男女7人高円寺(全10ノ最終話)

聞こえてますか?
昨日の続き…。
就職組の彼が、
同級生が集まる中で
仕事を辞めると言った
ことから始まります。

いつもひょげ倒す彼が
この時ばかりは、
深妙な面持ちで
絞り出すような声で
言いました。
空回りの男
「おら〜しごつば やむっ
どがん したっちゃー
大学出にかたん」
翻訳
(俺は仕事を辞めるよ。
このままでは、大学出身者に
どうしても勝てないよ)
空回りの男
「だけん おら〜新聞配達
してでん大学受験すっ」
翻訳
(だから俺は、新聞配達
してでも大学受験するよ)
それは、六畳一間の
高円寺のアパートで発した
彼の決意表明でした。
一瞬 静止画にノイズが
走る感覚に囚われます。
彼の決意は、到底
報われることのない
無謀なものでした。

スポンサーもなく
新聞配達の稼ぎだけで
どれだけやれるのか。
生活 試験 その後の学費
親への仕送りは…。
同級生たちは、
各々反対の声を上げます。
東京での一万円は、
熊本のそれとは
決して比例しない。
同じ通貨でも
なくなるスピードが
地方によって違うことを
僕らは、肌で感じて
いたからです。
その上 肝心要の受験勉強の
時間はどうするのか。
課題は山積み…。
再就職でさえ大変な時代に
無理もありません。
彼を思っての反対でした。
だけれど、
僕は賛成に回りました。
なぜなら、
彼が抱く東京への
コンプレックスがそこに
あるような気がしたからです。
何より、そんな生き方が
好きでした。

彼のガマダシ(頑張り)は、
他に類を見ないものでした。
怒濤のような
不安と困難の中で
いつ勉強をしているの
だろうと思うくらい
彼は働きました。
いつ寝ているのか
分からなくなるくらい
学業に励んだ彼の姿を
僕らは見ていました。

それから二年。
朝夕の新聞配達 受験勉強を
やり抜いた彼は、見事
大学に受かって見せました。
僕は、感動しました。
心から凄いと思いました。

2016年 熊本で行われた
同窓会LIVEの段取りも
彼の計らいから
はじまりました。
「空回りの男」は絶好調!
みんなを喜ばせようと
ひょげ倒します。
失笑です。愚かです。迷惑です。
相変わらず
彼のハートは強く
そして、
尊いものでした…完。

PS
花の男へ
お袋に蘭の花をありがとう。
優しい大学生へ
あの日 駆けつけてくれて
ありがとう。
りぃー子へ
7.21のLIVEに来てくれて
ありがとう。
空回りの男へ あの日
泣いてくれてありがとう。
優しい声の人と厄介な彼女は、
幸せな家庭を築いて
いると聞いています。
いつか、会える日を願い
男女7人の高円寺に感謝して
また、明日。

 

男女7人高円寺(全10ノ9話)

聞こえてますか?
昨日の続き…。
僕たち高円寺の集まりも
終わりを迎えるのでした。

忘れるところでした!
男女7人の最後のひとり。
あなたもよく知る彼のこと。
空回りするあの男のお話です。

彼は、僕たちを喜ばせようと
いつもひょげて見せます。
ただ「笑かせよう」感が
強すぎて残念なことに
空回りをしてしまいます。
そこで終われば良いのに
彼はそれを繰り返すと云う
稀有なハートの持ち主でした。

どうだー!な顔で
二度 被せてきます。
女子三人組の失笑を
食らってもめげません。
三度目には、優しい大学生の
舌打ちが聞こえます。
四度目になると、
温厚な花の男も見限り
無視を決め込みます。
流石に五度目は…。
悲惨です。愚かです。迷惑です。
目も当てられません。
でも僕は、そんな彼の
「ひょげざま」が好きでした。
なぜなら
決して面白くはないけれど!
馬鹿を演じた彼の
生真面目さを誰よりも
知っているからです。

こんなエピソードがあります。
それは、僕ら同級生が
上京して二年が過ぎた頃。
就職組の彼が、7人集まる中で
突然
「おら〜しごっば やむっ」
翻訳
(俺は、仕事を辞めるよ)
と言ったことから
始まります…続く。

空回りの男に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺(全10ノ6話)

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼女は思わず吹だします。
僕たちの共通の話題。
行きつけのカラオケ店
高円寺に南口にあった
song for USAを
思い出したからでした。

毎週土曜日の夜は、
北口の純情商店街の先にある
僕のアパートに一度集まり
それから南口に繰り出すのが
いつものパターンでした。
現在のカラオケBOXとは
異なり 店の看板となる
ステージで歌うそれは、
ライブハウスのようで
一種の緊張感を
演出していました。
何よりスタッフ一体となって
盛り上げるスタイルの
song for USAは、
馴染みの常連客で
賑わいを見せていました。

女性上位の男女7人。
主導権はいつだって
彼女たちでした。
楽しい事とスイーツに
目がない女性の
本能というべきか…。
男狩りにでも行くかの如く
女子三人組が先頭を切って
純情商店街を闊歩する様子は、
其れは其れは勇ましく
威風堂々たるものでした。
僕ら男たちは、
彼女たちの背中を
眺めながら
母親に連れられた
子供のように
後に続いて歩くのでした。

あれから二十数年。
気を遣いながらも
笑顔を絶やさない
りぃー子は、
あの頃と変わらず
今も健在でした…続く。

りぃー子に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺(全10ノ3話)

聞こえてますか?
昨日の続き…。
手伝ってくれた
優しい声の人の
貴重な時間を忘れません。

週末は、高円寺の僕の砦に
同級生 男女7人が集まります。
その中にひとり
とても厄介な女性がいました。
大学の進学で上京した彼女。
僕たちはよく
言い争いをしました。
何事も否定的な彼女の物言いに
食ってかかるのですが、
遥かに劣る僕のボキャボラリー
負けは明らかでした。
いつも取り成すのは、
花の男と優しい声の人。
それから僕ら7人は、
気分を変えて高円寺の南口にある
カラオケ店へと向かうのでした。

先程の喧嘩は何だったのか…。
当時流行っていた
Winkの淋しい熱帯魚を
彼女が振り付きで歌っています。
その一種独特な甲高い声で
ケタケタと笑いながら。
僕は彼女のその切り替えの早さに舌を巻いてしまいます。
自由奔放で真っ直ぐな人でした。
だけれど、気が強そうに見えて
本当は脆いことを彼女の何処かに感じてもいました。
時折りそんな瞳をするからです。
それは、彼女が生まれ持った
淋しさのようなものに
思えてなりませんでした…続く。

喧嘩友達に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺(全10ノ2話)

聞こえてますか?
昨日の続き…。
あれから二十数年。
帰郷した花の男は、
熊本の戸馳島でとても綺麗な
蘭の花を育てています。

その頃の僕は、作詞家であり
劇作家でもある方の門下生
付き人を生業とし
車の運転 鞄持ち 物書きの勉強を
して過ごしていました。
そんな僕の書く詞や物語を
男女7人の中で熱心に
読んでくれる女性がいました。
物腰はいつも柔らかく 控えめで
優しい声を持つ人でした。
それでいて、読み終えたあとの
彼女の助言は辛辣で容赦無い
批評が展開されます。
僕はこうべを垂れて
よく書き直しをしたものです。
その優しい声に秘めた強い意思
みたいなものを感じていました。

徹夜の時も付き合い
ワープロで文字を起こし
てもくれました。
鉛筆からインクへと様変わりする
整頓された文字の色とカタチ。
拙い僕の文章が
綺麗に化粧されていくようで
とても嬉しかったのを
覚えています。手伝ってくれた
彼女の貴重な時間を
僕は忘れません…。

優しい声に感謝して
また、明日。

男女7人高円寺(全10ノ1話)

聞こえてますか?
東京は中野区
中央・総武線の各車両
二系統が停車する駅。
その高円寺にある
六畳一間のアパートが
僕の最初の砦でした。
週末になれば其処へ
上京した中学の同級生
男女7人が集まります。
大学進学 就職の者
専門学校で
花を学びに来た者も。

その花の彼は、普段とても
無口だけれど
いざって云う時は頼りになる男で個性がバラバラな僕たちの
まとめ役でもありました。
爪の間には花の命である土が
いつも入り込んでいました。
何度洗っているにも
かかわらず取りきれない土。
僕は、その爪を見る度に
誇らしく思ったものです。
朴訥として淡々とした振る舞い。
それでいて強い信念と
独特のリズムを持った男。

あれから二十数年。
帰郷した花の男は、
今も熊本の戸馳島でとても綺麗な蘭の花を育てています…続く。

花の男に感謝して
また、明日。