汚れなき愛を信じて 29話 「彼女の嫌いなところ」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
僕は諦めにも似た気持ちで
その入り口の鍵を手にしました。
そして、嘲笑うかのように
差し出された台帳に
執着という烙印を押すのでした。

嵌められた足枷は、
僕の「自由」を奪いました。
それと同時に「自分」をも
見失ってしまうのでした…。

彼女の嫌いなところなど
100個だってすぐに並べられます。
だけれど好きなところ一個に
その100は、負けてしまうのです。
こんな思いをするくらいなら
もう絶対
好きになったりはしないと
絞りだした頭の中だけの
シュミレーションは、
彼女の気まぐれな電話ひとつで
カタカタと音を立てて
崩れ去ってしまうのでした。

屋根裏部屋のある百草高台に
帰っていた僕は、
当時 固定式だった
留守番機能付き電話の
点滅する赤いランプを
暫く見つめているのでした…続く。

待っていたのもに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 28話 「足枷と烙印」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
彼女の目に浮かぶ
悲しみのようなものは
その入り口に違いないのでした。

きっと僕には、手が負えない…
そう感じながらも
その目に浮かぶ闇から
逃れることが出来ませんでした。

彼女の瞳は、僕の腕を縛り
その声は、
僕に足枷を嵌めました。

きっと僕は、彼女を傷つける…
そう羽交い締めにされながらも
どうしようもなく
彼女に惹かれている自分自身を
認めざるを得なかったのです。
彼女の瞳に浮かぶ悲しみの
謎が知りたくて…。
僕は諦めにも似た気持ちで
その入り口の鍵を手にしました。
そして、嘲笑うかのように
差し出された台帳に
執着という烙印を
押すのでした…続く。

その鍵に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 27話 「悲しみの入り口」

聞こえてますか?
昨日の続き…。
ただ分かっていることは、
僕らが生きていると云うことと
彼女が泣いていたと云うこと。
そしてそれは、
僕が最初に見た
彼女の慟哭であったのです。

彼女は、故意に
凪いだ海を時化た海に
変えたがるところがありました。
ゆるやかな波に自ら波をたてて
嵐を呼んでしまうのです。
それは、決まって
彼女が深くお酒を飲んだ時に
現れるのでした。

穏やかな物事にどこか
不安を覚えるように…
時には、
深い疑念を持つかのように…
または、
乾いた喉を潤すかのように…
そしてそれを
恐れるかのように…。
彼女自信ですら分からない
その謎に怯えながらも
とてつもない嫌悪を
抱いているようでありました。
その心の葛藤の中で
そうしたそれは、
カタチを変えて
顔を出すのかも知れません。

彼女の目に浮かぶ
悲しみのようなものは
その入り口に
違いないのでした…続く。

生かされていることに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 26話 「慟哭」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
閃光!
後方車のパッシングに
見失う冷静と座標軸。
激突!
迫る来る中央分離帯。

回避!
動物特有の条件反射は、
バンドルを無意識のうちに
左へと誘う。
圧力!
負荷がかかるその自然の摂理が、
彼女を車外へと押し出す。
咄嗟!
扇がパラパラと開くように
放たれたドア。
助手席から伸びた彼女の腕だけが
疾走するコンリートの上で
その身を支えている。
本能!
切り返したバンドルは、
振り子のように彼女を引き戻す。
止まるに止まれない高速道路。
僕は、もう一方の手で
彼女を掴み
そのドアを閉めるように叫ぶ。
彼女は、
その細い腕をVの字に曲げて
力強く握り締めたその右手で
ドアノブを引き寄せる。
後方にいた筈の物体は、
間一髪で分離帯と
ドアの狭間をすり抜けた…。

一瞬のようであり
スローモーションのように
もっとゆっくりであったの
かも知れません。
ただ分かっていることは、
僕らが、生きていると云うことと
彼女が、泣いていたと云うこと。
そしてそれは、
僕が最初に見た
彼女の慟哭であったのです…続く。

生きていることに感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 25話 「慟哭 」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
中央道を抜けた辺りから
僕らの激しい口喧嘩が、
始まってしまいました。
永福町の頭上を走る首都高速。
草臥れた中古車は、
時速80キロのスピードで
駆け抜けていました…続く。

午前2時30分。
真夜中の首都高速。
東京には珍しい
透明な夜空が澄み渡り
摩天楼を凌駕するかの如く
零れ落ちそうな銀色の星屑が
新宿の高層ビルを
包み込もうとしていました。
彼女は、自分のしていることが
分かっているのでしょうか。
これから起こる出来事を
想像すらしないのでしょうか。
彼女は、躊躇いもせずに
走行する車のドアを開けました…。

刹那!
蛇行する車体。
屈折する視界と不規則な回転音。
フロントガラスの
景色が一変する。
不自然な動きは
テールランプの腰振り。
けたゝましく鳴る
クラックション。
減速!
激しい摩擦音と歯車のタイヤ痕。
時に重力を失う車内。
瞬間!
前のめりに僕らは打っ伏す。
閃光!
後方車のパッシングに
見失う冷静と座標軸。
激突!
迫る来る中央分離帯…続く。

銀色の星屑に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 24話 「嵐の前」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
過去のことなど
関係ないことなのに…。
言わせたのは彼女の方でした…。
「帰る」それ以上彼女は、
何も言いませんでした。

午前2時00時。
それはいつもと変わらない
彼女を送る
船堀までのコースでした。
違うのは彼女でした。
荒井由実の♪中央フリーウェイ
でも知られる府中競馬場。
その側を通っても
彼女は俯いたまま無言を
貫いています。

草臥れた中古車は、
無理をしたエンジンの音だけを
この車内に響かせています。
嫌な予感がしました。
哀しいことにそれは、
僕の予想を
裏切ってはくれません。

中央道を抜けた辺りから
僕らの激しい口喧嘩が、
はじまりました。
永福町の頭上を走る首都高速。
草臥れた中古車は、
時速80キロのスピードで
駆け抜けていました…続く。

その日の夜に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて23話 「嵐の前」中編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
その瞳に浮かぶものは、
色と濃度を増し
何をするか解らない
危うさを秘めていたのでした。

午前1時30分。
百草高台の駐車場から
いつもの坂道を下り
聖蹟桜ヶ丘の大通りから
南西にのびる幹線道路
野猿街道を進みます。
僕らは無言のまま
ただひたすら
中央道の府中入り口を
目指していました。

何に怒っているのか
僕にはさっぱりわかりません。
でもやっぱり、何かの
地雷みたいなものを踏んだのは
間違いないようです。
黙ってはいるものの
彼女は、その怒りをためて
爆発の時を待っている
かのようでした。

思いあたるとすれば、
百草高台の屋根裏部屋…。
いつもとは違う
酒の酔い方であった
彼女との会話。
良かれと思って言ったひとこと。
その時に僕は、
彼女が本来隠し持つ
戦闘というスイッチを
押させたのかも知れません…。

そんな時の彼女は、
とても意地悪に
なってしまいます。
敢えて僕が聞きたくもない
話をしだすのです。
馬鹿でした…。
その手に乗ってしまったのです。
僕も焼けになって
昔の話を持ち出すのでした。

過去のことなど
関係のないことなのに…。
言わせたのは彼女の方でした…。
「帰る」それ以上彼女は、
何も言いませんでした…続く。

その経験に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 22話 「嵐の前」前編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
哀しい予感はいつも隣合わせ。
もしかしたら
彼女も僕と同じくらいの
質と量を含んだ不安を
感じてたのかも知れません。
そんな僕らの最初の夏は、
ほんの些細な喧嘩から
はじまってしまうのでした。

午前2時30分。
真夜中の首都高速。
東京には珍しい
透明な夜空が澄み渡り
摩天楼を凌駕するかの如く
零れ落ちそうな銀色の星屑が
新宿の高層ビルを
呑み込もうとしていました。

彼女は、自分のしていることが
分かっているのでしょうか…。
これから起こる出来事を
想像すらしないのでしょうか。
彼女は、躊躇いもせずに
走行する車のドアを開けました…。

午前〇時
船堀から百草高台に
遊びに来ていた彼女は、
珍しく酔っていました。
先に潰れてしまう僕を気遣い
見守り役に鐡する筈の
彼女の姿は
この日ありませんでした。
以前にも見た
悲しみのようなもを
その目一杯にためて
僕を見ています。
でもそれは、いつもとは違う
種類のものでした。

その瞳に浮かぶものは、
色と濃度を増し
何をするか解らない危うさを
秘めていたのでした…続く。

あの夜空に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 21話 「男と女」後編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
「お前は何者?」
僕はいつもその厚い壁の前で
それを突きつけられ
膝を屈します。
だけどね!…。
その先が言えない自分に
苛立ちを覚えるのでした。

男という生きものは、
どうして物事を
難しく考えたがるのでしょう。
段取りを愉しむように…。
集中力を試すかのように…。
女に頼られたいと望むのは
何故なのでしょう。
強くありたいと願うように…。
母親の愛を求めるかのように…。

彼女にしたら
大事なことはもっと別の場所
にあるようでした。
それは会話の端々に…
ふとした仕草の中に…
その眼差しに…
隠されているのかも知れません。

女は必ずシグナルを送り
証拠としてそれを
何処か別の場所に残すようです。
男はいつもそれを見逃し
後になってまるで刑事のように
原因究明にあたるようです。

哀しい予感はいつも隣合わせ。
もしかしたら
彼女も僕と同じくらいの
質と量を含んだ不安を
感じていたのかも知れません。
そんな僕らの最初の夏は、
ほんの些細な喧嘩から
はじまってしまうのでした…続く。

あの頃に感謝して
また、明日。

汚れなき愛を信じて 20話 「男と女」中編

聞こえてますか?
昨日の続き…。
そのボディーブローのように
繰り返えされる
彼女の男たちの話は
後に堪えるものでした。

何より彼女の理想の男性は、
ガッチリとした男らしい人…
大のプロレスファンで
あるのでした。
「三沢チョプ」などと言いながら
ふざけて来ます。
?であります。
「アハハ」と笑う他ありません。
知らないのです。
観て来なかったのです。
彼女が言いました。
「三沢光晴が私のタイプ!」
ダウンです。
相手はタイガーマスクです。
伊達直人であります。
敵う相手ではありません。
僕とはあまりにも真逆。
よくもまあ いけしゃあしゃあと
そんな事が言えたもの
であります。

哀しい予感はいつも隣合わせ。
余裕を持たない心は、
焦りを生んでしまいます。
それは彼女にと言うよりも
自分に問いかけた時に
来るものに似ていました。
「お前は何者?」
僕はいつもその厚い壁の前で
それを突きつけられ
膝を屈します。
だけどね!…。
その先が言えない自分に
苛立ちを覚えるのでした…続く。

その壁に感謝して
また、明日。