畦道とハイヒール 「誕生」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
赤いハイヒールを履いた
あなたから 少し離れた
僕を見つけました。

2017年 東京。
あなたをなくして
三年が経とうと
しています。
若い頃のあなたは、
どんなひと
だったのだろう。
青春時代を紐解きます。

since1948〜2014
昭和二十三年の
世の中は、
高度経済成長の
好景気に沸き
男性はリーゼント
女性はロングスカート
といった
ニュールックが流行し
岡晴夫の
「憧れのハワイ航路」
笠置シズ子の
「東京ブキウギ」
などの歌謡曲が
ヒットを飛ばした
時代でもありました。

肥後ノ国 八代。
そんな昭和の彩りの中
四姉妹の次女として
稲穂香る季節に
あなたは誕生しました。

熊本県 第二の都市
八代の街は、
日本三大急流のひとつ
球磨川が分流する
三角地帯北部に
位置していました。
豊富な水に
恵まれたことから
い草の生産に栄え
且つその水の
流れの先には、
不知火海があり
太刀魚の漁場としても
名を馳せた立地のよい
港町でもありました。

四姉妹の中でも
一番小柄で
控えめな子だった
というあなた。
だけれど、
目には見えない
強靭な頑固さを持った
ひとだったと
一つ年下の妹チコちゃんが
語ってくれました…続く。

あなたの誕生に感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール 「悲しい目」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
こんなエピソードが
ありましたね。
園の遠足で長崎の島原に
行った時のこと。

1975年 雲仙記念撮影。
楽しい旅の思い出を
写真に残す大切な
儀式の筈でした。
観光地として賑わいを
みせる雲仙普賢岳。
ひな壇に立ち並ぶ
親子と引率の先生たち。
嫌な予感はしていました。
写真は苦手です。
魂が抜かれます。
只でさえ
笑顔など作れません。

そんな我が家の
事情など知る由もない
カメラマンが緊張を
解そうとします。
無理もありません。
彼は仕事を全う
しているに過ぎません。
だけれどその言葉が
トドメを刺しました。
「大好きなお母さんの
手を繋いで…」
結果 僕を大胆な行動に
向かわせます。
シャッターを切る
寸前のところで
あなたの手を
振り解いてしまいました。
あの時の「悲しい目」を
今でも覚えています。

2014年 冬
あなたを失い
アルバムを整理します。
白いパンタロンに
風になびくことのない
金色の髪の毛。
赤いハイヒールを履いた
あなたから少し離れた
僕を見つけました…続く。

色褪せた写真に感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール「願い」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そんな悩める
園での暮らしの中で
どうしても
気になる女性が
出来てしまいます。
幼稚園の先生でした。

犬の大五郎以外
興味を抱かない
僕にとって
はじめてのことでした。
いつも笑顔で優しい
彼女は、控えめな物腰に
化粧も派手なもの
ではなく
限りなくナチュラルで
爽やかなひとでした。
しかも、黒髪が
風になびいています。

それは、僕にとって
大切なことでした。
アフロばりの
スズメの巣のような
髪型のあなたとは
大違いです。
そよ風を
ものともしない
その金色の髪の色は、
針金のようで
とても不自然です。
何よりも
自然体であることが
あなたに対する密かな
僕の「願い」でした。

こんなエピソードが
ありましたね。
園の遠足で長崎の島原に
行った時のこと…続く。

遠き日に感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール 「目に見えないもの」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
小さくてもそんな
感情が芽生えたのは
確かにあの頃でした。

あの時のことを
どう表現したら
いいのか分かりません。
だけど、
今こうして振り返って
みればそれは、
園に通う子ども達と
何ら変わることのない
「僕の甘え方 」のように
思えてなりません。

僕なりに示した
唯一の反抗であって
目には見えない
精一杯の愛情表現…
ただ、それだけのこと
だったのかも知れません。

そんな悩める
園での暮らしの中で
どうしても
気になる女性が
出来てしまいます。
幼稚園の先生でした…続く。

思い出に感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール 「変わった子ども」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
1975年の春は、
僕の嘘から
はじまるのでした。

あなたは、僕のことを
「変わった子だね」と
よく言っていました。
僕にしたら
どっちが!です。

母親に甘えることが、
当たり前とされた
子ども達の理りの中で
確かに言われてみれば
僕の方も少し
違っているようでした。
ひらひらの服を着て
手を繋ぐことや
買い物に
付き合わされることも
とても
窮屈で苦手でした。
なんでそうなって
しまったのか…。
それは、
園に上がる前の環境に
原因があるのかも
知れません。

共働きの両親のもと
一日の殆どを僕は、
ひとりで
過ごしていました。
考えたあなたは、
僕に犬を宛てがいました。
番犬の意味合いも
あったのでしょう。
ひとりでいる事に慣れ
何よりそれが当たり前に
なっていく僕を
心配しての事だったと
今では思えます。
でもあの時の僕には
あなたの想いに
応えるすべを
持ち合わせては
いませんでした。

そんな生活の中で
唯一心を許したのは、
その共に育った
シェパード犬の
大五郎でした。
彼だけが救いでした。
異なる動物同士とはいえ
垣根をこえた関係に
言葉はいりません。
同時に強い安心感を
彼に見出してもいました。

そして僕は、
あなたに対し
子どもの特権を放棄し
代わりに無言と云う
武器を手に入れました。
「五歳のあんたが」と
思うでしょうね。
だけれど、小さくても
そんな感情が
芽生えたのは、確かに
あの頃でした…続く。

あなたの想いに感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール 「嘘」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
五歳になった僕は、
あなたを見る
「ひとの目」ばかりを
気にしていました。

宇土半島のつま先。
三角岳をはじめとした
山々が連なる三角町。
天翔台なる山の裾野に
その幼稚園はありました。

僕はそこで更に
疑念を深めてしまいます。
皆一様に手を繋いだ
園児たちがやって来ます。
でも僕の興味は、
目下その手を引く
保護者の方でした。
そこへ来る人達は、
思い描くお母さん
そのものでした。
そして僕は、
あなたを見上げるのです。
いつにもまして
顔が光っています。
金と銀の折り紙を
散りばめたような
そのキラキラは
どこの壁にぶつけたの?
と聞きたくなるくらいです。
港町の春の日差しを
甘く見てはなりません。
照り返しが強いのです。
チカチカします。
目に毒なんです。
あなたは、そこでも
完全に浮いていましたね…。

「あれ 誰れのお母さん?」
半島に住む街の園児が
興味津々な面持ちで
尋ねて来ます。
「知らん」
僕は、直ぐにバレる嘘を
ついてしまいました。

人と違うことに
少なからず
抵抗を感じていました。
やっぱりあなたは、
この星のひとではないと
そう思い込むことで
その場を
やり過ごしていました。
1975年の春は
僕の嘘からはじまる
のでした…続く。

三角町に感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール 「ひとの目」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
あなたの出で立ちは、
当時 お茶の間を賑わした
地球外生命体のようで
エイリアンに違いないと
子どもながらに
疑ったものでした。

1975年 春。
今日は入園式。
黄色い肩掛けポーチと
ひらひらの付いたフリルに
青いドット模様の
服を着せられて
はじめての
幼稚園に挑みます。

島にも保育園という
施設はありました。
だけどあなたは、
宇土半島にある
その園に僕を預けました。
それには、理由が
あったようですね。

車の免許を持たない両親。
島民にとって自動車は、
不可欠なものでした。
我が家では舟だけが頼り。
役所の手続きや、
日々の生活に
便利な場所を選ぶのは、
無理からぬことでした。
そんな家庭の事情も
重なり僕は、
一年間という他の子より
短い幼稚園の生活を
送ることになりました。

そんなあなたの
思いをよそに
僕は只々 恐れていました。
あなたのことです。
入園式では、きっと
張り切るでしよう…。
日に日にエスカレートする
メイク&ファッション。
五歳になった僕は、
あなたを見る
「ひとの目」ばかりを
気にしていました…続く。

あの時代に感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール 「告白」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
風になびくことのない
その金色の髪の毛は、
乾いた紙粘土のようでも
ありました。

シルヴィ・ヴァルタンを
好んで聴いていた
あなたは、
なんちゃってパリジェンヌ。
メイクひとつにしても
丹念に仕上げます。
何処を真似て
何を間違ったのか
何もそこまでしなくても
と云うくらい塗り重ねた
白いキャンパスに
あなたは、
ルージュを引きました。
まんが日本昔ばなしに
登場するお公家さま
のようです。

幼い頃の僕は、
そんなあなたが
少し いやでした…。

島の住民にそのような
風変わりな女性は、
ひとりもいませんでした。
TPOを完全に度外視した
あなたの出で立ちは、
当時 お茶の間を賑わした
地球外生命体
エイリアンに違いないと
子どもながらに
疑ったものでした…続く。

若かった
あなたに感謝して
また、明日。

畦道とハイヒール 「宇宙人」

聞こえてますか?
あなたは、まるで
宇宙人のようでした。

1975年 肥後ノ国。
天草の玄関口 三角港から
渡し船でゆく島。
みかん畑が連なる山々と
北に広がる有明海。
南には不知火海を臨む
その島のことを
人々は戸馳島と呼びます。
そこに住む人たちは、
長閑な自然と寄り添い
暮らしていました。

そんな島の景観に
逆行するかの如く
船着場までの畦道を
颯爽と闊歩する
ひとりの女性がいました。

今にも折れそうな
真っ赤なハイヒールの
靴を履いたあなたは、
今日も僕の手を引きながら
買い物へ出掛けます。
顔の三倍はあろうか
アフロばりの
そのくるくるパーマは、
スズメの巣ですか?と
言いたくなる代物で
決して
風になびくことのない
その金色の髪の毛は、
乾いた紙粘土のようでも
ありました…続く。

二十五歳の
あなたに感謝して
また、明日。

夏の回廊 2chorus

聞こえてますか?
この声を
あの風にのせて

時の流れが 隠し持つ光
鳶色の瞳が 金色に染まる

雑誌のカタログには
載らない世界
気流が鳴る あの空の彼方

夏の回廊
幾千の時をこえて
feel like !
手をつなごう
夢はまだ続いてる

あの夏に消えた宝物
思い出して
輝いてた 君を

夏の回廊
果てしない夢の中へ
feel like !
手をのばそう
夢はまだ終わらない
歌詞 夏の回廊より

夏の風に感謝して
また、明日。