汚れなき愛を信じて 13話 「お天気お姉さん」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
だけれど、彼女は一度だけ
咳を切ったかのように
その話に触れたことがあります。
咳を切ったように
話しだしたそれは、
今よりずっと
先のことでした…続く。

アニメーションでないと
中々捉えることの出来ない
彼女の出で立ち。
当時名を馳せた
「お天気おーねーさん」
に似ており
一般女性の頭ひとつ分抜けた
長身と眼光鋭い切れ長の
その瞳は、漫画に登場する主人公
そのものでした。

お天気お姉さんとは、
週刊ヤングマガジンに掲載された
安達哲による漫画作品で
美貌と教養を兼ね揃え
激しい性格をも合わせ持った
女子アナウンサー仲代桂子の姿を
描いたアニメーションでした。

でもそんな外見とは裏腹に
実写化した彼女は、
あまり前に出ようとする
タイプの人では
ありませんでした。
人との接し方一つにしても
控え目な印象を与えるもので
その発する言葉でさえ
女性特有の主張する
レンジの高いものではなく
耳触りに優しい独特な響きを持つ
声の持ち主でありました。

だけれど、
僕はこのあと目には見えない
彼女の強靭な個性と
嵐のような激しさを
身を持って
体感することになります。
それを知るのには、
もう少し時を待たなければ
なりません。
そんなことなど
知る由もない僕は、
まだ夢の中にいたのでした…続く。

あの夢に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて12話 「過去」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
甲斐性もなく
根拠のない自信しか
持ち合わせていない男と
その声が好きだという女を
繋ぐものは、
歌の糸に違いないのでした。

ひとり暮らしをする前の彼女は、
母親と年子の妹
三人での生活を送っていました。
東京は江東区にある
大島の街で育った話を
僕によく聞かせてくれました。
家族のこと、友達のこと、
時には聞きたくもない情報まで…。
恋をすると女の子は、
いつだって
お喋りになるようです。
その点に限って言えば
彼女も年頃の女性たちと
そう変わりはないのでしょう…。

僕は彼女がする家族の話が
好きでした。
女手ひとつで育ててくれた
お母さんを
彼女はとても大事にしていたし
同じく一つ違いの妹を可愛がり
大の仲良しでありました。
でも父親の話は、
したがりませんでした。
僕もそれにさわることを
しなかったし
聞くつもりもありませんでした。

だけれど、彼女は一度だけ
それに触れたことがあります。
咳を切ったように
話しだしたそれは、
今よりずっと
先のことでした…続く。

彼女の家族に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 11話 「歌の糸」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼女は、そんな僕を見て
気遣うように言いました。
「そんな事は気にしないで
一緒にいる理由は
他にあるのだから…」
彼女が大人の女性に
思えた瞬間でした。

彼女は、
ひとりでいる時などに
僕のLIVEビデオを
好んで鑑賞しているようでした。
プリンス・マンションに
遊びに行くと当時VHSと
呼ばれたビデオテープが、
マグネット付きテレビ台の
箱の中でその置き場を変えながら
所狭しと占拠していました。

出会ったばかりの頃は、
米米クラブのそれらが
あった筈なのに
今は後ろに
追いやられているようです。
彼女に限って言えば
カールスモーキー石井に
今のところ
勝っているようであります。
言わずもがな
それはとても嬉しいことでした。

甲斐性もなく
根拠のない自信しか
持ち合わせていない男と
その声が好きだという女を
繋ぐものがあるとするならば、
それは「歌の糸」に
違いないのでした…続く。

繋ぐものに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 10話 「大人の女性」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
一世を風靡したドラマ
北の国からの登場人物
純の台詞を借りるなら
「僕は、ドキドキしていた…」
でありました。

田舎者のコンプレッスから
来るモノなのか
カルチャーショックとは
よく言ったものでありまして
僕は完全に彼女に
遅れをとるのでした。
東京育ちの彼女には、
普通のこと
だったのかも知れません。
だけれど、
上京して日の浅い僕にとって
敷居が余りにも高く
場違いであり
引け目を感じるのも
無理のないことでした。

彼女は、そんな僕を見て
気遣うように言いました。
「そんな事は気にしないで
一緒にいる理由は
他にあるのだから…」
彼女が大人の女性に
思えた瞬間でした…続く。

その言葉に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 9話 「プリンス・マンション」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
渡辺篤史の建もの探訪!
其れは其れは
素晴らしい建築物でありました。
彼女のマンションを見て
僕は面食らってしまうのでした。

セレブとは、いつの頃からの
言葉なのでしょう。
少なくとも10階以上ある
その構造物は、
その頃トレンディードラマが
流行していた時代で
その主人公が住むものに
よく似ていました。
何より一階に
コンビニエンス・ストアー
LAWSONがあるのです!
何と便利なのでしょう…。
見上げる彼女の部屋の窓は、
円形にカーブしており
しかも出窓であるのです。
そのアーチ型を考案した
設計者は大したものであります。
苦心して創り上げた
のであろうそれは、
その建築物の顔でありました。

タイルをあしらった
ビルの壁は、
♪パープルレインで知られる
USAシンガー・プリンスの
衣装のような紫色でありまして
船堀通りに面したそれは
車のヘッドライトライトに
反射して眩しく光っていました。
贅沢に何千枚も敷き詰められた
お風呂場で見られるそれは、
周りを見比べても
目を引くものでありました。

一言でいえば限りなく
垢抜けているのです。
未だ嘗てそんな家に住む人と
お知り合いになったことなど
ありませでした。
僕が住む百草高台の
屋根裏のあるアパートとは
天と地ほどの違いです。

一世を風靡したドラマ
北の国からの登場人物
純の台詞を借りるなら
「僕は、ドキドキしていた…」
でありました…続く。

初体験に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 8話 「船堀タワー」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼女は、
その風に手を翳しています。
それはとても眩しくて
美しい光景であるのでした。

夜にもなると
この街のシンボルといえる
船堀タワーが顔を変え
赤い光を浮かばせていました。
飛行機が迷わないようにと
点けらたそれは、東京に来て
間もない僕にとっても
道しるべとなっていました。

船堀橋を渡り
その目印を頼りに僕は
ハンドルを廻します。
この街で一番高い建築物の麓に
彼女のマンションはありました。
最初にお邪魔した時の驚きは、
今でも記憶に残っています。

渡辺篤史の建もの探訪!
其れは其れは
素晴らしい建築物でありました。
彼女のマンションを見て
僕は面食らって
しまうのでした…続く。

船堀タワーの灯りに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 7話 「船堀橋」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
その声を聴きながら…
その体温を感じながら…
ごくごく自然に…淡々と…
時は流れて行くのでした。

彼女のマンションは、
東京江戸川の船堀と
いう街にありました。
江東区と江戸川区を渡す橋
それが船堀橋であります。
0メートル地帯として知られる
その両側の河川敷周辺は、
満潮面になると3.5メートル
低い場所にあり
川の氾濫を防ぐために
スーパー堤防なるものが
建てられています。
互いの複雑な地形から
人工的に造られた坂の上に
その橋は架けられていました。

僕が住む百草高台
その聖蹟桜ヶ丘との往来には、
欠かせない橋であったのです。
何よりそこから見える景色と
吹き抜ける風が好きでした。

坂道をのぼり出す頃に
彼女は手回しでドイツ車とは
名ばかりの車の窓を開けました。
東京湾に近いそこは、
海風がよく通り
潮の香りと夏の到来を
教えてくれたりもします。
僕も同じように
その草臥れた
車の窓を開けました。
そこから見えるものは、
空を切り取るビルの影ではなく
どこまでも透き通った空と
海へと伸びる川の流れだけを
映し出していました。
島育ちの僕には、何処か
懐かしさを感じさせるものが
あったのかも知れません。

彼女は、
その風に手を翳しています。
それはとても眩しくて
美しい光景であるのでした…続く。

船堀橋の風に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 6話 「屋根裏部屋」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
夜明けが、
この屋根裏部屋にも
初夏の風を運んでくれています。
そして僕はまた、何本目かの
煙草に火を点けるのでした。

「汚れなき愛を信じて」は、
音や文字で確かめるまでもなく
既に出来上がっていたのかも
知れません。

彼女の話はまだ続いています。
幸せな時間でした。
その声を聴きながら…
その体温を感じながら…
ごくごく自然に…淡々と…
時は流れて行くのでした…続く。

夜明けの屋根裏部屋で
はじめて君を抱いた時間
煙草の煙とひかり 時を忘れた

何もしなくていい
側にいてくれるだけ
無邪気に微笑う君を
離さない 悲しませない

あなたのために何が出来る
君は何度も聞くけど
かけがえのない君がいればいいよ
汚れなき愛を信じて
〜歌詞 2chorusより

その時に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 5話 「屋根裏部屋」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
おそらく東京で一番
綺麗な夜景が見える場所へと
車を走らせるのでした。

彼女が聞きました。
「私に出来ることは?」
屋根裏部屋は、煙草の煙で
少し霞んでいました。
空中に浮かぶその煙の輪を
僕は目だけで追っています。
シーツに包まった彼女は、
その答えを
待っているようでした。
僕は起き上がり
その部屋に一つだけ設けられた
小さな円窓を開けます。
そして僕は被りを振りました。

窓から零れた光が、
この部屋の埃を際立たせ
その柔らかい風は、
楕円状の煙を揺らしています。
「側にいるだけでいい」
僕は横になりながら
想いを声にしてみました。
今度は、彼女が起きあがり
煙草の火を消す番になりました。
その答えに満足出来ない彼女は、
また僕の腕に素早く滑り込み
話を繋ぎます。

僕は歌でも
聴いている気持ちで
その声に耳を傾けました。
それはとても心地よく響き
僕の心にゆっくりと
降りて来るのでした。
夜明けが、
この屋根裏部屋にも
初夏の風を運んでくれています。
そして僕はまた、何本目かの
煙草に火を点けるのでした…続く。

その声に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 4話 「クリームシチュー」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
連絡先を交換してから
お互いの家を行き来する
ようになるまでに、そう
時間はいりませんでした。

聖蹟桜ヶ丘駅近くのスーパーで
買い出ししたものを
彼女は、その屋根裏のある
狭いアパートの台所で
捌いています。
僕はベランダの窓をあけました。
クリームシチューの匂いが
外にまで香って来ています。
僕は先ほど通って来た
畑を眺めながら
缶ビールのプルリングに
指をかけました。
彼女も一杯やっているようです。

この百草高台にも
もう既に夜の帳が下りはじめ
都市部より気温が
一度二度低いこの街の風は、
少し冷んやりとしていました。

彼女が作る料理は、
とても美味しく
リクエストに応えてくれた
ほうれん草入り
クリームシチューは、
絶品でありました。
彼女の料理を食べながら
僕らは、はじまったばかりの
二人の会話を愉しみます…。

最初の待ち合わせ場所は、
錦糸町駅前にある
丸井のデパート前でした。
夜も深い時間だけあって
車の往来も疎らな京葉通りは、
容易に駐停車出来る
空き具合でした。
だけれど、彼女はもう既に
来ているようです。
スラリと伸びたその長身は、
夜にだって目立ってしまいます。

それから僕らは、
おそらく東京で一番
綺麗な夜景が見える場所へと
車を走らせるのでした…続く。

そこから見えるものに感謝して
また、明日。