大五郎 最終話

聞こえてますか?
昨日の続き…。
僕も大五郎の後を追うように
海へ投げられるのでした。
岸壁の上からあの男が
叫びます。
「大五郎ば見ろ!」
「泳ぎば教われ!」
海底に足が届かない
スイミングは初めてでした…。
無茶です。愚かです。3才です。
死ぬかと思いました。
鬼としか思えなかった親父と、
犬掻きで近寄る涙目の大五郎を
今でもハッキリと、鮮明に
記憶しています。
僕に泳ぎを教えてくれたのは、
大五郎と呼ばれた
シェパード犬でした…終わり。

涙目の大五郎に感謝して
また、明日。

大五郎 四話

聞こえてますか?
昨日の続き…。
あの男が、近づいて来ます。
僕らの親父でした。
何を血迷ったのか、
突然彼を抱えるのです。
あの男にかかれば、
警察犬としても有名な
シェパードとはいえ形無し。
なす術もなく岸壁から
満ち潮の海へと
放り込まれます。
きょとんとする僕を、
あの男が見ています。
蛇に睨まれた蛙とは
よく言ったもので、
身の危険を刹那に
感じるものの動けません。
案の定、
僕も大五郎の後を追うように
海へ投げられるのでした…続く。

いつも一緒だった事に感謝して
また、明日。

大五郎 三話

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そんなある日のこと。
寝耳に水な事件が、
僕と大五郎の身に
降りかかるのでした。
それは、自然なものではなく
明らかに人工的な
犯罪と呼ぶべき出来事でした。
いつものように
彼と海遊びをしていると
仕事から帰った
あの男が、近づいて来ます。
僕らの親父でした…続く。

大五郎の忠義に感謝して
また、明日。

大五郎 二話

聞こえてますか?
昨日の続き…。
3才になったばかりの僕に、
はじめての友達が出来ました。
島育ちの僕らは、
何処へ行くのも一緒。
犬の散歩ではなく
彼に云わせれば僕の散歩でした。
山へ行けば危険な獣道を避け
海では誘導するかの如く
僕を鼻先で押しながら
浅瀬へと導いてくれました。
怪我をすればいち早く
大人達に知らせてくれたり
背中に乗せて遊ばせたり…。
正に彼は、ボディーガード
そのものでした。

そんなある日のこと。
寝耳に水な事件が、
僕と大五郎の身に
降りかかるのでした…続く。

献身に感謝して
また、明日。

大五郎 一話

聞こえてますか?

僕たち家族は、
彼の事を大五郎と
呼んでいましたね。
落ち着きの
なかった幼少期。
手の焼ける僕を
玄関先に紐で
括っていたあなたは、
大五郎のおかげで
助かったと
後に語っていました。
新しい家族の一員と
なったシェパード犬
と共に僕らは、
成長して行きました。
時代劇のキャラクター
から名付けられた
大五郎。3才になった
ばかりの僕に、
はじめての友達が
出来ました…続く。

はじめての友達に感謝して
また、明日。

宴 ふた夢

聞こえてますか?

昨日の続き…。

その賑やかさに

あなたも夜更かしを

してしまいましたね。

「あの曲を聴かせて」

体調を崩したあなたの

声がしました。

そして、

僕の手を借りながら

病室のベッドから

起き上がります。

それから、

まだ未完成だった

「眠り」を窓の外を

眺めながらずっと

聴いていました。

♪ もう少し

ここでお休み

髪を撫でていたくて

あと少し

夜を延ばして

その顔を見ていたくて

愛に傷ついて

心を閉ざした

ひと

泣かないで

歌詞 眠り…より

歌に感謝して

また、明日。

宴 ひと夢

聞こえてますか?

「まーまーねぇ」

退院して帰って来た

あなたは、

そう

云っていましたね。

友達

親戚一同が集まる中

僕は、

「眠り」と

云う曲を歌いました。

皆、一頻り飲んで食べて

大いに笑った一夜限りの宴。

久しぶりの我が家。

その賑やかさに

あなたも夜更かしを

してしまいましたね…続く。

ひと夢に感謝して

また、明日。

向山のボス猿 四

聞こえてますか?

昨日の続き…。

恰幅の良い女人の

的確な道案内の甲斐あって

僕は晴れて、

逸れ猿との

果し合いへと向かう事が

出来たのでした。

はて、軍配は…。

それは、

男のメンツに賭けて控えます。

ただ言えるのは、

その後

逸れ猿とは将棋を指す

間柄になりました。

僕らの喧嘩は「こと」が

終わればノーサイド。

何処か爽やかなものが

ありました。

そんな時代でした。

あくる日。

僕に向かってボス猿が、

言いました。

「ワリャ~昨日喧嘩したろ~」

恰幅の良い女人は、

ボス猿のお母さんでした。

それから僕とボス猿との

長い付き合いが

始まるのでした。

向山のボス猿に感謝して

また、明日。

向山のボス猿 参

聞こえてますか?

昨日の続き…。

「奴はおおちゃっか!」

「(生意気)打つ!」

まだ組に馴染めない僕は、

標的の的でした。

そんなある日。

僕は些細な事から

隣組の逸れ(ハグレ)猿と

諍いを起こしてしまいます。

解せない僕は、

逸れ猿のアジトに

カチコミを駆けますが、

慣れない山道で、

迷ってしまいました。

「逸れ猿の家は何処ですか?」

洗濯物を取り込む

女人に訪ねると、

恰幅の良いその腰を

上げながら

「ぎゃん行って ぎゃん」

(翻訳) 「あの角を曲がって」

「ドン突き左」 と

気さくに 答えてくれました。

的確な道案内の甲斐あって

僕は晴れて、

逸れ猿との

果し合いへと向かう事が

出来たのでした…続く。

恰幅の良い女人に感謝して

また、明日。

向山のボス猿 弐

聞こえてますか?

昨日の続き…。

僕らにとって学校とは、

メンツを賭けた男達の

戦場でした。

クラス替えになった

三組は、

山岳地帯 (向山 穂刈道)を縄張り

とする彼の天下で

向山のボス猿の名を

欲しいままにしていました。

「奴はおおちゃっか!」

「(生意気)打つ!」

まだ組に馴染めない僕は、

標的の的でした…続く。

戦友に感謝して

また、明日。