汚れなき愛を信じて 総集編 playback…14

汚れなき愛を信じて 総集編
playback…14

☘️三章/38話「船堀橋大渋滞」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
だけれど、
その日のパーティーは、
最後まで楽しい酒の席では、
ありませんでした。

江東区と江戸川区を結ぶ船堀橋。
朝のラッシュ時のその橋は、
千葉方面から流れてくる車で
ごった返しています。
都心に向かう運送業のトラック。
通勤に使われるマイカー。
信号待ちで苛立つダンプカーと
様々な車種が列をなしていました。
朝の車両事情は、
いつだって殺気だっています。
それこそ、逃げ道のない
橋の上での渋滞は最悪であります。
新大橋道路と呼ばれるその道は、
千葉県と東京都を結ぶ大動脈の
ひとつでもありました。

そんな船堀橋の上で
ガス欠を起こした愚かな
一台の車がありました。
ドイツ車とは名ばかりの
草臥れたポンコツワーゲン…。
先を急ぐドライバーたちの
足を止めた犯人は、
紛れもなく僕でした…続く。

船堀橋に感謝して
また、明日。

☘️三章/39話「船堀橋大渋滞」中編

聞こえてますか?
その頃の僕はと云うと
完全に自分を見失い
彼女との接し方にも変化が
起こりはじめていました。
足が地面に着いていない
感覚に囚われ
歩く時の腕の振り具合さえ
とても不自然で
ぎこちないものでした。
まるで、重たい鎧を
身に付けているかのように…。

即ち僕は『虚勢』という手段で
哀しい予感の対応にあたって
しまっていたのです。
のっけから、
ありもしない抱擁力を
宛かも備えているかの如く
その爪先を思いっきり立てて
彼女と接していました。
そんな、背伸びをした関係など
いつか滅んでしまうものを…。
でもそれは、
『彼女から頼られたい』
総ては、その一点から
来るものでした。
そんな僕の様子を見て
彼女は困っているようでした。

その日の船堀橋は、
晴天に恵まれ
爽やかな一日のはじまりを
演出してくれる筈でした。
日の当たる時間帯での
仕事を経験したいとして
彼女は、江東区の西大島にある
オフィスビルで
働くことを決めました。
花のOLデビューであります。
今日は、彼女の初出勤。
朝のラッシュ時の船堀橋を
知っているだけに
彼女は、電車で行くと言いました。
それを制し「車で送る」と
言い張ったのは僕の方でした。
誰も求めてはいない
野球場で見られる
電光掲示板を持ち込んでは
勝手に決めたルールに乗っ取って
点数稼ぎにしゃかりきであります。
何と愚かなのでしょう…。

草臥れた中古車が、ガス欠で
今 力尽きようとしているのに…。
その橋の上で
止まるなどとつゆとも知れず…。
僕の頭の中は、彼女のことで
いっぱいだったようです。
海風が吹き抜ける筈の船堀橋。
その日の風は、なぜか
穏やかなものでした…続く。

☘️三章/40話「船堀橋大渋滞」後編

聞こえてますか?
「嘘でしょ!」
彼女が言いました。
当然です。
逆の立場なら僕も
そう言ったに違いありません。
草臥れた中古車が
力尽きた瞬間でした。

映画やテレビドラマで目にする
ガス欠で車が止まる映像…。
情けない程に
ゆっくりと停止して行きました。
キョトンであります。
切れ長の眼光鋭い筈の
彼女の瞳もまん丸く
その顔に驚きの色を隠せません。
ブラウン菅の世界では、
他人事として
捉える事が出来る現象も
いざ、自身の事になると
笑えないものです。
流石の彼女も呆れ果てています。
台無しです。
空回りもいいとこです。
「言わんこっちゃない」と
言いたげにニュートラルにした
車を彼女は押しました。

徐行で追い越して行く
車は様々で
クラックションを鳴らす者。
眉間に皺を寄せる者。
嘲笑うかのように見下す者。
もう、目も当てられません…。
これが、 ガソリン満タン!と
言えない男への
報いなのでありましょうか…。

もうすぐ行けば下り坂。
何とか惰性で力尽きた中古車を
車線のいくらか多い交差点まで
運ぶ事が出来ます。
そうすれば車を路肩に止め
この傍迷惑な船堀橋の渋滞を緩和
させる事が出来るかも知れません。

下り坂に近づいた車に
彼女は飛び乗りました。
もはや鉄の塊と化した
力尽きた中古車が緩やかに
下りてゆきます…。
だけれど、
交差点のかなり手前の地点で
止まってしまいました。
彼女は、再び車を下りて
鉄の塊を押さなくてはなりません。
滑稽でした。
苦悶の表情を浮かべる彼女を
ルームミラーで見つけました。
何と情けない男なのでしょう…。
それは、罪と呼ぶべき所業でした。

結局
路肩に退避した車を見届けて
彼女は、都営新宿線の地下鉄に乗り
勤務先に向かうのでした。
時計の針は、
もう既に遅刻を示していました。
初出勤が台無しです。
目的地である西大島まで
僅か3.5キロメートルの
距離でありました…続く。

草臥れた中古車に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…13

☘️三章/35話「男女7人三人娘」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
遠い昔…。
小学四年生の僕は、
ソフトボールのある試合で
大抜擢されそうになりました。
監督が見ているのが分かります。
球技が好きで試合に出たくて
入った部活動の筈なのに…。
あろう事か僕は、
その監督の目を逸らし
俯いてしまいました。
あの時監督は、
体育座りをするその膝の間に
こうべを垂らした子供を
どんな思いで見ていたのでしょう…。
逃げ出すと云う僕の一手は、
まるで暗示にかかったように
僕の心を停止させるのでした。

それからの僕は、まるで坂道を
転げ落ちるようなものでした。
自ら作りあげた『殻』は、
彼女を悩ませる事になります。
こんなことがありました…。

*ブログ『男女7人高円寺』でも
触れた登場人物。
ひょんなことから
その男女7人の三人娘が、
「船堀の彼女に会いたい」と
言い出しました。
僕の書き物を手伝ってくれた
優しい声のひと。
ムードメーカーのりぃー子
そして、いつもぶつかって
ばかりだった厄介な彼女。
冷やかしもあったのでしょう。
半ば、同郷の連帯感からなのか。
はたまた、
心配もあってからなのか…。
嫌!彼女たちに至っては、
好奇心であったに違いありません。
こう云うことへの探究心は、
半端のないものでしたから…。

後日、彼女にその話をすると
思いのほか乗り気で
船堀のプリンス・マンションで
ホームパーティーを開く
ことになりました。
意外でした。
何度かバンドメンバーとは、
飲んだことはあっても
女友達は初めてのことでした。

その頃の僕は、
船堀のマンションに入り浸りで
殆ど、百草高台の屋根裏には
帰ってはいませんでした。
箱バンと呼ばれたbandmanたち。
その演奏場所が、
錦糸町や亀戸にあったから…。
いいえ違います。
本当の理由は他にありました。
僕は、彼女に依存していたのです。
自覚は確かにありました。
そんな自分が嫌でしたから…。

思い返してみれば、
あの日を境にして
二人のすれ違いを
決定的なものに
したのかも知れません。
ホームパーティーは、
明日に迫っていました…続く。

遠き日に感謝して
また、明日。

☘️三章/36話「ホームパーティー」

聞こえてますか?
船堀でのホームパーティーは、
最初から不穏な空気を
漂わせていました。
僕らは、その準備(焼肉)に追われ
ちょっとした食い違いから
言い争いをしていた事にも
原因があるのかも知れません。

気心知れた同郷の三人娘。
もっと自然に
振る舞うことが出来る筈なのに
どうも上手くいきません。
三人娘と彼女との間を繋ごうと
必死であります。
だけれど、
今ひとつ嚙み合いません。

当時のことを思い返すたびに
思うのです。
嚙み合ってなかったのは、
むしろ僕の方で
何とかしようと必死になり
それがやがて思わぬ方向に陥り
蟻地獄のような砂の中に
自ら嵌ってゆく…。
自分で自分の首を締めていく…。
男女7人高円寺に登場する
空回りの男のようです。
人のことは言えません。
まさに僕は、
それでありました。

そんなドツボに嵌っていく
僕にいち早く気付いたのは
やはり、優しい声のひとでした。
その場を盛り上げようと
合いの手を入れてくれます。
そんなことなど御構い無しと
ダメだしの女王 厄介な彼女が
僕をからかいます。
いつもなら間髪入れずに
言い返す筈の言葉は、
この時ばかりは口から
ついて出てはくれません。
僕は、苦笑いをしながら
俯くほか術がなかったのでした。
何たる失態、何たる体たらく。
最悪です。
男女7人の三人娘
りぃ~子が言いました。
「今日は、元気のなかね〜」
【翻訳】
*今日は、元気がないね〜

元気がないのは、
今に始まったことでは
ありませんでした。
最近ずっと
会えば喧嘩になる僕らは、
互いに疲れていました。
このパーティーも
そんな、喧嘩続きの二人には
いい機会だと思っての
ことでもありました。
それがこのありさまです。

カリッと心の音が聴こえます…。
勝手に作りあげた
『殻』が、その入り口を
開けました…続く。

今があることに感謝して
また、明日。

☘️三章/37話「逃亡」

聞こえてますか?
あり得ない事態です。
僕は何を考えているのでしょう…。
焼肉の食材はたっぷりと
用意されているにも関わらず
僕は、買い出しに行くと
言い出しました。
彼女はそんな僕を制します。
だけど、僕は聞き入れません。
結局 高円寺三人娘を船堀の
プリンス・マンションに
残したまま
僕らは車で買い出しに
行くのでした。

何を買いに行くも
目的がないのです。
高円寺三人娘が
悪い理由(わけ)ではないのです。
彼女のせいでも勿論ないのです。
時より発作のように現れる
感情の起伏は僕の声を奪います。
勝手病なるそれは
またもや
僕の心を停止させました。
招待した側の逃亡。
助手席の彼女は、
もう付き合いきれない
といった面持ちで
船堀橋から見える
川の向こうを無言で眺めています。
橋の上の吹き抜ける風は冷く
冬の到来を教えてくれました。

いくらか気持ちを整えた
僕はマンションに戻ります。
だけれど、
その日のパーティーは、
最後まで楽しい酒の席では
ありませんでした…続く。

三人娘に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…12

☘️三章/33話「トラウマ」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そんな勝手病なる
得体の知れないそれは、
様々なカタチで僕を救い
苦しめもするのでした。

彼女にもあるように
その得体の知れない闇は、
確かに僕にも存在していました。
それは、忘れていた
トラウマと云うものを
呼び覚ますものでした。

以前日記したあなたとの会話。
五歳のあんたが…と
思ったでしょうね。
僕は、子供の特権である
甘えると云う行為と引き換えに
無言と云う武器を手に入れました。
「畦道とハイヒール・変わった子供」
episode5より

確かに思い返してみたら
僕には、周期のようなものが
あるようで
人と触れ合うことの多い何年かと
全く連絡を途絶える何年とかが
あるのは事実でした。

だけどそれは、
俯瞰で見た年単位のことであり
秒単位で起こる突破的な
勝手病なるそれは、
僕にしたらとても厄介なことで
心が支配するはずの体の機能が
完全に崩壊してしまうのです。

頭で指令を下しても
心は言う事を
聞いてはくれません。
それは、さまざま生活に
転移するかのように
僕の動きの邪魔をします。
その得体の知れない
モヤモヤした闇が、
僕は大っ嫌いです。
面倒なのは嫌なのです。

だけれど、
そんな面倒を求めたのは
紛れもなく僕自身でした。
そしてまた、
自分のことすら守れない男が
彼女の謎であるその扉を
開けたたがっていたのも
事実でした。
弱い心しか持ち合わせて
いない癖に…。
僕は、その扉の鍵とを
引き換えにして
差し出された台帳に
執着と云う烙印を
押してしまったのです…。

彼女の瞳は、僕の腕を縛り
彼女の声は、僕に足枷を嵌めました。
そしてその足枷は、
僕の『自由』を奪いました。
それと同時に『自分』をも
見失しなってしまうのでした…続く。

まだ生きていることに感謝して
また、明日。

☘️三章/34話「停止する心」

聞こえてますか?
もしかしたら
それも含めて自分なのかも
知れません。
だけど、角度を変えてみると
その境遇に立たされなければ
そんな自分を発見せずに
済んだのかも知れないのです。

傷つけたくないのか…。
それとも
自分が傷つきたくないのか…。
だけれど、
相手に嫌な気持ちを与えたくない。
それをするくらいなら
会わなければいい
そう思っていたのも確かでした。

いつからか僕は、
目を見て話すことが苦手になり
対面式での食事や会話が
とても窮屈で困難なものに
なってしまいました。
そんな僕は、自ら作り上げた
『殻』に閉篭ります。

遠い昔…。
小学四年生の僕は、
ソフトボールのある試合で
大抜擢されそうになりました。
監督が見ているのが分かります。
球技が好きで試合に出たくて
入った部活動の筈なのに…。
あろう事か僕は、
その監督の目を逸らし
俯いてしまいました。
あの時監督は、
体育座りをするその膝の間に
こうべを垂らした子供を
どんな思いで見ていたのでしょう…。
逃げ出すと云う僕の一手は、
まるで暗示にかかったように
僕の心を
停止させるのでした……続く。

あの時の監督に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…11

☘️三章/31話
「You’re My Only Shinin’Star」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼女が選んだ楽曲は、
中山美穂が歌う
♪You’re My Only Shinin’Star
でした。

彼女は、その歌詞の意味を
ちゃんと噛み締めて
歌っているのでしょうか…。
茶目っ気たっぷりで歌う仕草は、
やはり生まれながらの女優と
いう他ありません。

歌いだしは、探りながら…。
声が出ているのか
出ていないのか
メロディーの高いところは
その持ち味たる表情ひとつで
乗りこえております。
許していいものか…。

だけれど、既に呼び出され
来ている時点で
勝敗は明らかです。
その楽曲が繰り出す旋律のように
僕は、彼女に完全に
呑み込まれているのでした。

前に出ようとは
しないタイプの彼女。
どこか自信なさげで
儚くもあるそれは、
♪雨音はショパンの調べ
でも有名な女優
小林麻美のそれと似ていました。
僕と二コしか違わない
年上の彼女は、溶錬な色気を
その表情に滲ませています。
彼女の歌声と表情は、
あの高速道路での夜を
忘れさせるに充分なものでした。
僕は、そんな彼女を見つめる他に
術がなかったのです…続く。

月が波間に 浮かぶと
あたたかい夜が 忍んでくる
沈む夕闇に瞳 わざと
そらしたまま打ち明けた
星と同じ数の 巡り会いの中で
気がつけば あなたがいたの

You’re My Only Shinin’Star
ずっと今まで困らせてごめんね
大切なもの それはあなたよ
いつまでも側にいてI love you
歌詞 1coachより〜
You’re My Only Shinin’Star

その詩に感謝して
また、明日。

☘️三章/32話「アン・バランス」

聞こえてますか?
男と女の関係に限って云えば、
天秤の道具などでは
到底測りきれはしない。
数値など無意味だ。
男と女においては、
均等などあり得ない。
一方の重さと
もう片方の重みは、
けっして比例したりはしない。
電話をする方とそれを待つ方。
先を歩く者と後に続く者。
物事を決定を下す側と従う側。

主導権を握る者の特権は、
駆け引きを愉しむこと….。
もやはそれは、カジノで
差し出される負けの無い
プラスチック製チップの
やり取りのようだ。

その手に
首根っこを掴まれた側は、
この身と心を担保に
負けと知りながら賭け続ける。
息を止めてしまうまで…。

そんな『アン・バランス』な
物事に立たされた時の僕は、
縋るような気持ちで
あの頃に逃げ込むしか
なかったのです…。

誰とも話したがらなかった
幼少時代のあの日…。
以前この日記でも述べた
決して裏切ることのない
唯一無二の存在
シェパード犬の大五郎。
言葉のない世界で
分かり合えたひと以外の友。
そんな勝手病なる
得体の知れないそれは、
様々なカタチで僕を救い
苦しめもするのでした…続く。

小さな救いに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…10

☘️三章/28話「足枷と烙印」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
穏やかな物事に
どこか、不安を覚えるように…
時には、深い疑念を持つかのように…
または、乾いた喉を潤すかのように…
そして、それを恐れるかのように…。
彼女自信ですら分からない
その謎に怯えながらも
とてつもない嫌悪を
抱いているようでありました。
その心の葛藤の中で
そうしたそれは、
カタチを変えて
顔を出すのかも知れません。

彼女の目に浮かぶ
悲しみのようなものは、
その入り口に違いないのでした。

きっと僕には、手が負えない…
そう感じながらも
その目に浮かぶ闇から
逃れることが出来ませんでした。
彼女の瞳は、僕の腕を縛り
その声は、僕に足枷を嵌めました。

きっと僕は、彼女を傷つける…。
そう羽交い締めにされながらも
どうしようもなく
彼女に惹かれている自分自身を
認めざるを得なかったのです。
彼女の瞳に浮かぶ悲しみの
謎が知りたくて…。

僕は、諦めにも似た気持ちで
その入り口の鍵を手にしました。
そして、嘲笑うかのように
差し出された台帳に
執着という烙印を
押すのでした…続く。

その鍵に感謝して
また、明日。

☘️三章/29話「彼女の嫌いなところ」

聞こえてますか?
嵌められた足枷は、
僕の『自由』を奪いました。
それと同時に『自分』をも
見失ってしまうのでした…。

彼女の嫌いなところなど
100個だってすぐに並べられます。
だけれど、好きなところ一個に
その100は負けてしまうのです。
こんな思いをするくらいなら
もう絶対好きになったりはしないと
絞りだした頭の中だけの
シュミレーションは、
彼女の気まぐれな電話ひとつで
カタカタと音を立てて
崩れ去ってしまうのでした。

屋根裏部屋のある百草高台に
帰っていた僕は、
当時 固定式だった
留守番機能付き電話の点滅する
赤いランプを暫く
見つめているのでした…続く。

待っていたのもに感謝して
また、明日。

☘️三章/30話「嵐のあと」

聞こえてますか?
呼び出されたのは、
彼女が仕事のアフターとして
よく使う場所でした。
錦糸町の歓楽街から少し離れた
西大島のとある路地裏…。
カウンター1本で
勝負しているそこは、
馴染みのお客で賑わいを見せる
隠れ家的なBARでした。

何事もなかったかのように
彼女は、僕に歌を勧めます。
そのカウンターの奥には、
カラオケが仕込まれており
常連客が歌い盛り上げるのも
このお店の売りでありました。
彼女はあたり前のように
慣れた手つきで第一興商印の
DAMと書かれた
機械を操作します。
そうは行きません。
こちらは、
あの夜の『おとしまえ』が
まだついていないのです!
その気配に
素早く気付いた彼女は、
普段あまり
歌いたがらないのに
しおらしく
自らの歌を選択するのでした。

彼女が選んだ楽曲は、
中山美穂が歌う
♪You’re My Only Shinin’Star
でした…続く。

その歌に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…9

☘️三章/25話「慟哭 」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
中央道を抜けた辺りから
僕らの激しい口喧嘩が、
始まりました。
永福町の頭上を走る首都高速。
草臥れた中古車は、
時速80キロのスピードで
駆け抜けていました…続く。

午前2時30分。
真夜中の首都高速。
東京には珍しい
透明な夜空が澄み渡り
摩天楼を凌駕するかの如く
零れ落ちそうな銀色の星屑が
新宿の高層ビルを
包み込もうとしていました。
彼女は、自分のしていることが
分かっているのでしょうか。
これから起こる出来事を
想像すらしないのでしょうか。
彼女は、躊躇いもせずに
走行する車のドアを開けました…。

刹那!
蛇行する車体。
屈折する視界。
不規則な回転音。
フロントガラスの景色が一変する。
不自然な動きは
テールランプの腰振り。
けたゝましく鳴るクラックション。
減速!
激しい摩擦音と歯車のタイヤ痕。
時に重力を失う車内。
瞬間!
前のめりに僕らは打っ伏す。
閃光!
後方車のパッシングに
見失う冷静と座標軸。
激突!
迫る来る中央分離帯…続く。

銀色の星屑に感謝して
また、明日。

☘️26話「慟哭」後編

聞こえてますか?
回避!
動物特有の条件反射は、
バンドルを無意識のうちに
左へと誘う。
圧力!
負荷がかかるその自然の摂理が、
彼女を車外へと押し出す。
咄嗟!
扇がパラパラと開くように
放たれたドア。
助手席から伸びた彼女の腕だけが
疾走するコンリートの上で
その身を支えている。
本能!
切り返したバンドルは、
振り子のように彼女を引き戻す。
止まるに止まれない高速道路。
僕は、もう一方の手で
彼女を掴み
そのドアを閉めるように叫ぶ。
彼女は、
その細い腕をVの字に曲げて
力強く握り締めたその右手で
ドアノブを引き寄せる。
後方にいた筈の物体は、
間一髪で分離帯と
ドアの狭間をすり抜けた!

一瞬のようであり
スローモーションのように
もっとゆっくりであったの
かも知れません。
ただ分かっていることは、
僕らが、生きていると云うことと
彼女が、泣いていたと云うこと。
そしてそれは、
僕が最初に見た
彼女の慟哭であったのです…続く。

生きていることに感謝して
また、明日。

☘️27話「悲しみの入り口」

聞こえてますか?
彼女は、故意に
凪いだ海を時化た海に変えたがる
ところがありました。
ゆるやかな波に
自ら波をたてて
嵐を呼んでしまうのです。
それは、決まって
彼女が深くお酒を飲んだ時に
現れるのでした。

穏やかな物事に
どこか、不安を覚えるように…
時には、深い疑念を持つかのように…
または、乾いた喉を潤すかのように…
そして、それを恐れるかのように…。
彼女自信ですら分からない
その謎に怯えながらも
とてつもない嫌悪を
抱いているようでありました。
その心の葛藤の中で
そうしたそれは、
カタチを変えて
顔を出すのかも知れません。

彼女の目に浮かぶ
悲しみのようなものは、
その入り口に
違いないのでした…続く。

生かされていることに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…8

☘️三章/22話「嵐の前」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
哀しい予感は、いつも隣合わせ。
もしかしたら、
彼女も僕と同じくらいの
質と量を含んだ不安を
感じてたのかも知れません。
そんな僕らの最初の夏は、
ほんの些細な喧嘩から
はじまってしまうのでした。

午前2時30分。
真夜中の首都高速。
東京には珍しい
透明な夜空が澄み渡り
摩天楼を凌駕するかの如く
零れ落ちそうな銀色の星屑が
新宿の高層ビルを
呑み込もうとしていました。

彼女は、自分のしていることが
分かっているのでしょうか…。
これから起こる出来事を
想像すらしないのでしょうか。
彼女は、躊躇いもせずに
走行する車のドアを開けました…。

午前〇時。
船堀から百草高台に
遊びに来ていた彼女は、
珍しく酔っていました。
先に潰れてしまう僕を気遣い
見守り役に鐡する筈の
彼女の姿は
この日ありませんでした。
以前にも見た
悲しみのようなもを
その目一杯にためて
僕を見ています。
でもそれは、いつもとは違う
種類のものでした。

その瞳に浮かぶものは、
色と濃度を増し
何をするかわからない
危うさを秘めていたのでした…続く。

あの夜空に感謝して
また、明日。

☘️三章/23話「嵐の前」中編

聞こえてますか?
午前1時30分。
百草高台の駐車場から
いつもの坂道を下り
聖蹟桜ヶ丘の大通りから
南西にのびる幹線道路
野猿街道を進みます。
僕らは、無言のまま
ただひたすら
中央道の府中入り口を
目指していました。

何に怒っているのか
僕にはさっぱりわかりません。
でもやっぱり、何かの
地雷みたいなものを踏んだのは
間違いないようです。
黙ってはいるものの
彼女は、その怒りをためて
爆発の時を待っている
かのようでした。

思いあたるとすれば、
百草高台の屋根裏部屋…。
いつもとは違う
酒の酔い方であった彼女との会話。
良かれと思って言ったひとこと。
その時に僕は、
彼女が本来隠し持つ
戦闘というスイッチを
押させたのかも知れません…。

そんな時の彼女は、
とても意地悪になってしまいます。
敢えて僕が聞きたくもない
話をしだすのです。
馬鹿でした…。
その手に乗ってしまったのです。
僕も焼けになって
昔の話を持ち出すのでした。

過去のことなど
関係のないことなのに…。
言わせたのは彼女の方でした…。
「帰る」それ以上彼女は、
何も言いませんでした…続く。

あの頃に感謝して
また、明日。

☘️三章/24話「嵐の前」後編

聞こえてますか?
午前2時00時。
それは、いつもと変わらない
彼女を送る
船堀までのコースでした。
違うのは彼女でした。
荒井由実の♪中央フリーウェイ
でも知られる府中競馬場。
その側を通っても
彼女は俯いたまま無言を
貫いています。

草臥れた中古車は、
無理をしたエンジンの音だけを
この車内に響かせています。
嫌な予感がしました。
哀しいことにそれは、
僕の予想を裏切ってはくれません。

中央道を抜けた辺りから
僕らの激しい口喧嘩が、
始まりました。
永福町の頭上を走る首都高速。
草臥れた中古車は、
時速80キロのスピードで
駆け抜けていました…続く。

想いでに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…7 二章/19話「男と女」前編

 

聞こえてますか?
昨日の続き…。
哀しい予感は、
いつだって現実となって
やって来る。
いつか彼女を失う…。
僕は、そう
感じはじめていました。

女という生き物は、
どうして昔の話を
したがるのでしょう。
その目で、伺い盗むように…。
まるで、愉しむかのように…。
男の様子を確認したがるのは
何故でしょう。
時には、
値踏みをするように…。
そして、
不安を鎮めるかのように…。

僕にしてみたら、前のことなど
関係のないことなのに。
それは、繰り返えされる踏み絵
のように続きます。
黙って聞いているのが一番です。
地雷は、何処に転がっているか
分かりません。
だから僕は、
決してその手には乗らないのです。
それよりも
これからのことが大事でした。

彼女の周りには、
世にいうジェントルマン
富と名声を持った男たちが
取り巻いていました。
様々なカタチで
落としにかかって来る
いわば敵であります。
心配でない訳がありません。
それを聞かされる僕は、
たまったものでは
なかったのです。
そのボディーブローのように
繰り返えされる
彼女の男たちの話は、
後に堪えるものでした…続く。

今日に感謝して
また、明日。

🌱二章/20話「男と女」中編

聞こえてますか?
何より彼女の理想の男性は、
ガッチリとした男らしい人…
大のプロレスファンで
あるのでした。
「三沢チョプ」などと言いながら
ふざけて来ます。❓であります。
「アハハ」と笑う他ありません。
知らないのです。プロレスを
観て来なかったのです。
彼女が言いました。
「三沢光晴が私のタイプ!」
ダウンです。
相手はタイガーマスクです。
伊達直人であります。
敵う相手ではありません。
僕とはあまりにも真逆。
よくもまあ いけしゃあしゃあと
そんな事が言えたものであります。

哀しい予感は、いつも隣合わせ。
余裕を持たない心は、
焦りを生んでしまいます。
それは彼女にと言うよりも
自分に問いかけた時に
来るものに似ていました。
「お前は何者?」
僕は、いつもその厚い壁の前で
それを突きつけられ膝を屈します。
だけどね!…。
その先が言えない自分に
苛立ちを覚えるのでした…続く。

その壁に感謝して
また、明日。

🌱二章/21話「男と女」後編

聞こえてますか?
男という生きものは、
どうして物事を
難しく考えたがるのでしょう。
段取りを愉しむように…。
集中力を試すかのように…。
女に頼られたいと望むのは
何故なのでしょう。
強くありたいと願うように…。
母親の愛を求めるかのように…。

彼女にしたら
大事なことはもっと別の場所
にあるようでした。
それは会話の端々に…
ふとした仕草の中に…
その眼差しに…
隠されているのかも知れません。

女は、必ずシグナルを送り
証拠としてそれを
何処か別の場所に残すようです。
男は、いつもそれを見逃し
後になって
まるで刑事のように
原因究明にあたるようです。

哀しい予感は、いつも隣合わせ。
もしかしたら、
彼女も僕と同じくらいの
質と量を含んだ不安を
感じていたのかも知れません。
そんな僕らの最初の夏は、
ほんの些細な喧嘩から
はじまってしまうのでした…続く。

あの頃に感謝して
また、明日。

 

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…6 二章/16話「哀しい予感」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
気分を良くした彼女が
それから向った先は、
その銭湯の向かいにある
『なかよし』と書かれた看板の
昔ながらのもんじゃ屋さん。
彼女は生粋の江戸っ子で
ありました。

風呂上がりには、
瓶ビールと摘み。
海鮮バーターと
ねぎバーターが
彼女のお好みでした。
そして、締めにもんじゃ。
これが僕らの定番でありました。

生まれて初めて
もんじゃを食べたのが
ここでした。
見た目のその
独特的な装いに反して
小さなステンレス製のへらを
使って食べるそれは、
とても美味しいものでした。
彼女は先ず円を描くように
その食材で土手を作り
仕上げにベビースターラーメン
(乾燥お菓子)を潰し
パラパラとふりかけました。
コレがまた、
この江戸っ子フードの味を
より良く際立たせ
芯を少しだけ残したそれは、
もんじゃを完璧なものにしました。

風呂上がりのほろ酔いは、
二人の距離をぐっと
近くするようです。
だけれど僕は、
何処かで不安を
感じてもいました。
考えてみれば、
僕は彼女に教えられて
ばかりでいたのです。
それはとても嬉しいこと
なのだけれど…。

赤いのれんをくぐって
店を出た僕らは、
家路をたどります。
彼女が夜風を愉しむように
歩き出しました。
僕は先を行く彼女を
追いかけているのでした…続く。

思い出の味に感謝して
また、明日。

🌱二章/17話「哀しい予感」中編

聞こえてますか?
彼女が、お金を支払う時に
小銭を探す仕草を見た
記憶がありません。
大抵が札でありました。
とはいえ、大雑把な性格
でもないのです。

月末ともなれば、
勤務先のCLUBから
支払われる対価
彼女はそれを『お給料』と
呼んでいました。
たわいもないことだけれど
『お』を使うだけでも
印象はだいぶん違うものです。
彼女は、そのお金という価値
即ち怖さを知っているかの
ようでした。

女手一つで育ててくれた
お母さんを見ていたから
なのかも知れません。
自分が投資に値すると
決めたものには、惜しみなく
その価値を投じました。
それは、
彼女の心に触れるもの
に限っていました。
だから、彼女がその価値を
大切にしていることが
僕には分かるのです。
その言葉の端々に出てくる
彼女の謙虚さが物語っていました。
そんな、彼女の姿勢の良さが
僕は好きでした。
でも…。

富を持つ者と持たない者。
夢しか持ち合わせていない
男は悩みます。
価値は、お金では測れないと
分かっていながらも
現実は厄介でありました。
時は、考える隙を
与えてはくれません。
時は、僕を待っては
くれませんでした…続く。

その価値に感謝して
また、明日。

🌱二章/18話「哀しい予感」後編

聞こえてますか?
錦糸町のCLUB歌手を
生業にしていた当時の
僕のギャランティーは、
手取りで15万円足らず…。
草臥れた中古車に
腹一杯油(ガソリン)を
呑ませる事の出来ない
所以でもありました。

いつの間にか
大きいものは彼女
小さいものを僕
といった勘定の図式が
出来上がりつつありました。
どうしても引け目を感じて
しまいます。
甲斐性はなくとも
肥後ノ国で生まれた
九州男児であります。
いくら歌で繋がっている
からとは云え
言ってもこう毎回では
男が廃るのです。

だけれど、
店を出る時に差し出される
勘定と自身の財布の中身を見て
沈黙せざるを得ない
己を知るのでした。

このままではいけない…。
僕は、漠然とした
不安を抱えていました。
哀しい予感は、
いつだって現実となって
やって来る。
いつか彼女を失う…。
僕は、そう
感じはじめていました…続く。

あの時代に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 総集編 playback…5 二章/13話「お天気お姉さん」

 

聞こえてますか?
昨日の続き…。
だけれど、彼女は一度だけ
その話に触れたことがあります。
咳を切ったように
話しだしたそれは、
今よりずっと先のことでした…。

アニメーションでないと
中々捉えることの出来ない
彼女の出で立ち。
当時名を馳せた
『お天気お姉さん』
に似ており
一般女性の頭ひとつ分抜けた
長身と眼光鋭い切れ長のその瞳は、
漫画に登場する主人公
そのものでした。

お天気お姉さんとは、
週刊ヤングマガジンに掲載された
安達哲による漫画作品で
美貌と教養を兼ね揃え
激しい性格をも合わせ持った
女性アナウンサー仲代桂子の姿を
描いたアニメーションでした。

でも、そんな外見とは裏腹に
実写化した彼女は、
あまり前に出ようとする
タイプの人ではありませんでした。
人との接し方一つにしても
控え目な印象を与えるもので
その発する言葉でさえ
女性特有の主張する
レンジの高いものではなく
耳触りに優しい独特な響きを持つ
声の持ち主でありました。

だけれど、
僕はこのあと目には見えない
彼女の強靭な個性と
嵐のような激しさを
身を持って
体感することになります。
それを知るのには、
もう少し時を待たなければ
なりません。
そんなことなど
知る由もない僕は、
まだ夢の中にいるのでした…続く。

その声に感謝して
また、明日。

🌱二章/14話「江戸っ子」

聞こえてますか?
彼女は、その外見に反し
古風なところがありまして
江戸っ子の気質か
はたまた環境によるものなのか…。
洋風に例えますと
アンティークなものが
お好みでありました。

例えば、
プリンス・マンションの下に
リアカーを引いてやってくる
赤提灯のおでん屋さん。
彼女の注文も
酒の飲み方も江戸でいう処の
『粋』でありました。
肥後弁で例えると
「武者んよか~」であります。
僕は雰囲気に呑まれて
飲めやしない日本酒などを
オーダーします。
その日の記憶はありません。
残念です。

成人男性のオトナへの
第一歩は『己の酒料を知る事』
とあります。
僕はまだまだのようです。
彼女は僕といる時に酔った
ことなどありませんでした。
きっと酔えなかったのかも
知れません…。
本当に、残念です。

二つほどでしか違わない
年上の彼女は、
僕の遥か上を行く
オトナでありました…続く。

江戸の名残りに感謝して
また、明日。

🌱二章/15話「銭湯」

聞こえてますか?
近くにある銭湯にも
よく足を運びました。
1992年当時では珍しく
露天風呂のある銭湯でして
髪の毛の長い
彼女のドライアー事情を
塩梅に入れて
風呂をいただきます。
だけれど、
その露天の居心地の良さに
ついつい長居になってしまいます。
番台の後ろにある勘定場で
よく彼女を待たせました。
♪神田川で知られる
かぐや姫の歌詞に出てくる
それと似ていました。

お詫びに僕は、彼女に
珈琲牛乳を手渡します。
銭湯を知らないで育った僕は、
それと珈琲牛乳がセットで
あることを知りませんでした。
二人して腰に手をやり
一気に飲み干します。
完成です。

気分を良くした彼女が
それから向った先は、
その銭湯の向かいにある
『なかよし』と書かれた看板の
昔ながらのもんじゃ屋さん。
彼女は生粋の江戸っ子
でありました…続く。

銭湯の思いでに感謝して
また、明日。