男女7人高円寺 play back 7話「優しい男」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
あれから二十数年…。
あの頃に思いを馳せながら
楽しい夜は過ぎて行きました。
笑顔を絶やさない彼女は、
今も変わる事なく
健在でありました。

男女7人の中には、
厄介な彼女ともう一人の
大学生がいました。
彼は、いち早く『方言』と
云う高いハードルを克服し
頭も切れ話題も豊富であり
その場を盛り上げてくれます。
そんな彼は、東京に馴染めず
人と上手く話せない僕を
気遣う優しい男でもありました。

例えば、電車の移動方法。
間違えても馬鹿にしないで
丁寧に教えてくれます。
物怖じする僕を学園祭に
誘ってくれたりもします。
当時ハマった銀河英雄伝の
ロールプレイングゲーム。
操作方法など
最初から躓いても根気よく
付き合ってもくれました。

東京に一番馴染んで
何でも出来る男…。
そう、思っていました。
だけれど、いつの頃からか
彼は高円寺の集まりに
顔を出さなくなって
しまいました…続く。

🍏優しい男に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺 play back 6話「song for USA」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼女は思わず吹き出すのです。
僕たちの共通の話題
高円寺の南口にあった
カラオケ店。
行きつけの『song for USA』を
思い出したからでした…。

毎週土曜日の夜は、
高円寺北口の純情商店街の
先にある僕のアパートに
一度集まり それから、
行きつけの南口の店に
繰り出すのが
いつものパターンでした。

現在のカラオケBOXとは異なり
店の看板ともいえる
ステージで歌うそれは、
ライブハウスのようで
緊張感を演出しておりました。
何より、スタッフ一丸となって
盛り上げるスタイルの
song for USAは馴染みの
常連客で賑わいを
見せていました。

女性上位の男女7人…。
主導権は、いつだって
彼女たちでした。楽しい事と
スイーツに目がない
女性の本能と云う可きか…。
男狩りにでも行くかの如く
女子三人組が先頭を切って
純情商店街を闊歩する様は
其れは其れは勇ましく
威風堂々たるものでした。
一方我ら男たちは、
女たちの背中を追いながら
母親に連れられた子供のように
後に続くのでありました。

あれから二十数年…。
あの頃に思いを馳せながら
楽しい夜は過ぎて行きました。
笑顔を絶やさない彼女は、
今も変わる事なく
健在でありました…続く。

🍇りぃ~子に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺 play back 5話「微笑みりぃ~子」

聞こえてますか?

昨日の続き…。
いつもぶつかってばかり…。
だけど、一番一緒にいたのは
彼女だったように思えます。
明るく振る舞ってはいても
手強い この東京の街に
中々馴染めない不安な彼女を
知っていたからです。
本当に甘えていたのは、
僕の方…だったのかも
知れません。

2017年 りぃ~子と愛称された
男女7人の一人に会いました。
就職で上京した彼女は、
7人の中のムードメーカー。
男たちのから騒ぎにも
いつもニコニコで対応してくれる
微笑みの人でありました。

あれから、
二十数年ぶり再会
話題に尽きる事はありません。
とても、愉しい時間を
過ごす事が出来ました。
自ずとあの頃が蘇ります。

りぃ~子が言いました。
「あんたたち よぉ~
喧嘩しょったね〜」
【翻訳】
*あなた達 よく 喧嘩してたね
僕と厄介な彼女の事を指して
りぃ~子は言うのです。

僕も続けます。
「あんたたち、三人 純情商店街ば
我が庭のごつ 闊歩しょったね!」
【翻訳】
*高円寺の純情商店街を
私の街よ!と言わんばかりに
颯爽と歩いていたよね!
僕は、優しい声の人
厄介な彼女とりぃ~子の三人を
指して言ったのでした。

それから、
「マリリン・モンローのごつ
ぎゃ〜ん”して歩きよった!」
【翻訳】
*名を馳せたハリウッド女優
モンロー・ウォークばりに!
ぎゃ〜ん”とは…動作を交えた
熊本ならではの表現方法。

彼女は、思わず吹き出すのです。
僕たちの共通の話題 高円寺の南口にあったカラオケ店。
行きつけの『song for USA』を
思い出したからでした…続く。

🍅再会に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺 play back 4話「厄介な彼女」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
自由奔放で真っ直ぐな人。
だけれど、気が強そうに見えて
本当は脆いと云う事を
彼女のどこかに
感じてもいました。
時折 そんな目をするからです。
それは、彼女が
生まれながらに持った
『淋しさ』のように
思えてならないのでした。

彼女は、同じ高円寺に
住んでいた事もあって
困りごとの度に
頼みごとをして来ます。
近所付き合いとは言え
甘えは禁物であります。

「終電に乗り遅れた!」
当時 固定式であった
電話のベルを喧しく鳴らして
その甲高い声で
僕に訴えるのです。
呼びだしです。
夜中でも御構い無しの彼女…。
迷惑です!

こんな事もありました。
遊びに来ていた彼女…。
僕の家の電話。
当たり前のように
勝手に出たります。
ダメです!

学園生活で何かあったのか?
愚痴を言いにやって来ます。
矢継ぎ早にひとしきり
喋り倒したあと
腹の虫が治ったのか
ケロッとして帰って行きます。
眠いです!

僕ら男女7人は、計画を立てて
良く旅行に出かけました。
旅の途中 面倒な事になると
決まって彼女は、
僕を指差します。
愚かです!

いつもぶつかってばかり…。
だけど、一番一緒にいたのは
彼女だったように思えます。
明るく振る舞ってはいても
手強い この東京の街に
中々馴染めない不安な彼女を
知っていたからです。
本当に甘えていたのは、
僕の方…だったのかも
知れません…続く。

🍓厄介な彼女に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺 play back 3話「厄介な彼女」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
物書きで奮闘する僕を気遣い
徹夜の時も付き合ってくれ
ワープロで文字を
おこしてもくれました。
鉛筆からインクへと様変わりする
整頓された文字の色とカタチ…。
拙い僕の文章が、綺麗に
化粧されてゆくようで
とても嬉しかったのを
覚えています。
手伝ってくれた
彼女の貴重な『時間』を
僕は忘れません。

週末ともなれば、
高円寺砦に 同級生
男女7人が集まります。
その中にひとり…
とても、厄介な女性がいました。
大学の進学で上京した彼女。
僕たちは、
よく言い争いをしました。
何事も否定的な彼女の物言いに
食ってかかるのですが、
遥かに劣る僕のボキャブラリー…。
負けは明らかでありました。

いつも取りなすのは、
花の男と優しい声の人。
それから僕ら7人は、
気分を変えて高円寺南口にある
カラオケ店へと向かうのでした。

先ほどの喧嘩は何だったのか…。
当時流行っていた
Winkの淋しい熱帯魚を
彼女は振り付きで歌っております。
その一種独特な甲高い声で
ケタケタと笑いながら…。
僕は、彼女の切り替えの早さに
舌を巻く他にありませんでした。

自由奔放で真っ直ぐな人。
だけれど、気が強そうに見えて
本当は脆いと云う事を
彼女のどこかに感じてもいました。
時折 そんな目をするからです。
それは、彼女が
生まれながらに持った
『淋しさ』のように
思えてならないのでした…続く。

喧嘩友達に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺 play back 2話「優しい声の人」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
あれから二十数年…。
帰郷した花の男は、
今も熊本県の戸馳島で
とても綺麗な蘭の花を
育てています。

その頃の僕は、作詞家であり
劇作家でもある
岡田教和先生の門下生となり
付き人として生業を得て
車の運転 鞄持ち 物書きの
勉強をして過ごしていました。

そんな僕の書く詞や物語を
男女7人の中で熱心に
読んでくれる女性がいました。
物腰はいつも柔らかく 控えめで
優しい声を持った人でした。
それでいて、
読み終えた彼女の助言は
辛辣を極め 容赦のない
批評が展開されるのです。
僕は、そのたびに
首を垂れて書き直しを
余儀なくされるのでした。
彼女のその声に秘めた
『強い意志』みたいなものを
優しさの中に感じていました。

物書きで奮闘する僕を気遣い
徹夜の時も付き合ってくれ
ワープロで文字を
おこしてもくれました。
鉛筆からインクへと様変わりする
整頓された文字の色とカタチ…。
拙い僕の文章が、綺麗に
化粧されてゆくようで
とても嬉しかったのを
覚えています。
手伝ってくれた
彼女の貴重な『時間』を
僕は、忘れません…続く。

優しい声の人に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺 play back 1話「花の男」

聞こえてますか?
東京は中野区
中央・総武線の各車両
二系統が停車する駅。
その高円寺にある
六畳一間のアパートが、
僕の最初の砦でした。

週末になればそこへ
熊本から上京して来た
中学の同級生
男女7人が集まります。
大学への進学 就職の者
そして、専門学校で
洋蘭の花を学びに来た男も…。

その花の彼は、
普段とても無口だけど
いざという時には頼りになる男で
個性がバラバラな僕たちの
まとめ役でもありました。

彼の指先の爪。その狭間には、
いつも花の命でもある土が
入り込んでいました。
何度洗っているにも関わらず
取りきれない土…。
僕は、その爪を見るたびに
誇らしく思ったものです。

朴訥として淡々とした振る舞い
それでいて、強い信念と
独特のリズムを持った男…。

あれから二十数年…。
帰郷した花の男は、
今も熊本県の戸馳島で
とても綺麗な蘭の花を
育てています…続く。

花の男に感謝して
また、明日。

for you…autumn 最終話「月のひかり」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そして、黄昏…。
川辺に建つ家の前で
ひとりの訪問者が
緑色のドアのベルを
鳴らしました。
僕は、作業を中断して
玄関に向かいそのドアを
開けるのです。
この季節特有の浅い日差しは、
役割を終えて西の彼方に
落ちていました。
そのやわらかな逆光の中に
Mの姿がありました。
その胸に買い物袋を抱えて…。
あの、命がけの階段から
一週間が過ぎていました…。

彼女は、ひとこと
「聴いたよ…」と言いました。
僕は「うん…」とだけ答えます。
それから僕は、
その手にあるものを受け取り
彼女を抱き寄せるようにして
緑色のドアを閉じるのでした。

【回想1】
三宿の彼女Mは、どうして
僕を受け入れてくれたのか…?
そして、あの人…の存在。
1話「三宿のM」より

この一週間。
彼女に何が起こったのか?
僕は、この日記を
書き進めて行く内に
気付いたのです。
あの時のMの想いは、
『彼女だけのもの』
ということ…。
そして、それを
僕が知る必要なんて
ないということ…。
大事なことは、苦手な手料理を
つまりは買い物袋を抱えた
彼女が緑色のドアをknockした…
ということであるのでした。
僕は、大事なことを
忘れていたようです。

【回想2】
「これ家で食べられたら…」
そう言う僕に
先を見越したような
Mの答えが返って来ました。
「料理は苦手だから…」
あの夏の夜の夢から
彼女は頻繁に川辺の家へ
遊びに来るように
なっていました。
だけれど、手料理はお預けで
いつも外食であったのです。
何気に漏れた一言なのに…。
女性の思考回路その仕組みに
舌を巻く他ありません。
手料理なんてもっての他…。
こうして一緒にいるだけで
充分であるのに…。
32話「カルボナーラ」より

キッチンのMは、
本を片手に悪戦苦闘…。
この後、その類いのレシピ本は
数を重ねていくようになります。

漸く午前中からの作業を
終えた僕は、リビングの窓を
開けました。
そのデモテープ「for you…」は、
これより先
レコード会社の目に止まり
僕を新しいステージに
連れて行くことになります。

庭に咲いた秋桜。
その葉の間から
夜に鳴く虫の声がしました。
彼女の手料理は、まだまだ
時間がかかるようです。
いくらだって僕は
待つ事が出来るのです。
時間は、たっぷりと
用意されているのだから…。

窓辺に堕ちた銀色。
月のひかりは、
この星を優しく照らして
そして、ゆっくりと
回っているのでした…おわり

Mに感謝して
また、明日。

for you…autumn 50話「そして、黄昏…」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
ちらほらと降りだした雨が
足元の階段に小さな波紋を作り
風に吹かれたそれが、
冷たく頬を伝うのです。
長い冬が、もうそこまで
来ているのでした。

江戸川のほとり。
川面に映る日差しは、
金と銀の折り紙を
散りばめたように
キラキラと輝いていました。

その日僕は、午前中から
レコード会社に持ち込むための
楽曲をカセットテープに
吹き込む作業に
あたっていました。
アナログとデジタルが
交差する90年時代 。
市販のCDラジカセで
カセットテープに変換する
単純作業。だけれど、
一曲五分弱としても
二曲1セットとするならば
それなりの根気と手間を
必要とします。
僕は、それを100個
揃えようとしていました。
でも、決して苦では
ありませんでした。
何かに没頭する時間を
欲していたのかも知れません。

そして、黄昏…。
川辺に建つ家の前で
ひとりの訪問者が
緑色のドアのベルを
鳴らしました。
僕は、作業を中断して
玄関に向かいそのドアを
開けるのです。

この季節特有の浅い日差しは、
役割を終えて西の彼方に
落ちかけていました。
そのやわらかな逆光の中に
Mの姿がありました。
その胸に買い物袋を抱えて…。
あの、命がけの階段から
一週間が過ぎて
いました…最終話へと続く。

その光と影に感謝して
また、明日。

for you…autumn 49話「恋のゆくへ」

for you…autumn
49話「恋のゆくへ」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
だけど、これもおとしまえ…。
付き合って貰います。
僕は動じることもなく
かすみ草に忍ばせたCDの
プラケースを指差して一言
「聴いて欲しい」と
伝えるのです。
悲しいことにそれは、
彼女の細かい表情や
目の動きまでも
鮮明に映すし出すのです。
Mは、決して
喜んではいませんでした。

彼女は手に持ったものを
勘定場の裏 目隠しに貼った
布切れの中へそれを押し込み
カウンターが伸びる奥へと
足早に去って行きました。
この舞台から逃げ出すように…。
一度も振り向くこともなく…。
そして
スローモーションのような
この一連の流れが
Mが舞台袖に消えたのと同時に
動き出すのでした。

彼女の残像を認めた僕は、
それを噛み締めるように
この店の階段を降りるのです。
先ほどの余興は
なかったかのように
テラス席の恋人たちが、
頭に手を当てて
中へと逃げ込みはじめました。

ちらほらと降りだした雨が
足元の階段に小さな波紋を作り
風に吹かれたそれが、
冷たく頬を伝うのです。
長い冬が、もうそこまで
来ているのでした…続く。

この恋に感謝して
また、明日。