宴 ひと夢

聞こえてますか?

「まーまーねぇ」

退院して帰って来た

あなたは、

そう

云っていましたね。

友達

親戚一同が集まる中

僕は、

「眠り」と

云う曲を歌いました。

皆、一頻り飲んで食べて

大いに笑った一夜限りの宴。

久しぶりの我が家。

その賑やかさに

あなたも夜更かしを

してしまいましたね…続く。

ひと夢に感謝して

また、明日。

向山のボス猿 四

聞こえてますか?

昨日の続き…。

恰幅の良い女人の

的確な道案内の甲斐あって

僕は晴れて、

逸れ猿との

果し合いへと向かう事が

出来たのでした。

はて、軍配は…。

それは、

男のメンツに賭けて控えます。

ただ言えるのは、

その後

逸れ猿とは将棋を指す

間柄になりました。

僕らの喧嘩は「こと」が

終わればノーサイド。

何処か爽やかなものが

ありました。

そんな時代でした。

あくる日。

僕に向かってボス猿が、

言いました。

「ワリャ~昨日喧嘩したろ~」

恰幅の良い女人は、

ボス猿のお母さんでした。

それから僕とボス猿との

長い付き合いが

始まるのでした。

向山のボス猿に感謝して

また、明日。

向山のボス猿 参

聞こえてますか?

昨日の続き…。

「奴はおおちゃっか!」

「(生意気)打つ!」

まだ組に馴染めない僕は、

標的の的でした。

そんなある日。

僕は些細な事から

隣組の逸れ(ハグレ)猿と

諍いを起こしてしまいます。

解せない僕は、

逸れ猿のアジトに

カチコミを駆けますが、

慣れない山道で、

迷ってしまいました。

「逸れ猿の家は何処ですか?」

洗濯物を取り込む

女人に訪ねると、

恰幅の良いその腰を

上げながら

「ぎゃん行って ぎゃん」

(翻訳) 「あの角を曲がって」

「ドン突き左」 と

気さくに 答えてくれました。

的確な道案内の甲斐あって

僕は晴れて、

逸れ猿との

果し合いへと向かう事が

出来たのでした…続く。

恰幅の良い女人に感謝して

また、明日。

向山のボス猿 弐

聞こえてますか?

昨日の続き…。

僕らにとって学校とは、

メンツを賭けた男達の

戦場でした。

クラス替えになった

三組は、

山岳地帯 (向山 穂刈道)を縄張り

とする彼の天下で

向山のボス猿の名を

欲しいままにしていました。

「奴はおおちゃっか!」

「(生意気)打つ!」

まだ組に馴染めない僕は、

標的の的でした…続く。

戦友に感謝して

また、明日。

向山のボス猿 壱

聞こえてますか?

彼は、

△(サンカク)中学

二年三組の顔でした。

猿は、

秩序ある社会構造を

作っているとされ

リーダーとなる雄は、

群れ全体を率いている。

敢えて動物に例えて

云うならば、

彼は正しく

向山のボス猿でした。

今も昔も変わらず

雄の社会は厳しいもので、

弱肉強食

喰うか喰われるか!

僕らにとって学校とは、

メンツを賭けた

男達の戦場でした…続く。

二年三組の戦場に感謝して

また、明日。

有明の風

聞こえてますか?

僕が育った有明海は、

毎年の台風を避けては

通れない海でした。

風が吹くと父は、

海を見に行きました。

時化た海上の船が

心配だからです。

暴風雨ともなれば

陸(おか)に船を上げて

備えます。

台風一過、

父は決まって

船底の掃除を

命じます。

大切な休日も

台無しです。

風の行方が

肝心な投網では、

その野生的な眼力で

魚の群れを捉えます。

櫓を漕ぐ僕は、

風が読めずに

しくじります。

風の日に

僕が備えていたのは、

潮の流れと

父の命令でした。

有明の風に感謝して

また、明日。

兜島 後編

聞こえてますか?

昨日の続き…。

漁師が兜島で鮫を見た!

と云う噂が流れました。

怖さに勝る探究心は、

僕らの特権で

行動を起こすには

充分な案件でした。

真相を確かめるべく

投網と鉾を携え

「いざ 鮫退治に出陣!」

と威勢良く兜島へ舵を

切った迄は良かった

のですが、

待てど暮らせど

お目当の鮫は、

出て来てはくれません。

すっかり飽きてしまった

僕らは、

いつもの

カサゴ釣りに切り替える

のですが、

これが

全く釣れません。

鮫にもカサゴにも

振られた僕らは、

坊主のまま兜島を

後にするのでした。

海の恵みに感謝して

また、明日。

兜島 前編

聞こえてますか?

地球の衛星

月のように

僕が育った戸馳島にも

小さな島が連れ添うように

浮かんでいます。

鎧兜の兜に似ている事から

名付けられた兜島。

天然記念だったカブト蟹が

発見された事もあり、

カブト蟹のカブト島

とも呼ばれていました。

そんなある日の事。

漁師が兜島で鮫を見た!

と云う噂が流れました…続く。

月のような島に感謝して

また、明日。

アベベ 四番

聞こえてますか?

昨日の続き…。

「アベベば見てみろ!」

「アベベは裸足ぞ!」

と父親が言いました。

アベベって誰…?

殴られて出来た

口の中の傷は、

鉄の味がしました。

後になって知る誰?の謎。

アベベとは、

42.195キロを

裸足で走ったオリンピック

金メダリスト。

だけど、走る事を辞めた

本当の理由は、

asicsのシューズでは

ありません。

ボロボロで帰って来た僕に

あなたは、「食べなっせ」と

トンカツを差し出しました。

家族に感謝して

また、明日。

アベベ 三番

聞こえてますか?

昨日の続き…。

それから僕は、

走る事を

辞めてしまいました。

父親が訪ねます。

「今日は走らんとか?」

僕は考えた挙句

「asicsのシューズが 無いと走らん」

と物の

せいにしてしまいます。

一瞬の出来事でした。

小学四年生の体は、

軽々と空に舞い

玄関先に転がると

今一度抱えられ今度は、

外に放り出されます。

逆さ吊りから振り回され

再び投げられます。

拳を喰らわせながら

「アベベば見てみろ!」

「アベベは裸足ぞ!」

と父親が言いました…続く。

殴られた事に感謝して

また、明日。