汚れなき愛を信じて 37話 「逃亡」

昨日の続き…。
カリッと心の音がします…。
勝手に作りあげた
「殻」がその入り口を
開けました…続く。

その「殻」は、
手招きでもするように
その入り口を大きく広げました。
僕は何を考えているのでしょう。
焼肉の食材はたっぷりと
用意されているにも関わらず
僕は買い出しに行くと
言い出しました。
彼女はそんな僕を制します。
だけど僕は聞き入れません。
結局高円寺三人娘を船堀の
プリンス・マンションに残し
僕らは車で買い出しに
行くのでした。

あり得ない事態です。
何を買いに行くにも
目的がないのです。
高円寺三人娘が
悪い理由(わけ)ではないのです。
勿論彼女のせいでもないのです。
時より発作のように現れる
感情の起伏は僕の声を奪います。
勝手病なるそれは、
またもや
僕の心を停止させました。
招待した側の逃亡。
助手席の彼女は、
もう付き合いきれない
といった面持ちで
船堀橋から見える川の向こうを
無言で眺めています。
橋の上の吹き抜ける風は冷く
冬の到来を教えてくれました。

いくらか気持ちを整えた僕は
マンションに戻ります。
だけれど、
その日のパーティーは、
最後まで楽しい酒の席では
ありませんでした…続く。

男女7人高円寺三人娘に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 36話 「ホームパーティー」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
思い返してみれば、
あの日を境にして
二人のすれ違いを決定的なものに
したのかも知れません。
ホームパーティーは、
明日に迫っていました。

船堀でのホームパーティーは、
最初から不穏な空気を
漂わせていました。
僕らは、その準備(焼肉)に追われ
ちょっとした食い違いから
言い争いをしていた事にも
原因があるのかも知れません。

気心知れた同郷の三人娘。
もっと自然に
振る舞うことが出来る筈なのに
どうも上手くいきません。
三人娘と彼女との間を繋ごうと
必死であります。
だけれど、
今ひとつ嚙み合いません。

当時のことを思い返すたびに
思うのです。
嚙み合ってなかったのは、
むしろ僕の方で
何とかしようと必死になり
それがやがて思わぬ方向に陥り
蟻地獄のような砂の中に
自ら嵌ってゆく…。
自分で自分の首を締めていく…。
男女7人高円寺に登場する
空回りの男のようです。
ひとのことは言えません。
まさに僕は
それでありました。

そんなドツボに嵌っていく
僕にいち早く気付いたのは、
やはり優しい声のひとでした。
その場を盛り上げようと
合いの手を入れてくれます。
そんなことなど御構い無しと
ダメだしの女王 厄介な彼女が
僕をからかいます。
いつもなら間髪入れずに
言い返す言葉は、
この時ばかりは口から
ついて出てはくれません。
僕は、苦笑いをしながら
俯くほか術がなかったのでした。
何たる失態、何たる体たらく。
最悪です。
リィー子が言いました。
「今日は、元気のなかね〜」

元気がないのは、
今に始まったことでは
ありませんでした。
最近ずっと
会えば喧嘩になる僕らは、
互いに疲れていました。
このパーティーも
そんな喧嘩続きの二人には
いい機会だと思っての
ことでもありました。
それがこのありさまです。

カリッと心の音がします…。
勝手に作りあげた
「殻」がその入り口を
開けました…続く。

今があることに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 35話 「男女7人三人娘」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
逃げ出すと云う僕の一手は、
まるで暗示にかかったように
心を停止させるのでした……続く。

それからの僕は、まるで坂道を
転げ落ちるようなものでした。
自ら作りあげた「殻」は、
彼女を悩ませる事になります。
こんなことがありました…。

日記「男女7人高円寺」でも
触れた登場人物。
ひょんなことから
その男女7人の三人娘が、
「船堀の彼女に会いたい」と
言い出しました。
僕の物書きを手伝ってくれた
優しい声のひと。
ムードメーカーのりぃー子
そして、いつもぶつかって
ばかりだった厄介な彼女。
冷やかしもあったのでしょう。
半ば、同郷の連帯感からなのか。
はたまた、
心配もあってからなのか。
嫌、彼女たちに至っては、
好奇心であったに
違いありません。
こう云うことへの探究心は、
半端のないものでしたから!

後日、彼女にその話をすると
思いのほか乗り気で
船堀のプリンス・マンションで
ホームパーティーを開く
ことになりました。
意外でした。
何度かバンドメンバーとは、
飲んだことはあっても
女友達は初めてのことでした。

その頃の僕は、
船堀のマンションに入り浸りで
殆ど百草高台の屋根裏には
帰ってはいませんでした。
箱バンと呼ばれたbandmanたち。
その演奏場所が、
錦糸町や亀戸にあったから…。
いいえ違います。
本当の理由は他にありました。
僕は彼女に依存していたのです。
自覚は確かにありました。
そんな自分が嫌でしたから…。

思い返してみれば、
あの日を境にして
二人のすれ違いを
決定的なものに
したのかも知れません。
ホームパーティーは、
明日に迫っていました…続く。

遠き日に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 34話 「停止する心」

#144

汚れなき愛を信じて 34話
「停止する心」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼女の瞳は、僕の腕を縛り
彼女の声は、
僕に足枷を嵌めました。
そしてその足枷は、
僕の「自由」を奪いました。
それと同時に「自分」をも
見失ってしまうのでした。

もしかしたら
それも含めて自分なのかも
知れません。
だけど角度を変えてみると
その境遇に立たされなければ
そんな自分を発見せずに
済んだのかも知れないのです。

傷つけたくないのか…。
それとも
自分が傷つきたくないのか…。
だけれど、
相手に嫌な気持ちを
与えたくない。
それをするくらいなら
会わなければいい
そう思っていたのも確かでした。

いつからか僕は、
目を見て話すことが苦手になり
対面式での食事や会話が
とても窮屈で困難なものに
なってしまいました。
そんな僕は、自ら作り上げた
「殻」に閉篭ります。

遠い昔…。
小学四年生の僕は、
ソフトボールのある試合で
大抜擢されそうになりました。
監督が見ているのが分かります。
球技が好きで試合に出たくて
入った部活動の筈なのに…。
有ろう事か僕はその監督の目を
逸らし俯いてしまいました。
あの時の監督は、
体育座りをするその膝の間に
こうべを垂らした子供を
どんな思いで
見ていたのでしょう…。
逃げ出すと云う僕の一手は、
まるで暗示にかかったように
心を停止させるのでした……続く。

あの時の監督に感謝して
また、明日。

聞こえてますか? アーカイブ総集編 「マーマレード」あなたに捧ぐ…。

聞こえてますか?
あなたは、
いつも出迎えてくれましたね。
家の窓から舟が
見えるものだから。
父が漁から帰って来る時。
僕が学校から帰って来る時。
それから、
送り出してもくれました。
中学を卒業し家を出た時。
上京する時。
そして、病院の踊り場でも…。
見えなくなるまで
手を振っていましたね。
小さな体から伸びた
その細い腕で…。
あなたらしい
その独創的な手の振り方で…。

あなたが療養を送る
市内の病院まで
戸馳大橋を渡たり車で1時間30分。
熊本の空は、ビルに切り取られた
東京のそれよりも広いから
帯山方面に建つ電波塔が
よく見えます。
山を越えたら
それを目指して車を走らせます。
不安な夜を過ごすあなたは、
僕と同じものを
その窓から見ていたんだと
今も思っています。

2014年12月17日
あれから三年の今日に…。
あなたに感謝して
また、明日

 

汚れなき愛を信じて 33話 「トラウマ」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そんな勝手病なるそれは、
様々なカタチで僕を救い
苦しめもするのでした…続く。

彼女にもあるように
その得体の知れない闇は
確かに僕にも存在していました。
それは、忘れていた
トラウマと云うものを
呼び覚ますものでした。

以前日記したあなたとの会話。
五歳のあんたが…と
思ったでしょうね。
僕は子供の特権である
甘えると云う行為と引き換えに
無言と云う武器を
手に入れました。
「畦道とハイヒール」
〜変わった子供 episode5より

確かに思い返してみたら
僕には、
周期のようなものがあるようで
人と触れ合うことの多い何年かと
全く連絡を途絶える何年とが
あるのは事実でした。

だけどそれは、
俯瞰で見た年単位のことであり
秒単位で起こる突破的な
勝手病なるそれは、
僕にしたら
とても厄介なことで
心が支配するはずの
体の機能が
完全に崩壊してしまうのです。

頭で指令を下しても
心は言う事を
聞いてはくれません。
それは、さまざま生活に
転移するかのように
僕の動きの邪魔をします。
その得体の知れない
モヤモヤした闇が、
僕は大っ嫌いです。
面倒なのは嫌なのです。

だけれど、
そんな面倒を求めたのは
紛れもなく僕自身でした。
そしてまた、
自分のことすら守れない男が
彼女の謎であるその扉を
開けたたがっていた
のも事実でありました。
弱い心しか持ち合わせて
いない癖に…。
僕はその扉の鍵と
引き換えにして
差し出された台帳に
執着と云う烙印を
押してしまったのです…。

彼女の瞳は、僕の腕を縛り
彼女の声は、足枷を嵌めました。
そしてその足枷は、
僕の「自由」を奪いました。
それと同時に「自分」をも
見失ってしまうのでした…続く。

まだ生きていることに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 32話 「アン・バランス」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
年上の彼女は、溶錬な色気を
その表情に滲ませています。
彼女の歌声と表情は、
あの高速道路での夜を
忘れさせるに充分なものでした。
僕はそんな彼女を見つめる他に
術がなかったのです。

男と女の関係に限って云えば、
天秤の道具などでは、
到底測りきれはしない。
数値など無意味だ。
男と女においては、
均等などあり得ない。
一方の重さと
もう片方の重みは、
けっして比例したりはしない。
電話をする方とそれを待つ方。
先を歩く者と後に続く者。
物事を決定する側と従う側。

主導権を握る者の特権は、
駆け引きを愉しむこと….。
もやはそれは、カジノで
差し出される負けの無い
プラスチック製チップの
やり取りのようだ。

その手に首を掴まれた側は、
この身と心を担保に
負けと知りながら賭け続ける。
息を止めてしまうまで…。

そんな「アン・バランス」な
物事に立たされた時の僕は、
縋るような気持ちで
あの頃に逃げ込むしか
なかったのです。
誰とも話したがらなかった
幼少時代のあの日。
以前この日記にも述べた
決して裏切ることのない
唯一無二の存在
シェパード犬の大五郎。
言葉のない世界で
分かり合えたひと以外の友。
そんな勝手病なる
得体の知れないそれは、
様々なカタチで僕を救い
苦しめもするのでした…続く。

小さな救いに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 31話 「You’re My Only Shinin’Star」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼女が選んだ楽曲は、
中山美穂が歌う
♪You’re My Only Shinin’Star
でした。

彼女はその歌詞の意味を
ちゃんと噛み締めて
歌っているのでしょうか…。
茶目っ気たっぷりで歌う仕草は、
やはり生まれながらの女優と
いう他ありません…。

歌いだしは、探りながら…。
声が出ているのか
出ていないのか
メロディーの高いところは
その持ち味たる表情ひとつで
乗りこえております。
許していいものか…。

だけれど、既に呼び出され
来ている時点で
勝敗は明らかです。
その楽曲が繰り出す旋律のように
僕は彼女に完全に
呑み込まれているのでした。

前に出ようとは
しないタイプの彼女。
どこか自信なさげで
儚くもあるそれは、
♪雨音はショパンの調べ
でも有名な女優小林麻美の
それに似ていました。
僕と二コしか違わない
年上の彼女は、溶錬な色気を
その表情に滲ませています。
彼女の歌声と表情は、
あの高速道路での夜を
忘れさせるに充分なものでした。
僕はそんな彼女を見つめる他に
術がなかったのです…続く。

月が波間に 浮かぶと
あたたかい夜が 忍んでくる
沈む夕闇に瞳 わざと
そらしたまま打ち明けた
星と同じ数の 巡り会いの中で
気がつけば あなたがいたの

You’re My Only Shinin’Star
ずっと今まで困らせてごめんね
大切なもの それはあなたよ
いつまでも側にいてI love you
歌詞 1coachより〜
You’re My Only Shinin’Star

その詩に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 30話 「嵐のあと」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
屋根裏部屋のある百草高台に
帰っていた僕は、
当時 固定式だった
留守番機能付き電話の
点滅する赤いランプを
暫く見つめているのでした。

呼び出されたのは、
彼女が仕事のアフターとして
よく使う場所でした。
錦糸町から少し離れた
カウンター1本で
勝負しているそこは、
馴染みのお客で賑わいを見せる
隠れ家的なBARでした。

何事もなかったかのように
彼女は、僕に歌を勧めます。
そのカウンターの奥には、
カラオケが仕込まれており
常連客が歌い盛り上げるのも
このお店の売りでありました。
彼女はあたり前のように
慣れた手つきでDAMと書かれた
機械を操作します。
そうは、いきません。
こちらは、
あの夜の落としまえが
まだついていないのです!
その気配に
素早く気付いた彼女は、
普段あまり
歌いたがらないのに
しおらしく
自らの歌を選択するのでした。

彼女が選んだ楽曲は、
中山美穂が歌う
♪You’re My Only Shinin’Star
でした…続く。

その歌に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 29話 「彼女の嫌いなところ」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
僕は諦めにも似た気持ちで
その入り口の鍵を手にしました。
そして、嘲笑うかのように
差し出された台帳に
執着という烙印を押すのでした。

嵌められた足枷は、
僕の「自由」を奪いました。
それと同時に「自分」をも
見失ってしまうのでした…。

彼女の嫌いなところなど
100個だってすぐに並べられます。
だけれど好きなところ一個に
その100は、負けてしまうのです。
こんな思いをするくらいなら
もう絶対
好きになったりはしないと
絞りだした頭の中だけの
シュミレーションは、
彼女の気まぐれな電話ひとつで
カタカタと音を立てて
崩れ去ってしまうのでした。

屋根裏部屋のある百草高台に
帰っていた僕は、
当時 固定式だった
留守番機能付き電話の
点滅する赤いランプを
暫く見つめているのでした…続く。

待っていたのもに感謝して
また、明日。