑顔で優しい先生は、
控え目な物腰に
化粧は派手なものではなく
限りなくナチュラルで
爽やかなひとでした。
何より、
黒髪が風になびいています!

僕にとってそれは、
大切なことでした。
アフロばりのスズメの巣のような
髪型のあなたとは大違いです。
そよ風をものともしない
その金色の髪の毛は
針金のようでとても不自然です。
自然体であることが
何よりもあなたに対する
僕の秘かな「願い」でした。
こんなエピソードが
ありましたね。
園の日帰り旅行で長崎の島原に
行った時のこと…。

「悲しい目」episode8

聞こえてますか?
1975年 雲仙記念撮影会。
楽しい旅の思い出を写真に残す
大切な儀式の筈でした。
観光地として賑わいを見せる
長崎 雲仙普賢岳。
ひな壇に立ち並ぶ
親子と引率の先生たち。
嫌な予感はしていました。
写真は苦手です。
魂が抜かれます。
只でさえ笑顔などは作れません。

そんな我が家の事情なと
知る由も無いカメラマンが、
緊張を解そうとします。
無理もありません。
彼は仕事を
全うしているに過ぎません。
だけれど、
その言葉がトドメを刺しました。
「大好きなお母さんの
手を繋いで」
結果、僕を大胆な行動に
向かわせます。
シャッターを切る寸前のところで
あなたの手を僕は
振り解いてしまいました。
あの時のあなたの「悲しい目」を
今でも覚えています…。

2014年12月。
あなたを失いアルバムを
整理しました。
白いパンタロンに
風になびくことのない
金色の髪の毛。
赤いハイヒールを履いた
あなたから少し離れた
五歳の僕を見つけました…続く。

セピア色の写真に感謝して
また、明日。

マーマレード trois_3

聞こえてますか?
あなたが好きだった
シルヴィ・バルタンを聴きながら
車を走らせます。
戸馳島からあなたの居る病院まで
橋を渡り車で1時間30分。
熊本市内の空を見渡せば
帯山方面に建つ
電波塔がよく見えます。
宇土半島の山を越えたら
それを目指して車を走らせます。
あなたもその窓から
同じものを見ていたんだと
今も思っています。

街のあかりが灯る 赤い電波塔
眠れない夜 君は何を見つめて
幾つまで数え 瞳を閉じたら 夢
歌詞 マーマレードより

あなたからの贈り物に感謝して
また、明日。

マーマレード deux_2

聞こえてますか?
子供には分かりませんでした。
何で、牛乳を飲まなくては
ならないのか。
どうして、野菜を勧めるのか。
何ゆえ、我が家の献立には
いつも、骨があって食べにくい
魚が登場するのか…?
un_家庭の事情
deux_魚はタダ
trois_父の好み
本当は、ハンバーグが
食べたかった…。

街を離れて過ぎた
季節の中で
変わらないものは
君の温かい心
「お腹空いてない?」
電話の向こうの声

君はマーマレード
オレンジ色の想いで
瞳を閉じたら
いつも 君に逢える
輝いてた 飾らない笑顔
心の中に 君が
いつ いつまでも いるから
歌詞 マーマレードより

お魚に感謝して
また、明日。

マーマレード un_1

聞こえてますか?
あなたはいつも
出迎えてくれましたね。
家の窓から船が見えるから。
父が漁から帰って来る時。
僕が学校から帰って来る時。
それから、
送り出してもくれました。
中学を卒業し家を出た時。
上京する時。
そして、病院の踊り場でも。
見えなくなるまで
手を振っていましたね。
小さな体から伸びた
その細い腕で…。
あなたらしい
その独特な手の振り方で…。

♪ 遠い夏の日 君は風を集めて
海を渡る人
いつも見つめていたね
茜色の空
時を止めたのは 何故

君はマーマレード
オレンジ色の想いで
瞳を閉じたら
いつも 君に逢える
夏が終わる 八月の夕日
馴染んでた君
僕は いつ いつまでも
忘れない
歌詞 マーマレードより

あなたに感謝して
また、明日。