男女7人高円寺(全10ノ4話)

聞こえてますか?
昨日の続き…。
それは、彼女が生まれ持った
淋しさのようなものに
思えてなりませんでした。

同じ高円寺の街に
住んでいたせいもあってか
彼女は、困りごとの度に
その独特な甲高い声で
頼みごとをしてきます。
近所付き合いとは言え
甘えは禁物です。

「終電に乗り遅れた」
当時 固定式だった電話の
ベルを喧しく鳴らします。
呼びだしです。
夜中でも彼女は御構いなし。
迷惑です!
僕の家の電話に勝手に出ます。
ダメです!
学校で何かあったのか、
愚痴を言いにやって来ます。
矢継ぎ早にひとしきり
喋り倒したあと
腹の虫が収まったのか、
ケロっとして帰って行きます。
眠いです!
僕ら7人は、計画を立てて
よく旅行に出かけました。
旅の途中 面倒なことになると
決まって僕を指差します。
愚かです!

いつも ぶつかってばかり…。
だけど一番一緒に居たのは、
彼女のような気がします。
明るく振る舞ってはいても
手強いこの東京の街に
なかなか馴染めない不安な
彼女を感じていたからです。
本当に甘えていたのは、
僕の方 だったのかも
知れません…続く。

厄介な彼女に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺(全10ノ3話)

聞こえてますか?
昨日の続き…。
手伝ってくれた
優しい声の人の
貴重な時間を忘れません。

週末は、高円寺の僕の砦に
同級生 男女7人が集まります。
その中にひとり
とても厄介な女性がいました。
大学の進学で上京した彼女。
僕たちはよく
言い争いをしました。
何事も否定的な彼女の物言いに
食ってかかるのですが、
遥かに劣る僕のボキャボラリー
負けは明らかでした。
いつも取り成すのは、
花の男と優しい声の人。
それから僕ら7人は、
気分を変えて高円寺の南口にある
カラオケ店へと向かうのでした。

先程の喧嘩は何だったのか…。
当時流行っていた
Winkの淋しい熱帯魚を
彼女が振り付きで歌っています。
その一種独特な甲高い声で
ケタケタと笑いながら。
僕は彼女のその切り替えの早さに舌を巻いてしまいます。
自由奔放で真っ直ぐな人でした。
だけれど、気が強そうに見えて
本当は脆いことを彼女の何処かに感じてもいました。
時折りそんな瞳をするからです。
それは、彼女が生まれ持った
淋しさのようなものに
思えてなりませんでした…続く。

喧嘩友達に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺(全10ノ2話)

聞こえてますか?
昨日の続き…。
あれから二十数年。
帰郷した花の男は、
熊本の戸馳島でとても綺麗な
蘭の花を育てています。

その頃の僕は、作詞家であり
劇作家でもある方の門下生
付き人を生業とし
車の運転 鞄持ち 物書きの勉強を
して過ごしていました。
そんな僕の書く詞や物語を
男女7人の中で熱心に
読んでくれる女性がいました。
物腰はいつも柔らかく 控えめで
優しい声を持つ人でした。
それでいて、読み終えたあとの
彼女の助言は辛辣で容赦無い
批評が展開されます。
僕はこうべを垂れて
よく書き直しをしたものです。
その優しい声に秘めた強い意思
みたいなものを感じていました。

徹夜の時も付き合い
ワープロで文字を起こし
てもくれました。
鉛筆からインクへと様変わりする
整頓された文字の色とカタチ。
拙い僕の文章が
綺麗に化粧されていくようで
とても嬉しかったのを
覚えています。手伝ってくれた
彼女の貴重な時間を
僕は忘れません…。

優しい声に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺(全10ノ1話)

聞こえてますか?
東京は中野区
中央・総武線の各車両
二系統が停車する駅。
その高円寺にある
六畳一間のアパートが
僕の最初の砦でした。
週末になれば其処へ
上京した中学の同級生
男女7人が集まります。
大学進学 就職の者
専門学校で
花を学びに来た者も。

その花の彼は、普段とても
無口だけれど
いざって云う時は頼りになる男で個性がバラバラな僕たちの
まとめ役でもありました。
爪の間には花の命である土が
いつも入り込んでいました。
何度洗っているにも
かかわらず取りきれない土。
僕は、その爪を見る度に
誇らしく思ったものです。
朴訥として淡々とした振る舞い。
それでいて強い信念と
独特のリズムを持った男。

あれから二十数年。
帰郷した花の男は、
今も熊本の戸馳島でとても綺麗な蘭の花を育てています…続く。

花の男に感謝して
また、明日。

夏の花火と君の横顔

聞こえてますか?
夏の思いでを歌詞にしました。

夏の花火と君の横顔を
見つめてた
ずっと見惚れていたいけど
気づいてしまうから

そっと隠した 夜の影
君を探したら
恋はいつも ひとりぼっち
切なさをとめて

青紫 淡い緑 エニシダの黄色
薄紅のダリアの赤

涙を誘う 夜の虹
零れないように
瞬きさえ出来ない 夏の花火

たとえ儚い 夢だとしても
いつの日か君に
咲かせたい 僕だけの花を

涙を誘う 夜の虹
零れないように
瞬きさえ出来ない 夏の花火

瞬きさえ出来ない 夏の花火

夜の虹に感謝して
また、明日。

錦糸町 六弦

聞こえてますか?
昨日の続き…。
だけど、ただ一つ
馴染めなかったものがあります。
それは、衣装でした。

ザ・スパイダース ザ・タイガース
ザ・テンプターズ…。
往年のスターの
完全再現をコンセプトとした
この店の衣装も
例外ではありません。
ミリタリールックと呼ばれる
ファッションにフリフリのついた
スパンコール。
派手な衣装に振り付きで
歌い踊ることに少なからず
抵抗を感じていました。
だけれど、
日を追うごとにGSの歴史や
功績と遺産に触れ
僕は変わり始めます。
そのピンクの衣装の裏側に
刻まれた 「剛 葛藤 魂」
前屈者たる先輩がいたからこそ
今の日本の音楽シーンが
あるのだと心から思ったのです。
僕が着ていたものは、
ただの衣装ではありません。
確かにそれは、勲章でした…幕。

音楽の父に感謝して
また、明日。

錦糸町 五弦

聞こえてますか?
昨日の続き…。
配属された先は、GS-CLUB。
グループサウンズの名曲を
演奏するあのバンドでした。

マミー&ストロベリー
「鉄拳マミー」のバンドです。
new open Live houseの
準備は、衣装合わせ 宣伝広告
写真撮影 取材など急ピッチで
進められて行きました。
同時にバンドのリハーサルも
過熱を極め 突然!
ドラマーであるバンドマスターの
ステックが飛んで来ます。
楽屋では、更にシゴかれます。
でも彼は、決して失敗に
怒る人ではありませんでした。
その先にあるもの…
だったように今も思えます。

バンドマスターの
厳しい指導に耐え GS-CLUBは
漸く初日を迎えます。
一日8ステージの長丁場。
演者 スタッフ 一丸となった
演奏は、愉しいものでした。
何より純粋に音楽を聴きに
来てくれるGSファンに
喜びを感じていました。
だけど、ただ一つ
馴染めなかったものがあります。
それは、衣装でした…続く。

GSファンに感謝して
また、明日。

錦糸町 四弦

聞こえてますか?
昨日の続き…。
僕は、オーディションを
受けることにしました。

先ずは一度観たいと云うことで
マミー&ストロベリーバンドの
リハーサルに参加しました。
乳製品を好んでいた彼は、
マミーと親しまれ
「鉄拳のマミー」とも
呼ばれていました。
後にそれを、
思い知ることになります。

リハーサルが終われば
食事の時間です。
ファミリーレストランで
好きなものをオーダーします。
一品しか注文しない僕に、
バンドマスターが言いました。
「もっと食べろ」そして僕は、
オニオングラタンスープを
追加します。このオーディション
心から受かりたいと思いました。

それから、幾つかの書類審査
実技選考を終えた僕は、
店を取り仕切る事務所と
契約を結び 晴れて
専属Vocalistとして
働くことが決まりました。
配属された先は、GS-CLUB。
グループサウンズの名曲を
演奏するあのバンドでした…続く。

新たなステージに感謝して
また、明日。

錦糸町 三弦

聞こえてますか?
昨日の続き…。
世界の終わりが来ても
耐え得るであろう虫と
チューチューと煩い
招かざる小動物たちの中で、
僕はプロになりました。

90年代初期のこの街には、
BGM的要素が強いお店以外にも
ビートルズの楽曲を演奏する
REVOLVERやグループサウンズ
を謳うGS-CLUBと云った
音楽を主とし聴かせる
Live houseがありました。
プロになって三年目
環境の変化を求めて
僕は、オーディションを
受けることにしました…続く。

一日一日に感謝して
また、明日。

錦糸町 二弦

聴こえてますか?
昨日の続き…。
表のステージの華やかさとは
裏腹にその中味は、
劣悪なものでした。
店での「箱バン」の地位は低く
スタッフの横暴さに
随分と悩まされました。
若かった僕は耐え兼ねて
喰って掛かるのだけれど、
来期契約を心配する
バンドマスターに諌められ
謝る羽目になることもしばしば。
名ばかりの楽屋は、
配管ダクトが通る通路。
空調設備などは皆無で
夏は蒸し風呂。
冬はボイラーパイプに
手を当てて暖をとり
譜面を書いたり
楽器の手入れをして
出番を待つのでした。
世界の終わりが来ても
耐え得るであろう虫と
チューチューと煩い
招かざる小動物たちの中で、
僕はプロになりました…続く。

歌えることに感謝して
また、明日。