for you…playback Part8

🌙summer
21話「下馬散歩」中編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
最初は迷惑そうだったM…。
そんな熱意を汲み取ったような
半ば諦め…根負け感も否めない
僕らの「下馬散歩」が
はじまるのでした…。

「その髪いつ洗うの?」
三つ編みにした肩まで
伸びる髪にパステルカラーの
ビーズをあしらった
それを指差しMが言うのです。
少しは、僕に興味を持って
くれたのでしょうか…?
気分を良くした
なんちゃってアフリカーナは
語り出すのです。
自身の洗えない髪のこと…。
夢と音楽の話…。

しっかりと目を見て
会話をすることや
人の話に耳を傾けて
ちゃんと聞くその姿勢に
「品」と云うものを
感じずには要られません。
両親の愛情を一身に受けて
大切に育てられたのだと
改めて思うのです。

彼女は、分からない事は聞き
思った事は素直に
言うひとでした。
決して強い物言いではなく
やわらかな口調で…。
上からでもない
丁寧な言葉遣いで…。
いつも自然体で、どこか
天然色を持ち合わせたM。
その飾らない笑顔が、全てを
物語っているのでした…続く。

飾らない笑顔に感謝して
また、明日。

🌙summer
22話「下馬散歩」後編

聞こえてますか?
「夢があることは羨ましい」
続けて彼女は、これからの話も
聞かせてくれました。
ファッションに興味を持つM。
大学を卒業したら服飾系の
仕事に就きたいようでした。
なるほど、Mの私服は
奇をてらわず
何気なく着こなした
デニムでさえスタイリッシュに
見えたものです。
それはシンプルで
何より爽やかでありました。
ズダ袋を頭から被ったような
髪を洗えないアフリカーナとは
どうにも吊り合いません。

【回想】
あなたは、
後に語っていましたね…。
「Mさんは、
元気にしているのかな…?」
大学卒業後、
大手アパレル会社に就職し
社会人デビューを飾ったM…。
彼女のからのプレゼント
フェラガモの靴を
あなたは「勿体無い」と
言いながら一度も履くことなく
最後まで大切に
しまっていましたね…。
Mの気遣いと、あなたの貧乏性を
何処か微笑ましく
思ったものでした…。
「マーマレード」
〜あなたのepisodeより

夏の夜の下馬散歩は、
僕にとって
かけがえのないもので
上空に広がる東京の星空も
キラキラと輝いて
見えたものです。
彼女の家は、下馬にある
二階建ての一軒家。
世田谷公園の先を右に折れたら
家族が待つ彼女の自宅。
それは、今日の
「おしまい」を意味しています。

僕は歩幅を緩めたい気持ちで
いっぱいでした。
立派な門構えの前まで来たら
お別れです。役目を終えた
淋しいアフリカーナは、
バイバイと手を振って
今来た道をとって返すのです。
そのひと時を
噛み締めながら…続く。

東京の星空に感謝して
また、明日。

🌙summer
23話「緑色のドア」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
僕は歩幅を緩めたい気持ちで
いっぱいでした。
立派な門構えの前まで来たら
お別れです。役目を終えた
淋しいアフリカーナは、
バイバイと手を振って
今来た道をとって返すのです。
そのひと時を
噛み締めながら…。

下馬散歩の後は、
勤務先である新宿歌舞伎町
のBARに向かいます。
その当時の僕は、
深夜に働き昼間寝るといった
一般の人とは真逆な生活を
送っていました。
雑居ビルから出された残飯を
カラスが突っつく頃に
一日の終わりを迎え
「緑色のドア」が目印の
自宅に帰るのです。

東京は江戸川。
その支流である川辺に
特殊な色使いをした
テラスハウスがありました。
都営新宿線一之江駅から
徒歩で20分。
東西線 葛西駅からでも25分…。
歩くには不便な場所にも拘らず
そこを寝床に決めたのには
理由がありました。

音楽以外たいして興味を
示さないアフリカーナにも
ガーデニングといった
唯一の趣味があり
日当たりの良い小さな庭が
あるのも大きな要因でした。
だけど、何よりもその印象的な
「緑色のドア」に魅せられて
この川辺の家の鍵を
手にしたのでありました。
せちがない都会での生活で
その扉の向こうに小さな夢を
見いだしていたのかも
知れません…。

そこには、コンクリートで
整備された駐車場も付いており
車通勤には有難いものでした。
日課になりつつある下馬散歩。
そして、今日も僕は草臥れた
中古車を走らせるのです。
海岸通りから、お台場の
レインボーブリッジを渡り
一路Mのいる街を目指して…続く。

川辺の家に感謝して
また、明日。

🌙summer
24話「そして、あの人…」

聞こえてますか?
夏の陽気であっても
23時を回る夜の散歩は、
涼しくて気持ちの
良いものでありました。
今宵は、道草に
世田谷公園を歩きます。
水飲み場の前に設けられた
木製のガーデニングチェアー。
バイトの疲れを癒すように
腰を下ろしたMに
僕は、小さな喜びを感じました。

夏の月は蒼く、この公園を
優しく照らしています。
彼女が退屈しないように
僕は話を繋ぐのです。
彼女がそのベンチから
立ってしまわないように…。
Mは、その顔に屈託のない
笑顔を浮かべて
聞いてくれています。

今度は、Mの番です。
彼女は、ある思い出話を
してくれました。
付き合っていた年上の彼…。
「あの人」とも口にしていた
終わってしまった恋の話。
彼女は少しだけ
その視線を下ろし…
そしてまた、いつもの笑顔で
僕の髪を揶揄いました。
「そんな髪の人とは絶対無理」
それから続けて
「その格好何とかならないの?」
と言いながら笑っています。
僕もつられて笑うのです。
束の間の幸せを
感じた瞬間でした。
それは、 はじめて見る
Mの素顔であったから…。

帰り際の彼女は、
愛嬌を滲ませたその笑顔に
たっぷりと皮肉を込めて
「今度は、髪を洗って来てね」
と言いました。僕は身振りで
「揉み洗いするよ」 と答え
その手でバイバイの
形を作りました。
Mは、今一度振り返り
笑顔を向けた後
立派な家の門を閉じました。

さっきより傾いた月は、
その色彩を銀色に変えて
西の彼方に浮かんでいました。
Mの素顔…悲しげな眼差し…。
見上げたそれに彼女を重ねて
「あの人…」と呟きました。
これより先にそれは、
僕を苦しめることになります。
それを知るにはもう少し
時を待たなくてはなりません。
月のひかりは、まだ
僕の帰り道を優しく
照らしているのでした…続く。

月のひかりに感謝して
また、明日。

🌙summer
25話「ピヨピヨピヨ」

聞こえてますか?
三宿の駐車場に
停めて置いたドイツ車とは
名ばかりの中古車。
出勤時間を大幅に
過ぎているようです。
それでも、
心は晴れやかでした。
Mが自身の話をしてくれたこと。
「そして、あの人」…。
何より今日は、
下馬散歩に道草の
おまけ付きであります。
何の不満があるのでしょう…。

草臥れた中古車は、
以前より増して
空調設備の具合が悪く
代わりに手回しで
その窓を開けました。
BAR「ピヨピヨピヨ」の
遅刻は、10分罰金千円…。
歌舞伎町に着く頃には
二時間の遅れが予想されます。

名前からして怪しいBAR…。
時給が高いからと勤め始めた
その店には、
役者を目指す者…お笑いの
世界に席を置く者。
様々な若者が働き、又は
客として足を運ぶ
隠れ家的なお店でありました。
カクテルの「カ」の字も
知らないアフリカーナ。
面接もハッタリで受かった
ようなものでノリ(勘ひとつ)で
何とか乗り切っていました。

歌舞伎町の片隅で
ひっそりと灯りをともす
穴場的な店。そんな路地裏の
アンダーグラウンドであったから
三つ編みアフリカーナでも
扶持を得ることが
出来たのかも知れません。
メンバーであるダンサー
ドレッド筋肉マンと
2ブロックちょんま頭の彼とも
そこで知り合い仲間の契りを
交わしたのでありました。

Mは、そんな生活を送る僕を
まだ受け入れては
いない様でした。
下馬散歩の中でも
時折 水商売の話題になると
彼女は決まってその表情に
暗い影を落とすのでした…。

ピヨピヨピヨに感謝して
また、明日。