聞こえてますか?アーカイブ カサゴ 総集編

聞こえてますか?
小さい頃、
嫌々父親に駆り出され
魯を漕がされては
釣りをしたものです。
本当は、友達と野球や缶蹴りが
やりたかったのに…。
だけれど、可笑しなことに
今こうして思い出すのは
潮の香りと釣りのこと…。

今日はカサゴを釣りに舟をだす
3号の針と鉛とサルカン
気の合う仲間と
手釣りでフィシング
歌詞 カサゴ2017より

聞こえてますか?
今日は熊本同窓会LIVEの話。
打ち上げで女子がいいました。
「中谷君 カサゴは唐揚げばい」
中学時代が蘇ります。

1985年
学校の行事でキャンプに行った
天草の無人島。
少し大人びた彼女は、
とても気遣いの出来る人でした。
まだ子供だった僕達を横目に
テキパキとテントを張り
段取り良く晩めしの
カレーを作る。
キャンプ・ファイヤーで
僕達がから騒ぎしても
塩梅よく合わせてくれます。

2016年
そして今、同窓会で
ふざける僕達をいなしながら
料理や飲み物を運ぶ彼女は、
立派なお母さんに
なっていました。
ばってんね!

やっぱカサゴは煮付けが一番
カサゴ釣るときゃ有明海へ
がらかぶ がらかぶ がらかぶ
歌詞 カサゴ 2017より

故郷に感謝して
また、明日。

聞こえてますか?アーカイブ 「渡し舟 」総集編

聞こえてますか?
「海に落ちた男」
中学に上がったばかりの僕は、
そう呼ばれていました。
市町村の卒業生が集まる
その中学校は、
宇土半島の三角と云う
港町に在りました。
渡し舟を利用するのは、
島の者だけで登校中
海に落ちたのは
僕が始めてでした。

箱舟とも呼ばるそれが、
ゆっくりとバック。
これに乗らなければ遅刻。
既に助走を
つけているから大丈夫。
跳べる!
僕は直感しました。
少し大きめの学ランを身に纏い、
真新しい肩掛け鞄を抱え、
利き足に渾身の力を込めて
ジャンプ…。

海の中はキラキラしていました。
太陽の光が、港町である
この海の底にも届くのだと
感心するくらいです。
しかし何故に落ちたのでしょう…。
海中でも幾らか
冷静だった僕は考えます。
渡し舟の舳先に乗った感覚は
確かにこの左足が
知っています。
「届いていたのになぁ」などと
思いながら平泳ぎで
上がろうとするのですが、
何か勝手が違います。
重いのです…。
教科書を詰め込んだ肩掛け鞄。
「あぁ〜」
船長は、海上に頭を出した
僕を認めると笑いながら船首を
三角港へと向けました。
僕は、プカプカと浮いた
帽子を掴み
陸(おか)に向かって泳ぐのでした。

僕がその後どうなったのか、
あなたが一番知っていますね。
長い一日の始まりです。
着替えを済ませた僕は、
学校に向かいます。
既に担任の先生から
クラスメートに
報告があったらしく…。
いいえ、報告する迄も無く
朝一番で噂になっていたと
思われ…。
二時限目から合流した僕を
皆がクスクスと笑います。
無かった事にして
知らぬ顔を決め込んでも
濡れた教科書とノートは
正直です。
給食前には薄っすらと、
塩が吹き始めます。
昼休みになれば学年関係無く、
海に落ちた男を
見にやって来ます。

小柄な僕が、鞄の重さを
計算に入れていなかった報い…。
熊本地方の方言で
程度を知らない人の事を
「勘無し」と云うそうです。
後に僕は、その称号を
与えられる事となります。
確かにあの時、
渡し舟の舳先を捉えていたのに!

僕の社会と国語の教科書は、
一年間
カッピカッピのカッパカパ。
二年生になる頃には、
海に落ちたことなんて
どうでも良くなっていました。

渡し舟に感謝して
また、明日。

聞こえてますか?アーカイブ 「カレーライス 」総集編

聞こえてますか?
「我が家のカレーが一番」
よく耳にするフレーズ。
僕の家でもそうでした。
家庭の味と云うよりは、
手の込んだレストランで
出されるものに似ていました。

小さい頃から
どうしてこんな味がだせるのか
訊きだそうとするのだけれど、
あなたは当時CMで流行りの
「愛情〜」などと言いながら
いつも煙に巻いていましたね。
玉ねぎにじゃが芋と豚バラ肉…。
これといって
他の家と変わりのない
ありふれた具材。
だけどその味は、ボンカレーや
バーモントカレーと云った
老舗の市販されている物とは
一線を画した自慢の
カレーライスでした。
その時が来るまでは…。

それは、
僕が中学を卒業し
親元を離れ熊本市内で下宿生活を
送っていた頃の話。
夏祭りで帰省した僕は、
久々に我が家のカレーが
食べたくて
リクエストをしました。
そして美味しくいただきます。
しかし、
あなたは間違いを犯しました。
後片付けを
忘れてしまいましたね…。
急いで作ったんでしょう。
いつもと段取りも
違ったんですよね。
その証拠が、
台所に残されていました…。
缶詰だったんですね。
業務用とも書かれてあります。
あなたは、笑いながら
「ばれちゃったね〜」と一言。

物心がついてから此処まで、
よくぞ隠し通したと
感心するくらいであります。
今となっては、その缶詰の
銘柄も解らないけれど
あの懐かしいカレーライスを
無性に食べたくなる
今日この頃です。

懐かしい味に感謝して
また、明日。

聞こえてますか?アーカイブ 「宴」総集編

聞こえてますか?
「まぁ〜まぁ〜ねぇ〜」
主治医から一時退院を許されて
我が家に帰って来たあなたは、
そう 言っていましたね。

あなたの退院を祝い
友人 親戚 一同が集まる中で、
僕は「眠り」と云う曲を
歌いました。
皆、一頻り 飲んで 食べて 笑った
一夜限りの「宴」
その賑やかさにあなたは、
ついつい夜更かしをして
しまいましたね…。

「あの曲を聴かせて」
再び体調を崩し横になっていた
あなたの声がします。
そして、
僕の手をかりて
ベッドから起き上がりました。
それから僕は、
携帯のイヤホンを
あなたの耳に当てるのです。
「もう一回…」
あなたは、
まだ未完成だったその曲を
病室の窓の外を眺めながら
ずっと聴いていました…。

ひと夢に感謝して
また、明日。

聞こえてますか?アーカイブ 「アベベ」総集編

聞こえてますか?
僕は物覚えが悪く
教えられても
中々上手く出来ない子でした。
それでもあなたは、
マラソンだけは
褒めてくれましたね。
始めて1等賞をとった
夜のご馳走が忘れられず、
自発的に練習を始め
ひたすら走っていました。
お肉は我が家の祝い日でしたね。

けれど、
一年が経ち二年が過ぎた三年目
変化が起きました。
走ることが嫌になり始めていた
中でのマラソン大会で
僕は2等賞になってしまいました。
昨日の晩ごはん「勝つために」と
験を担いでトンカツを
作ってくれたのに…。
画用紙で作られた2等のメダルを
見せるのがとても嫌でした。
それから僕は、
練習を辞めてしまいました。

父親が言います。
「今日は走らんとか?」
僕は考えた挙句
「asicsのシューズが
無いと走らん」と
物のせいにでもして
答えたのです。
一瞬の出来事でした。
小学四年生の体は軽々と空に舞い
玄関先に転がると今一度抱えられ
今度は外に放り出されます。
逆さ吊りから振り回され
再び投げられます。
拳を喰らわせながら
父親が言いました。
「アベベを見てみろ!」
「アベベは裸足ぞ!」

アベベは裸足?アベベって誰?
後になって知りました。
42.195キロを裸足で走った
オリンピック
金メダリスト アベベ。

口の中の傷は、
鉄の味がしました…。
だけれど、
走らなかった本当の理由は、
シューズのせいでも
アベベでもありません。
ボロボロになって帰ってきた僕に
あなたは「食べなっせ」と
昨日の残りを差し出しました。

あなたの優しさに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 42話 「虚勢の鎧」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
もはや彼女においては、
「幻滅」以外の何ものでも
なかったのかも知れません。

季節は移り変わり
船堀の街は冬の装い。
それからの僕らは、
喧嘩をしながらも
「歌の糸」一本で
かろうじて繋がって
いるようなものでした。
こんなエピソードがあります。
それは、プリンス・マンションで
年を跨ぐ大晦日の話。

料理で忙しい筈の彼女が
トイレから暫く出て来ません。
どうしたものかと
様子を伺うと…。
TOTOと書かれた製品と
対峙している最中でした。
どうも水が流れずに
壊れてしまったようです。
「どれ」と言う僕に
彼女は疑いの眼差しを
向けました。
その目が僕に火を点けます!

何をしたのか覚えてはいません。
端から機械音痴の僕であります。
勘だけを頼りに生きてきました。
家にある工具を使い
ばらして必死で
そのミッションにあたりました。
人間やろうと思えば、
大抵のことはやれるものです。
そして僕は、
通常使えるようになるまでに
TOTOを復活させたのでした。
僕はやり切ったのです!
三時間をこえるトイレとの戦いで
僕は達成感に
満たされていました。
褒められると期待した
彼女の一言は、
「初めて尊敬した」…。

もう一度 言わせて下さい。
一世を風靡したドラマ
北の国からの登場人物
純の台詞を借りるなら
「僕は傷ついていた…」
でありました。

除夜の鐘が点けっ放しのTVから
聴こえてきました。
彼女の大晦日料理は、
とても美味しいく久しぶりに
あの百草高台 屋根裏の夜を
思い出させてくれました。
勝手に作りあげた
「虚勢という鎧」
僕はそれをその年越しとともに
脱ぎ捨てるの
でした…最終章へと続く。

除夜の鐘に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 41話 「幻滅」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
時計の針は、
もう既に遅刻を示していました。
初出勤が台無しです。
目的地である西大島まで
あと僅か3.5キロメートルの
距離でありました。

「もう、車には乗るな〜」
「傍迷惑もよかとこっ!うして~」
翻訳
(人に迷惑をかけるくらいなら
その車を捨てなさい)
電話の向こうで中学の同級生
厚木のトラック野郎一番星が、
からかうように言いました。
ごもっともであります。

以前この日記でも触れた
厚木のトラック野郎。
嘗て愛川町で居候していた頃
冗談交じりに
僕は語ったものでした。
10リッター未満の車の走行距離と
満タンで走る車の走行距離は、
確実に前者が勝る!
確かに理屈ではそうなのです。
一番星がケタケタと
その体躯に似合わない笑い声を
あげながら言いました。
「貧乏の痩せ我慢~」
おっしゃる通りです。
そんな事をほざいていたかと
思うと恥ずかしくて
仕方ありません。

本音で言えば、
例え草臥れた中古車とはいえ
僕には大切な足。
愛車には変わりないのです。
お腹いっぱい油(ガソリン)を
飲ませてあげたい…
それが親心であります。
でも、無い袖は振れないのも
事実でありました。
かといってガス欠を起こしたら
元も子もありません。

無理にサイズの違う服を
着ようとした報い…。
自分の腕の長さ以上のものを
掴もうとする愚かさ…。
稚拙な空回りの所業は、
やがて呼び水となり
その溝を深くしてゆくようです。
もはや彼女においては、
「幻滅」以外の何ものでも
なかったのかも知れません…続く。

一番星の優しさに感謝して
また、明日。

 

 

汚れなき愛を信じて 40話 「船堀橋大渋滞」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
海風が吹き抜ける筈の船堀橋。
その日の風は、なぜか
穏やかなものでした。

「嘘でしょ!」
彼女が言いました。
当然です。
逆の立場なら僕もそう言ったに
違いありません。
草臥れた中古車が
力尽きた瞬間でした。

映画やテレビドラマで目にする
ガス欠で車が止まる映像…。
情けない程に
ゆっくりと停止して行きました。
キョトンであります。
切れ長の眼光鋭い筈の
彼女の瞳もまん丸く
その顔に驚きの色を隠せません。
ブラウン菅の世界では、
他人事として
捉える事が出来る現象も
いざ自身の事になると
笑えないものです。
流石の彼女も呆れ果てています。
台無しです。
空回りもいいところです。
「言わんこっちゃない」と
言いたげにニュートラルにした
車を彼女は押しました。

徐行で追い越して行く車は様々で
クラックションを鳴らす者。
眉間に皺を寄せる者。
嘲笑うかのように見下す者。
もう目も当てられません…。
これが、 ガソリン満タン!と
言えない男への
報いなのでありましょうか…。

もうすぐ行けば下り坂。
何とか惰性で力尽きた中古車を
車線のいくらか多い交差点まで
運ぶ事が出来ます。
そうすれば車を路肩に止め
この傍迷惑な船堀橋の渋滞を
緩和させる事が
出来るかも知れません。

下り坂に近づいた車に
彼女は飛び乗りました。
もはや鉄の塊と化した
力尽きた中古車が緩やかに
下りてゆきます…だけれど、
交差点のかなり手前の地点で
止まってしまいました。
彼女は、再び車を下りて
鉄の塊を
押さなくてはなりません。
滑稽でした。
苦悶の表情を浮かべる彼女を
ルームミラーで見つけました。
何と情けない男なのでしょう…。
それは、
罪と呼ぶべき所業でした。

結局、
路肩に退避した車を見届けて
彼女は都営新宿線の地下鉄に乗り
勤務先に向かうのでした。
時計の針は、
もう既に遅刻を示していました。
初出勤が台無しです。
目的地である西大島まで
僅か3.5キロメートルの
距離でありました…続く。

草臥れた中古車に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 39話 「船堀橋大渋滞」中編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そんな船堀橋の上で
ガス欠を起こした
愚かな車がありました。
ドイツ車とは名ばかりの
草臥れたポンコツワーゲン…。
先を急ぐドライバーたちの
足を止めた犯人は、
紛れもなく僕でした。

その頃の僕はと云うと
完全に自分を見失い
彼女との接し方にも変化が
起こりはじめていました。
足が地面に着いていない
感覚に囚われ
歩く時の腕の振り具合さえ
とても不自然で
ぎこちないものでした。
まるで重たい鎧を
身に付けているかのように…。

即ち僕は「虚勢」という手段で
哀しい予感の対応にあたって
しまっていたのです。
のっけから有りもしない抱擁力を
宛かも備えているかの如く
その爪先を思いっきり立てて
彼女と接していました。
そんな背伸びをした関係など
いつか滅んでしまうものを…。
でもそれは、
「彼女から頼られたい」
総てはその一点から
来るものでした。
そんな僕の様子を見て
彼女は困っているようでした。

その日の船堀橋は、
晴天に恵まれ
爽やかな一日のはじまりを
演出してくれる筈でした。
日の当たる時間帯での
仕事を経験したいとして
彼女は江東区の西大島にある
オフィスビルで
働くことを決めました。
花のOLデビューであります。

今日は彼女の初出勤。
朝のラッシュ時の船堀橋を
知っているだけに
彼女は電車で行くと言いました。
それを制し「車で送る」と
言い張ったのは僕の方でした。
誰も求めてやしない
野球場で見られる
電光掲示板を持ち込んでは、
勝手に決めたルールに
乗っ取って点数稼ぎに
しゃかりきであります。
何と愚かなのでしょう…。

草臥れた中古車がガス欠で
今、力尽きようとしているのに…。
その橋の上で
止まるなどと露とも知らず…。
僕の頭の中は、彼女のことで
いっぱいだったようです。
海風が吹き抜ける筈の船堀橋。
その日の風は、なぜか
穏やかなものでした…続く。

思い出に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 38話 「船堀橋大渋滞」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
だけれど、
その日のパーティーは、
最後まで楽しい酒の席では、
ありませんでした。

江東区と江戸川区を結ぶ船堀橋。
朝のラッシュ時のその橋は、
千葉方面から流れてくる車で
ごった返しています。
都心に向かう運送業のトラック。
通勤に使われるマイカー。
信号待ちで苛立つダンプカーと
様々な車種が列を
なしていました。
朝の車事情は、いつだって
殺気だっています。
それこそ、逃げ道のない
橋の上での渋滞は
最悪であります。
新大橋道路と呼ばれるその道は、
千葉県と東京都を結ぶ大動脈の
ひとつでもありました。

そんな船堀橋の上で
ガス欠を起こした愚かな
一台の車がありました。
ドイツ車とは名ばかりの
草臥れたポンコツワーゲン…。
先を急ぐドライバーたちの
足を止めた犯人は、
紛れもなく僕でした…続く。

船堀橋に感謝して
また、明日。